『性格検査』は誰が作ったの?歴史を変えた心理学者と5つの研究の道

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性格検査は、一人の天才が発明したものではありません。ゴルトン、ロールシャッハ、オールポート、キャッテル、ハサウェイらの研究は、どのように現在の性格検査へつながったのでしょうか。本記事では、性格検査の歴史を「5つの研究の道」からたどり、研究者たちの功績と限界、現代心理学に受け継がれた考え方まで、初心者にも分かりやすく解説します。

『性格検査』の歴史を変えた5つの研究の道と6人の研究者

代表例

性格診断の向こう側にいたのは、誰?

ある日、友達から、

「この性格診断、すごく当たるよ」

と勧められました。

画面に表示される質問へ答えていくと、

「あなたは慎重で、責任感が強い傾向があります」

という結果が出ました。

「確かに、自分に当てはまっている気がする」

そう思った一方で、ふと疑問が浮かびます。

「そもそも、人の性格を質問で調べようと考えたのは誰なのだろう?」

「性格検査は、一人の天才が発明したものなの?」

「質問、統計、インクの模様など、なぜこれほど違う方法があるのだろう?」

私たちは、スマートフォンで気軽に性格診断を受けられる時代に生きています。

しかし、その背景には、100年以上にわたる心理学・精神医学・統計学などの研究の積み重ねがあります。

そして、現在の性格検査へ続く道は、一つだけではありませんでした。

人と人との違いを数字で測ろうとした道。

性格を表す言葉から、人の特徴を整理しようとした道。

大量のデータを統計的に分析しようとした道。

実際の回答の違いから、質問紙を作ろうとした道。

曖昧な模様の見え方から、人の心理を理解しようとした道。

この記事では、こうした五つの道を代表する研究者をたどりながら、性格検査がどのように生まれ、現在まで発展してきたのかを分かりやすく紹介します。

30秒でわかる結論

現在の性格検査は、一人の研究者が突然作り上げたものではありません。

人の違いを数字で測る研究。

性格を言葉で整理する研究。

大量の情報を統計でまとめる研究。

曖昧な模様への反応を調べる研究。

実際の回答差から質問紙を作る研究。

こうした異なる研究が重なり、現在の性格検査が発展してきました。

この記事では、

  • フランシス・ゴルトン
  • ヘルマン・ロールシャッハ
  • ゴードン・オールポートとヘンリー・S・オドバート
  • レイモンド・キャッテル
  • スターク・ハサウェイとJ・C・マッキンリー

の研究を通して、性格検査へつながる五つの道を紹介します。

噛み砕いていうなら、性格検査の歴史は、一人の天才の発明ではなく、違う疑問を持った研究者たちが、それぞれの方法で人の心へ近づいてきた歴史なのです。

小学生にもわかる答え

性格検査は、一人の人が全部を作ったものではありません。

大きな「道具箱」を想像してみてください。

ここでいう道具とは、ハンマーやはさみではなく、性格を調べるための考え方や方法のことです。

その道具箱の中には、

  • 人と人の違いを数字で比べる方法
  • 性格を表す言葉を集める方法
  • たくさんの答えを分かりやすく整理する方法
  • 質問への答え方を比べる方法
  • 絵や模様をどう見るかを調べる方法

などが入っています。

でも、最初から全部の方法がそろっていたわけではありません。

ある人は、

「人と人の違いは、数字で表せるのかな?」

と考えました。

別の人は、

「性格を表す言葉を集めたら、その人らしさが分かるかもしれない」

と考えました。

また別の人は、たくさんの人の答えを集めて、似ているところを数字で整理しました。

質問を使う検査を作った人もいれば、インクの模様が何に見えるかを調べた人もいました。

やり方はそれぞれ違います。

けれども、みんなが考えていたことには、共通するところがありました。

「目には見えない性格を、どうすればもっとよく知ることができるのだろう?」

という疑問です。

噛み砕いていうなら、性格検査の歴史は、一人の天才がすべての答えを見つけた物語ではありません。

何人もの研究者が、それぞれ別の方法を考え、あとから来た人たちが確かめたり、直したりしながら発展させてきた歴史なのです。

それでは、その道具箱を少しずつ作ってきた研究者たちを、一人ずつ見ていきましょう。

1. 『性格検査』について、このようなことはありませんか?

性格診断や心理テストを見ていると、こんな疑問を感じることはないでしょうか。

性格を測ろうとした最初の人は誰なの?

インターネットでは、いくつもの性格診断を見かけます。

しかし、

「近代心理学では、誰が人の違いを測ろうとしたのだろう?」

と考える機会は、あまりないかもしれません。

人の性格を分類する考え自体は、古代から存在していました。

ただし、現在の心理検査のように、一定の手続き、データ、統計、信頼性や妥当性などを意識した測定は、後の時代に少しずつ発展したものです。

どうして性格検査には違う方法があるの?

質問へ答える検査もあれば、絵や模様を見る検査もあります。

数字を足し続けるような作業を使うものもあります。

「同じ性格を調べるのに、どうして方法がこれほど違うの?」

と不思議に思うかもしれません。

その理由は、研究者によって「性格をどのような情報から理解するか」という考えが違ったからです。

本人の回答を重視する人もいました。

言葉の中に現れる性格の違いを調べる人もいました。

実際の行動や、曖昧な刺激への反応へ注目する人もいました。

性格検査は、一人の天才が発明したと思っていた

「電話を発明した人」「電球を発明した人」のように、性格検査にも一人の発明者がいると思うかもしれません。

しかし、「性格検査」は一つの検査の正式名称ではありません。

質問紙法、投影法、作業検査法など、さまざまな方法や個別の検査を含む大きな呼び方です。

そのため、

「性格検査を作ったのは誰?」

という問いへの答えは、一人の名前では終わりません。

名前は聞いたことがあるけれど、何が違うの?

ロールシャッハ法。

ビッグファイブ。

MMPI。

どれも性格に関係する言葉ですが、同じ種類のものではありません。

  • ロールシャッハ法は、インクの模様への反応を扱う心理検査
  • ビッグファイブは、性格を五つの大きな特性から整理するモデル
  • MMPIは、本人の回答を用いる専門的な質問紙検査

です。

名前だけを聞くと似て見えますが、その成り立ちも、目的も、使う情報も違います。

昔の研究者が言ったことは、今でもすべて正しいの?

歴史に残る有名な研究者であっても、その主張がすべて現在まで支持されているわけではありません。

後の研究によって修正された考えがあります。

再現されなかった研究結果もあります。

倫理的・社会的に重大な問題を持つ思想もありました。

たとえば、ゴルトンは個人差の測定や統計的方法に影響を残した一方で、優生学を提唱した人物でもあります。

功績があるからといって、有害な思想まで正当化されるわけではありません。

歴史を学ぶときは、

何を発展させたのか

だけでなく、

何が誤っていたのか
何が批判されたのか
現在はどのように修正されているのか

まで見る必要があります。

キャッチフレーズ風に言うならば

性格検査は、誰が作ったの?

人の違いは、本当に数字で測れるの?

性格を表す言葉は、どうして研究に使われたの?

ビッグファイブは、一人の心理学者が発見したの?

MMPIは、なぜ専門家の印象ではなく回答データを重視したの?

ロールシャッハは、なぜインクの模様へ注目したの?

昔の研究は、現在もそのまま正しいの?

どれも、性格検査の歴史を知ろうとすると自然に浮かぶ疑問です。

この記事では、人物の名前や年号を覚えるだけではなく、それぞれの研究者が、

  • どのような疑問を持ったのか
  • どのような方法を使ったのか
  • 現在の性格検査へ何を残したのか
  • どのような限界や問題があったのか

まで紹介します。

この記事を読むメリット

この記事を読むと、次のことが分かります。

  • 性格検査が一人の発明ではない理由
  • 性格研究へつながった五つの異なる道
  • ゴルトン、オールポート、キャッテル、ハサウェイ、ロールシャッハの功績
  • MMPIがハサウェイとマッキンリーによって開発された背景
  • 特性論、因子分析、質問紙、インクブロット法の違い
  • ゴルトンの優生学を含む、過去の研究の問題点
  • 昔の理論が現在どのように再検証・修正されているか
  • 性格検査を無条件に信じないための歴史的な見方

歴史を知ると、性格検査が「人を当てる不思議な道具」ではなく、多くの仮説、データ、失敗、批判、改訂によって作られてきた研究の成果であることが見えてきます。

普段何気なく見ている性格診断の向こう側には、どのような人々がいたのでしょうか。

その足跡を、一緒にたどってみましょう。

2. 疑問が浮かんだ物語

同じ「性格」を調べるのに、なぜ方法が違うの?

高校生のユウキさんは、友達に勧められた性格診断をきっかけに、図書室で心理学の入門書を開きました。

そこには、

  • MMPI
  • ビッグファイブ
  • ロールシャッハ法

という名前が並んでいます。

最初は、どれも似た性格診断だと思っていました。

しかし、MMPIは多くの質問に答える検査、ビッグファイブは性格を五つの特性から整理する考え方、ロールシャッハ法はインクの模様が何に見えるかを答える方法です。

ユウキさんは、不思議に思いました。

「同じ性格を調べるのに、どうして方法がこんなに違うんだろう?」

さらに本を読むと、五人の研究者が登場します。

フランシス・ゴルトン。

ゴードン・オールポート。

レイモンド・キャッテル。

スターク・ハサウェイ。

ヘルマン・ロールシャッハ。

ある人は、人の違いを数字で測ろうとしました。

ある人は、性格を表す言葉を集めました。

統計で特徴を整理した人、実際の回答差から質問紙を作った人、曖昧な模様の見え方へ注目した人もいます。

「この人たちは、一つの検査を順番に作ったわけではないのかな?」

ユウキさんの頭には、一本の道を進む研究者ではなく、数字、言葉、統計、質問紙、インクの模様という、別々の道を進む姿が浮かびました。

それぞれの方法は違っても、向き合っていたのは、

「目に見えない人の性格を、どうすれば理解できるのか?」

という同じ大きな問いだったのかもしれません。

しかし、有名な研究者の考えが、すべて正しかったとは限りません。

後から批判された思想や、修正された方法もあります。

性格検査の歴史は、偉人の名前を覚えるだけの物語ではなく、成功と失敗を繰り返しながら、人の違いを理解しようとしてきた歴史なのです。

五人の研究者は、それぞれどのような道を切り開いたのでしょうか。

その答えを、次の章で確かめてみましょう。

3. すぐにわかる結論

五つの研究の道は、一つの検査を作るリレーではありません

お答えします。

この記事で紹介する研究者たちは、一つの性格検査を順番に作った人々ではありません。

それぞれが異なる疑問と方法から、人の性格や個人差へ近づこうとしました。

フランシス・ゴルトンが開いた道

ゴルトンは、人と人との違いを観察するだけでなく、測定し、数値やデータとして比較しようとしました。

現在の性格検査を直接作った人物ではありませんが、個人差を測定する研究や、後の心理測定へ影響を与えました。

一方で、優生学を提唱した人物でもあり、その有害な思想は、測定や統計への功績とは分けて考えなければなりません。

ヘルマン・ロールシャッハが開いた道

ロールシャッハは、曖昧なインクの模様を、人がどのように知覚し、意味づけるかに注目しました。

1921年(大正10年)に『Psychodiagnostik』を刊行し、インクブロットへの反応を人物理解へ利用する方法の基礎を示しました。

現在のロールシャッハ法には、彼の死後に行われた研究や改訂も含まれています。

ゴードン・オールポートが開いた道

オールポートは、性格を、その人に比較的持続して見られる「特性」から理解しようとしました。

また、ヘンリー・S・オドバートとともに、人の違いを表す大量の言葉を辞書から集めました。

この語彙研究は、後の性格特性研究やビッグファイブへつながる重要な土台になりました。

レイモンド・キャッテルが開いた道

キャッテルは、多数の性格表現や回答を、因子分析などの統計的方法で整理しました。

その研究は、16PFという質問紙や、後の五因子研究へ影響を与えました。

ただし、キャッテルが因子分析そのものや、現在のビッグファイブを一人で作ったわけではありません。

スターク・ハサウェイとJ・C・マッキンリーが開いた道

ハサウェイとマッキンリーは、実際の患者群と比較群の回答差を重視してMMPIを共同開発しました。

質問が理論上もっともらしいかではなく、

「実際の回答に違いが現れたか」

を尺度づくりへ利用した点が重要です。

またMMPIでは、心理的な特徴だけでなく、結果をどの程度解釈できるかを考えるため、回答傾向を検討する方法も発展しました。

五つの道が教えてくれること

ここまでの研究は、一本の道を順番に進んだものではありません。

  • ゴルトンは、個人差を測定する道
  • ロールシャッハは、曖昧な視覚刺激への反応を扱う道
  • オールポートとオドバートは、性格を特性と言葉から捉える道
  • キャッテルは、多数の特性を統計的に整理する道
  • ハサウェイとマッキンリーは、実際の回答差から質問紙尺度を作る道

を発展させました。

噛み砕いていうなら、性格検査の歴史は、一本のリレーではありません。

異なる場所から出発した研究者たちが、別々の道を進みながら、人間という同じ大きな山を調べようとした歴史です。

山の正面を見た人もいれば、裏側を調べた人もいました。

高さを測った人もいれば、道の形を記録した人もいました。

どの一人も、山のすべてを見たわけではありません。

だからこそ現代の心理学では、一つの検査や理論だけで人を決めつけず、複数の情報や根拠を組み合わせて考えます。

また、歴史上の研究者についても、

  • 何を発展させたのか
  • 誰と共同で研究したのか
  • 何が現在へ受け継がれたのか
  • 何が批判され、修正されたのか
  • どのような倫理的問題があったのか

まで含めて見ることが大切です。

次の章では、まだ標準化された心理検査が存在しなかった時代に、人々が性格をどのように捉えていたのかを振り返ります。

そして、観察や分類による人物理解から、人の違いを測定し、データとして扱おうとしたフランシス・ゴルトンの研究へと進んでいきましょう。

4. 『性格検査』が生まれる前、人は性格をどう考えていたのか

性格検査が生まれるよりもずっと前から、人は、

「なぜ、人によって考え方や行動が違うのだろう?」

と考えてきました。

昔の人々が、性格をただの印象だけで語っていたわけではありません。

古代には、身体の状態と気質を結びつけて説明しようとする医学的な考え方がありました。

また、人の日常的な行動を観察し、

  • よく話す人
  • 怒りやすい人
  • 慎重な人
  • 疑い深い人

など、繰り返し見られる特徴から人物を理解しようとする試みもありました。

つまり、人の違いを観察し、いくつかの特徴に整理しようとする考えは、近代心理学が始まるよりも前から存在していたのです。

古代の「気質論」

古代ギリシャ医学では、身体の状態と、人の気分や行動には関係があると考えられていました。

その代表例が、身体には血液、黄胆汁、黒胆汁、粘液という四つの体液があり、そのバランスが健康状態に影響するという体液説です。

この考えは長い歴史の中で発展し、後の時代には、

  • 活発で社交的な気質
  • 怒りやすく行動的な気質
  • 物思いに沈みやすい気質
  • 落ち着いていて穏やかな気質

という四つの代表的な気質を説明する考え方と結びつけられました。

ただし、古代から同じ形の四分類が完成していたわけではありません。

また、体液の量やバランスによって人の性格が決まるという説明は、現在の医学や心理学では科学的な性格理論として支持されていません。

それでも、

「人には、比較的繰り返して現れる反応の違いがあるのではないか」

と考え、それをいくつかの特徴に分けようとした点は、性格研究の長い歴史を知るうえで興味深い試みです。

行動を観察して人物を描く考え方もあった

昔の人物理解には、医学的な気質論だけでなく、日常の行動を観察する方法もありました。

古代ギリシャのテオプラストスは、『人さまざま』や『性格論』などと訳される『Characters』で、人々の振る舞いを複数の人物像として描きました。

そこでは、よく話す人や疑い深い人などを、単なる一言の性格名ではなく、日常の場面でどのように振る舞うかによって表しています。

これは、現在のように質問へ答えて点数を出す性格検査ではありません。

文学的、倫理的な人物観察に近いものです。

しかし、

性格は、一度だけの行動ではなく、さまざまな場面で繰り返し現れる特徴から考えられるのではないか

という発想を感じさせます。

昔の性格分類と、現代の性格検査は何が違うの?

昔の気質論や人物観察にも、人間を理解しようとする工夫がありました。

しかし、現代の性格検査とは、目的や方法が異なります。

現代の心理検査では、

  • 誰が受けても、できるだけ同じ条件で実施する
  • 実施方法や採点方法を決めておく
  • 結果がどの程度安定するかを確かめる
  • 結果の解釈や利用に十分な根拠があるかを調べる
  • 適切な集団から集めたデータと比較する
  • 特定の文化や立場の人だけに不利にならないかを検討する

といった手続きが重視されます。

昔の性格分類には、現代でいう標準化、信頼性、妥当性、公平性、統計的な比較などの考え方が、十分に整っていたわけではありません。

人を観察し、特徴を分類することはできても、

「同じ手順で測り、結果の根拠をデータから確かめる」

という段階には、まだ至っていなかったのです。

観察から「測定」へ

19世紀後半になると、心理学や統計学の発展とともに、

「人と人との違いは、実際に測ることができるのではないか?」

という考えが強くなっていきます。

人間の身体的、感覚的、心理的な個人差を、印象や人物評だけでなく、測定した結果やデータとして扱おうとする動きです。

その流れの中で、個人差を測定し、統計的に整理することへ強い関心を向けた代表的な人物が、フランシス・ゴルトンでした。

ゴルトンは1884年(明治17年)に「Measurement of Character」という論考を発表し、性格を測る可能性についても考察しています。

ただし、ゴルトンが現在の性格検査をそのまま作ったわけではありません。

彼の重要性は、人の違いを観察するだけでなく、測定し、多くのデータから比較しようとした点にあります。

また、ゴルトンの研究には、後の個人差研究や統計的方法へつながる功績がある一方、優生学という重大な問題もあります。

次の章では、ゴルトンが何を測ろうとしたのか、何を後の研究へ残したのか、そして彼の思想の何が現在では否定されているのかを、功績と問題の両面から見ていきましょう。

5. 『フランシス・ゴルトン』人の違いは、本当に測れるのか

第4章では、昔から人が気質や行動の違いを観察し、性格を分類しようとしてきたことを見てきました。

しかし19世紀後半になると、人間の違いを観察するだけでなく、同じ方法で測定し、数字やデータとして比較しようとする研究が発展します。

その流れを理解するうえで重要な人物が、フランシス・ゴルトンです。

フランシス・ゴルトンとは?

フランシス・ゴルトンの英語名は、Francis Galtonです。

後に爵位を授けられたため、サー・フランシス・ゴルトン(Sir Francis Galton)とも呼ばれます。

ゴルトンは、1822年(文政5年)2月16日にイギリスで生まれ、1911年(明治44年)1月17日に亡くなりました。

探検、気象学、人類学、遺伝研究、統計など、幅広い分野に取り組んだ研究者です。

進化論で知られるチャールズ・ダーウィンとは親族関係にあり、一般には「いとこ」と紹介されます。

ただし、ゴルトンは現在の性格検査を直接開発した心理学者ではありません。

性格検査の歴史における彼の重要性は、人間の個人差を測定し、多くのデータから比較しようとしたことにあります。

「人によって違う」だけでは科学にならない

人によって、背の高さ、力の強さ、物の見え方、反応の速さ、得意なことなどは違います。

しかし、

「あの人は力が強そうだ」

「この人は反応が速そうだ」

という印象だけでは、違いを正確に比較できません。

ゴルトンは、人間の違いを理解するためには、

同じ条件で測り、数値として記録し、多くの人と比較する必要がある

と考えました。

この発想は、現代の心理検査で重視される標準化や基準データと、そのまま同じものではありません。

しかし、人間の個人差を印象だけでなく、測定結果として扱おうとした点で、後の心理測定へつながる重要な一歩でした。

1884年(明治17年)の人類測定研究所

1884年(明治17年)、ゴルトンはロンドンで開催された国際保健博覧会に、人類測定研究所(Anthropometric Laboratory:アンスロポメトリック・ラボラトリー)を設けました。

そこでは来場者を対象に、

  • 身長
  • 体重
  • 腕を広げた長さ
  • 呼吸能力
  • 握る力や引く力
  • 聴覚
  • 視覚
  • 色覚

などを、できるだけ同じ手順で測定しました。

料金を支払って測定を受けた人には、自分の結果が書かれた記録が渡されました。

ゴルトンは、こうして大勢の人から測定結果を集め、人間の特徴がどのように分布し、互いにどのような関係を持つのかを調べようとしたのです。

ただし、身長や握力を測れば、そのまま性格が分かるわけではありません。

当時のゴルトンは、感覚の鋭さなどが知的能力と関係する可能性も考えていましたが、その仮説のすべてが後の研究で支持されたわけではありません。

ゴルトンの重要性は、測定した項目のすべてが正しかったことではなく、人の違いを同じ方法で測り、大量のデータとして比較しようとしたことにあります。

ゴルトンは性格そのものも測ろうとしたの?

ゴルトンは、身体や感覚だけに関心を持っていたわけではありません。

1884年(明治17年)には、「Measurement of Character(メジャメント・オブ・キャラクター/性格の測定)」という論考を発表しました。

ゴルトンは、性格を身長のように直接測ることは難しいと理解していました。

そこで、日常の行動、周囲からの評判、性格を表す言葉などを手がかりに、性格を測定できないかと考えました。

この中で注目したものの一つが、性格を表す言葉です。

たとえば、

  • 親切
  • 慎重
  • 活発
  • 怒りやすい

といった言葉が存在するのは、それだけ人々が日常生活の中で、その違いを重要だと感じてきたからではないか。

この発想は、後にゴードン・オールポートとヘンリー・オドバートが発展させた語彙研究や、さらに後のビッグファイブ研究へつながる先駆的な考えとなりました。

ただし、ゴルトンがビッグファイブを発見したわけではありません。

彼は、性格を表す日常語を研究資料として使える可能性を、早い時期に示した人物です。

大量の個人差を、統計で捉えようとした

多くの人のデータを集めても、数字を並べるだけでは、その関係は分かりません。

ゴルトンは、親と子の身長などを調べる中で、特徴と特徴の関係を数量的に考えました。

その研究から、後の統計学で重要になる、

  • 回帰
  • 相関

の基礎となる考え方が発展しました。

「回帰」は、極端な特徴を持つ親の子どもが、集団の平均へ近い特徴を示す傾向を分析する過程から生まれました。

「相関」は、一つの特徴が変化するとき、別の特徴もどの程度一緒に変化するかを考える方法へつながります。

ただし、現在使われている相関係数や統計的方法を、ゴルトン一人が完成させたわけではありません。

カール・ピアソンをはじめとする後の研究者たちが、数学的・統計的に整備しました。

現代の性格検査でも、質問同士の関係、検査得点の安定性、ほかの行動との関連などを、統計的に検討します。

ゴルトンが開いた「個人差を大量のデータから捉える」という道は、こうした心理測定の基礎へつながりました。

優生学という重大な問題

ゴルトンの研究を紹介するとき、優生学の問題を避けることはできません。

ゴルトンは1860年代から、人間の才能、能力、性格などが強く遺伝すると考え、選択的な結婚や生殖によって、人間集団を「改善」できると主張しました。

そして1883年(明治16年)、eugenics(ユージェニクス/優生学)という名称を作りました。

しかし、優生学は、知能、性格、貧困、犯罪など、遺伝と環境が複雑に関係する特徴を、単純な遺伝によって説明しました。

さらに、人間を「優れている」「劣っている」と序列化し、特定の人々の生殖や権利を制限する考えへつながりました。

優生学は後に、イギリス、アメリカ、ドイツなど各国の運動や政策へ影響し、

  • 強制不妊
  • 隔離
  • 移民や人種をめぐる差別
  • 障害者への迫害
  • 人間の生命や尊厳の否定

を正当化するために利用されました。

特にナチス・ドイツでは、人種衛生政策や大量虐殺へ結びつきました。

現在、優生学は科学的にも倫理的にも正当化できない思想です。

人間の複雑な特徴を、単純な遺伝だけで説明することはできません。

また、検査や統計によって、人間の価値を順位づけることもできません。

ゴルトンの測定や統計への貢献を学ぶことは、優生学を肯定することではありません。

むしろ、

測定や統計は、使い方を誤れば、人を理解する道具ではなく、人を選別し、傷つける道具にもなり得る

という重要な教訓まで学ぶ必要があります。

なぜゴルトンは、性格検査の歴史で重要なのか

ゴルトンは、現在の性格検査を完成させた人物ではありません。

また、彼の仮説や思想のすべてが正しかったわけでもありません。

それでも性格検査の歴史で重要なのは、次の考えを強く押し進めたからです。

  • 人には測定できる個人差がある
  • 多くの人を同じ方法で調べる
  • 結果を数値として記録する
  • 大量のデータから関係や傾向を探す
  • 性格を表す言葉も研究資料になり得る

こうした考えは、後の心理測定、特性論、質問紙法、統計的な性格研究へ影響を与えました。

ゴルトンが残したのは、完成された性格検査ではありません。

「人の違いを、印象ではなく測定とデータによって調べられるのか」

という問いでした。

しかし、その問いを追う過程では、何を測るのかだけでなく、

その数字を何のために使うのか
数字によって人を傷つけていないか
測定できることと、人間の価値を決めることを混同していないか

まで考えなければなりません。

次の章では、ゴルトンとは別の道から、曖昧なインクの模様を人がどのように見るのかへ注目した、ヘルマン・ロールシャッハの研究を見ていきましょう。

6. 『ヘルマン・ロールシャッハ』曖昧な形を、人はどう見るのか

第5章で紹介したフランシス・ゴルトンは、多くの人の違いを測り、数字や統計によって比較しようとしました。

その一方で、人を理解するための道は、数字だけではありません。

曖昧な図形を目の前にしたとき、

「何が見えるのか」

「図形のどこに注目するのか」

「なぜ、そのように見えたのか」

という反応に目を向けた人物がいました。

スイスの精神科医、ヘルマン・ロールシャッハです。

ヘルマン・ロールシャッハとは?

正式な名前は、ヘルマン・ロールシャッハ(Hermann Rorschach)です。

1884年(明治17年)11月8日にスイスのチューリヒで生まれ、1922年(大正11年)4月2日に37歳で亡くなりました。

ロールシャッハは心理学者ではなく、精神疾患の診療と研究に携わった精神科医です。

精神分析にも関心を持っていましたが、現在まで名前が残っている最大の理由は、左右対称に近いインクの模様を使う心理検査の基礎を築いたことです。

その方法は、現在では一般に、

  • ロールシャッハ法
  • ロールシャッハ・テスト
  • Rorschach Inkblot Test(ロールシャッハ・インクブロット・テスト)

などと呼ばれています。

ただし、ロールシャッハが研究したのは、単なる「しみ占い」ではありません。

インクのしみそのものより、「どう見たか」に注目した

一枚のインクの模様を見て、

「チョウに見えます」

と答える人がいるかもしれません。

別の人は、

「向かい合っている二人に見えます」

と答えるかもしれません。

同じ図版を見ても、答えは一つではありません。

ロールシャッハが注目したのは、「チョウと答えたから、この性格」と単純に決めることではありませんでした。

たとえば、

  • 図版全体を使って見たのか
  • 一部分だけを使ったのか
  • 形を手がかりにしたのか
  • 色に注目したのか
  • 動いているように感じたのか
  • その見え方をどのように説明したのか

といった、反応の成り立ちを整理しようとしました。

つまり、重要なのはインクの模様だけではありません。

曖昧な形へ意味を与えるとき、その人が何を見て、どのように答えを組み立てたか

が、研究の中心だったのです。

現在の体系でも、答えの内容だけでなく、使用した図版の場所、形・色・動きなどの知覚的特徴、反応のまとまり方などを一定の基準で記録します。

1921年(大正10年)の『Psychodiagnostik』

ロールシャッハは、患者と患者ではない人々の反応を比較しながら研究を進めました。

そして1921年(大正10年)、研究成果をまとめた『Psychodiagnostik(プシコディアグノスティーク)』を刊行しました。

日本語では、一般に『精神診断学』と訳されます。

この著作でロールシャッハは、選び抜いた10枚のインクブロット図版を用い、人が曖昧な形をどのように解釈するかを、診断や人物理解へ活用する方法を示しました。

ただし、現在知られているロールシャッハ法のすべてが、この本だけで完成していたわけではありません。

ロールシャッハは『Psychodiagnostik』刊行の翌年、1922年(大正11年)に亡くなりました。

その後、複数の研究者が、実施、採点、解釈の方法を発展させました。

現在使われている方法には、ロールシャッハ本人の研究だけでなく、後世の改訂や研究が含まれています。

ロールシャッハ法は「深層心理を見抜く検査」なの?

ロールシャッハ法は、一般向けの記事や映画などで、

「本人も知らない深層心理を映し出す検査」

と紹介されることがあります。

しかし、この表現をそのまま受け取るのは適切ではありません。

ロールシャッハ法から得られるのは、曖昧な視覚課題に取り組んだときの、知覚、思考、言葉、問題解決、反応の特徴に関する情報です。

それらを通して、認知や対人理解などの一部を検討する場合があります。

しかし、一つの答えから、

「この人は本当は怒っています」

「この動物が見えたから危険な性格です」

と心の奥を断定することはできません。

また、「投影法」という分類は広く使われていますが、現代ではロールシャッハ法を、単に無意識を投影する検査としてではなく、曖昧な課題に対する行動・知覚のパフォーマンスを観察する方法として捉える立場もあります。R-PASは、ロールシャッハ課題を、本人が自分について説明する自己報告式検査とは異なる、標準化された行動課題として位置づけています。

噛み砕いていうなら、

「あなたは自分をどう説明しますか?」

と直接質問するのが質問紙法だとすれば、ロールシャッハ法は、

「答えが決まっていない課題へ、実際にどのように取り組みますか?」

を見る方法です。

ロールシャッハの何が新しかったのか

インクのしみを使った遊びや、曖昧な図形から何かを想像する試みは、ロールシャッハ以前にも存在していました。

そのため、ロールシャッハが「世界で初めてインクのしみを人に見せた人物」というわけではありません。

彼の重要な功績は、複数の図版を選び、反応を比較し、知覚の仕方を一定の視点から整理しようとしたことです。

言い換えるなら、

インクのしみを面白がる遊びから、反応を記録して検討する心理学的な方法へ近づけた

ことが、歴史上の重要な点です。

さらに、ロールシャッハ法は、性格検査を「本人が自分について答える質問紙」だけに限定しない道を開きました。

本人が自覚している特徴を尋ねるのではなく、課題へ取り組む実際の反応を資料にするという考え方です。

この点でロールシャッハは、後の心理アセスメントに異なる種類の情報をもたらした重要人物といえます。

なぜ10枚の図版なの?

現在のロールシャッハ法では、10枚の図版が使用されます。

白黒を中心とした図版、赤を含む図版、多色の図版があり、左右対称に近い複雑な模様になっています。

ロールシャッハは、多数の試作図版を検討し、その中から反応の違いを観察するための10枚を選びました。

ただし、図版にあらかじめ、

「これはコウモリです」

「これは人間の顔です」

という正解が描かれているわけではありません。

さまざまな見え方が生まれる余地を残しながら、完全に何にでも見えるわけではないという、曖昧さと形の手がかりを併せ持っています。

現代のR-PASでは、この課題を、複数の見え方が競い合う複雑な視覚課題として説明しています。

ロールシャッハ法は現在も正しいの?

ロールシャッハ法は現在も、一部の臨床や司法などの心理アセスメントで使用されています。

しかし、

「長く使われているから、すべて正しい」

とは言えません。

ロールシャッハ法には、歴史的に複数の実施・採点体系がありました。

採点者によって結果が変わる問題、基準となるデータの問題、解釈が過度に病理的になる危険などが批判されてきました。

こうした問題に対応するため、1974年(昭和49年)にはジョン・エクスナーが複数の方法をまとめた包括システムを発表しました。

その後も研究は続き、2011年(平成23年)ごろには、研究上の根拠を重視するRorschach Performance Assessment System(R-PAS:ロールシャッハ・パフォーマンス・アセスメント・システム)が公表されました。

R-PASは、実施者による違いを減らすこと、回答数の影響を調整すること、国際的な基準データを使うこと、十分な研究的根拠がある指標を重視することなどを目指しています。

有効か、無効かを一言では決められない

ロールシャッハ法については、

「科学的な検査です」

「まったく意味のない検査です」

という、正反対の説明を見かけることがあります。

しかし、どちらも単純化しすぎです。

2013年(平成25年)に発表された包括システムの主要変数に関するメタ分析では、認知、知覚、思考の特徴などに関係する一部の指標について、妥当性を支持する結果が示されました。

その一方で、十分な根拠が確認できなかった指標もありました。

また、投影法全般を調べた批判的な研究では、ロールシャッハ法やTATから得られる少数の指標には支持がある一方、多くの指標には十分な根拠がないとする評価もあります。

そのため、正確には、

ロールシャッハ法全体が万能なのでも、すべて無効なのでもなく、採点体系、具体的な指標、利用目的によって根拠の強さが異なる

と考える必要があります。

また、一つのロールシャッハ結果だけで、病気、性格、将来の行動などを決めるべきではありません。

専門的な心理アセスメントでは、面接、行動観察、質問紙、生活情報など、複数の資料と組み合わせて検討します。

なぜロールシャッハは、性格検査の歴史で重要なのか

ヘルマン・ロールシャッハが重要なのは、奇妙なインクの模様を作ったからだけではありません。

彼は、

  • 曖昧な刺激へどう反応するかを資料にした
  • 答えの内容だけでなく、知覚の仕方を整理しようとした
  • 自己報告とは異なる方法で人を理解する道を開いた
  • 後の投影法やパフォーマンス型の心理評価へ大きな影響を与えた
  • 現在も続く信頼性・妥当性の研究課題を残した

という点で重要です。

ゴルトンが、多くの人を測定し、違いを数字で比較する道を開いた人物だとすれば、ロールシャッハは、一人の人が曖昧な課題へどう向き合うかを、具体的な反応から理解しようとした人物でした。

二人の方法は大きく異なります。

しかし、どちらにも、

「目に見えない人の特徴を、観察できる情報から理解できないだろうか」

という共通の問いがありました。

ロールシャッハは、心を完全に見抜く答えを残したのではありません。

曖昧なものを人がどう見るかという、新しい「観察の窓」を心理アセスメントへ残したのです。

次の章では、インクの模様から離れ、性格を表す日常の言葉へ目を向けたゴードン・オールポートと、共同研究者ヘンリー・オドバートの研究を見ていきましょう。

7. 『ゴードン・オールポート』性格を「特性」の言葉で捉える

ゴルトンは、人と人との違いを測定し、数字やデータから調べようとしました。

ロールシャッハは、曖昧なインクの模様を人がどのように見るのかに注目しました。

では、性格について調べるとき、そもそも何を「その人の特徴」として扱えばよいのでしょうか。

慎重さ。

親切さ。

責任感。

社交性。

私たちは日常の中で、こうした言葉を使って人の性格を表しています。

この「性格を表す言葉」を大規模に集め、人の特徴を研究する材料にした重要人物が、アメリカの心理学者ゴードン・オールポートです。

ゴードン・オールポートとは?

正式な名前は、ゴードン・ウィラード・オールポート(Gordon Willard Allport)です。

1897年(明治30年)11月11日に、アメリカ・インディアナ州モンテズマで生まれ、1967年(昭和42年)10月9日に亡くなりました。

ハーバード大学で学び、1930年(昭和5年)から1967年(昭和42年)まで同大学の教員を務めました。人格特性の研究だけでなく、偏見や差別の心理についても重要な研究を残しています。ハーバード大学は、オールポートを人間の人格研究を切り開いた研究者として紹介しています。

性格検査の歴史でオールポートが重要なのは、特定の検査を一つ作ったからではありません。

人の性格を、いくつかの固定された「型」だけではなく、複数の特性の組み合わせとして理解する道を発展させたからです。

「特性」とは何だろう?

親しい友人について説明するとき、どのような言葉を使うでしょうか。

「明るい人です」

「少し慎重です」

「責任感があります」

「困っている人に親切です」

こうした、その人に比較的繰り返して見られる特徴を、心理学では特性(trait:トレイト)と呼びます。

ただし、特性があるからといって、いつでも同じ行動をするわけではありません。

たとえば、普段は社交的な人でも、慣れない場所では静かになることがあります。

慎重な人でも、得意なことには思い切って挑戦するかもしれません。

オールポートの特性論では、特性は行動を機械のように一つへ決めるものではなく、環境やほかの特徴と関わりながら、その人らしい行動の傾向を生み出すものとして考えられました。APAも、オールポートの理論を、個人の独自性と行動の一貫性を理解するうえで、特性や個人的傾向を重視する理論と説明しています。

噛み砕いていうなら、特性とは、

「絶対にこう行動する」という命令ではなく、「このような行動をしやすい」という、その人らしい傾向

なのです。

特性にも種類があると考えた

オールポートは、すべての特性が同じ強さで人を表すわけではないと考え、特性を大きく三つの段階に分けました。

枢要特性

その人の生き方全体を強く支配し、人物の代名詞になるほど目立つ特徴です。

ただし、誰にでも枢要特性があるとは考えられておらず、比較的まれなものとされました。

中心特性

親しい人を説明するときに使うような、その人を代表する基本的な特徴です。

「誠実」「親切」「慎重」などが例になります。

二次特性

特定の場面や好みの中で表れやすい、中心特性より限定的な特徴です。

たとえば、普段は落ち着いていても、人前で発表するときだけ強く緊張する、といった傾向です。

この区別は、性格を一つの言葉で決めず、特徴には目立ち方や表れやすい場面の違いがあると考えるうえで重要でした。ハーバード大学も、オールポートの特性論を枢要特性・中心特性・二次特性の三段階として紹介しています。

辞書の中に「性格の地図」がある?

オールポートが注目したのは、人々が日常で使ってきた言葉でした。

もし人間関係の中で重要な性格の違いがあるなら、人々はその違いについて何度も話し、やがて一つの言葉を作るのではないか。

たとえば、

  • 親切
  • 無口
  • 慎重
  • 活発
  • 疑い深い

といった言葉が長く使われているのは、それらが人を理解するうえで重要だったからかもしれません。

ゴルトンも、性格を表す言葉へ早い時期から注目していました。

オールポートは、この着想を、共同研究者とともに大規模な辞書調査へ発展させました。

ヘンリー・S・オドバートとの共同研究

1936年(昭和11年)、オールポートは、心理学者ヘンリー・S・オドバート(Henry S. Odbert)と共同で、

『Trait-Names: A Psycho-Lexical Study』

を発表しました。

読み方は、

トレイト・ネームズ:ア・サイコ・レキシカル・スタディ

です。

日本語では、「特性名――心理語彙的研究」などと訳せます。

これは、オールポート一人による研究ではありません。原論文には、ゴードン・W・オールポートとヘンリー・S・オドバートの共同研究であることが明記されています。

二人は、当時の英語辞典を調べ、人間の行動や人物の違いを表す言葉を集めました。

その総数は17,953語でした。

ただし、この17,953語がすべて、現在の意味での安定した性格特性を表していたわけではありません。

二人は言葉を四つのグループへ分けました。

その中で、比較的持続する個人的傾向を表す第1群には、4,504語が分類されました。

ほかには、

  • 一時的な感情や気分
  • 人物に対する社会的な評価
  • 比喩的な表現や、人格との関連が曖昧な言葉

なども含まれていました。

原論文でも、厳密な意味で特性名と呼べるのは主に第1群であることが説明されています。

つまり、この研究は、

18,000種類の性格が存在すると証明した研究

ではありません。

人を表す言葉がどれほど豊富で複雑なのかを明らかにし、そこから性格研究に使える言葉を整理するための、巨大な材料集を作った研究なのです。

約18,000語も集めて、何が分かったの?

言葉を集めただけでは、それがどのような大きな性格のまとまりを作るかまでは分かりません。

しかし、材料がなければ、統計的に整理することもできません。

たとえるなら、オールポートとオドバートは、まだ完成していない大きな地図を作るために、地名を一つずつ集めたようなものです。

後の研究者たちは、その膨大な言葉の中から似た意味をまとめ、実際に人々を評価するための言葉を選び、統計的な分析を行いました。

この流れは、後に語彙アプローチと呼ばれる性格研究へ発展し、ビッグファイブ研究の重要な源流の一つになりました。

ただし、オールポートとオドバートが、ビッグファイブそのものを発見したわけではありません。

二人が用意したのは、後の研究者が性格の構造を調べるための、豊富な「言葉の材料」だったのです。

1937年(昭和12年)の『Personality』

1937年(昭和12年)、オールポートは代表的著書、

『Personality: A Psychological Interpretation』

を刊行しました。

読み方は、

パーソナリティ:ア・サイコロジカル・インタープリテーション

です。

日本語では、「人格――心理学的解釈」などと訳せます。同書は1937年にH. Holt and Companyから出版されました。

オールポートは、人格を、固定された性格名を並べたものとは考えませんでした。

心と身体に関わる複数の仕組みが、その人の内部で組織され、環境との関わりの中で、その人らしい行動を生み出す動きのある全体として捉えました。

つまり、

「慎重」「明るい」「親切」

という言葉をただ足し合わせれば、その人のすべてが分かるわけではありません。

特性同士がどのように関わり、その人の経験や目的、置かれた状況の中で、どのように表れるかまで考える必要があるのです。

オールポートはビッグファイブを作ったの?

オールポートは、ビッグファイブの発明者ではありません。

オールポートとオドバートの研究は、性格を表す大量の言葉を集め、後の研究に使える材料を示しました。

その後、レイモンド・キャッテルが言葉を絞り、因子分析などの統計的方法を使って、性格特性の構造を調べました。

さらに、アーネスト・タプスとレイモンド・クリスタル、ウォーレン・ノーマン、ルイス・ゴールドバーグ、ポール・コスタ、ロバート・マクレーなど、多くの研究者による検証と発展を経て、五つの大きな特性を扱う枠組みが広まりました。

したがって、オールポートは、

ビッグファイブを完成させた人物

ではなく、

後のビッグファイブへつながる、特性研究と大規模な語彙研究の土台を築いた人物

と位置づけるのが適切です。

なぜオールポートは性格検査の歴史で重要なのか

オールポートは、MMPIやロールシャッハ法のような、一つの有名な性格検査を作った人物ではありません。

それでも重要なのは、性格検査が「何を測ろうとするのか」を考える土台を整えたからです。

オールポートが残した重要な視点は、次のとおりです。

  • 人を一つの型だけで説明しない
  • 性格を複数の特性から考える
  • その人に固有の特性の組み合わせを重視する
  • 行動は特性だけでなく、場面との関係でも変わる
  • 日常語を性格研究の材料として利用する
  • 特性を整理し、後の測定研究へつなぐ

現在の特性型の性格検査では、外向性や誠実性など、複数の特徴について程度を測る方法が広く使われています。

その考え方をオールポート一人が完成させたわけではありません。

しかし、人格を特性から研究することを心理学の重要な課題として定着させ、後の測定研究が進む土台を築いた点で、性格検査の歴史に欠かせない人物なのです。ハーバード大学も、オールポートを人格特性理論の重要人物として位置づけています。

ゴルトンは、人の違いを測定する道を開きました。

ロールシャッハは、曖昧な課題への反応を観察する道を開きました。

そしてオールポートは、人の違いを「特性」という言葉で整理する道を大きく広げました。

けれども、約18,000もの言葉を集めただけでは、性格検査にはできません。

似た特徴をまとめ、その背後にある大きな構造を、データから見つける必要があります。

次の章では、オールポートとオドバートが集めた膨大な言葉を受け、因子分析などの統計的方法を使って性格を整理しようとした、レイモンド・キャッテルの研究を見ていきましょう。

8. 『レイモンド・キャッテル』大量の性格特性を統計で整理する

前の章では、ゴードン・オールポートとヘンリー・S・オドバートが、人の違いを表す大量の言葉を集めた研究を紹介しました。

しかし、何千もの言葉を集めただけでは、性格検査にはなりません。

「社交的」と「人付き合いが好き」は、似た特徴を表しているかもしれません。

「慎重」と「よく考えてから行動する」にも、共通する部分がありそうです。

では、似た特徴をまとめ、その背後にある基本的な性格特性を見つけることはできるのでしょうか。

この課題に、因子分析をはじめとする統計的方法で取り組んだ重要人物が、レイモンド・キャッテルです。

レイモンド・キャッテルとは?

正式な名前は、レイモンド・バーナード・キャッテル(Raymond Bernard Cattell)です。

1905年(明治38年)3月20日に、イギリスのウェスト・ブロムウィッチで生まれ、1998年(平成10年)2月2日にアメリカ・ハワイ州ホノルルで亡くなりました。

イギリスで生まれ、後にアメリカで活動した心理学者で、人格だけでなく、知能、動機づけ、統計的測定法など、幅広い分野を研究しました。

ハーバード大学は、キャッテルを、人格と知能の構成要素をより細かく測定するための分析的方法を発展させた、影響力のある心理学者として紹介しています。

性格検査の歴史でキャッテルが重要なのは、単に「16」という数を提案したからではありません。

大量の性格表現や回答の関係を統計的に整理し、測定可能な特性尺度へ発展させようとしたことが、大きな功績なのです。

複雑な性格にも、基本となる特徴があるのでは?

一人の人を表す言葉は、いくつもあります。

たとえば、

  • よく話す
  • 人前に出るのが好き
  • 初対面でも声をかけられる
  • 集団の中で活発に動く

という特徴は、別々の行動です。

しかし、その背後には「社交性」や「外向的な傾向」のような、より大きな共通点があるかもしれません。

キャッテルは、表面に見える多くの行動の奥に、より基本的な性格特性が存在すると考えました。

そして、そのまとまりを研究者の直感だけで決めるのではなく、実際のデータから見つけようとしたのです。

因子分析とは?

キャッテルが人格研究へ積極的に用いた代表的な方法が、因子分析(factor analysis:ファクター・アナリシス)です。

因子分析とは、多数の質問や評価の関係を調べ、似た動きをするものを、より少数のまとまりへ整理する統計的方法です。

たとえば、多くの人に、

  • 初対面の人にも話しかけやすい
  • にぎやかな集まりが好き
  • 人前で話すことを楽しめる
  • 一人で過ごす方が落ち着く

といった質問へ答えてもらったとします。

最初の三つへ同じように答える人が多く、最後の質問とは反対の関係が見られるなら、それらの回答の背後に、共通する特性があると推測できます。

噛み砕いていうなら、因子分析は、

たくさんの質問や特徴を、回答の似方からグループに整理する方法

です。

ただし、キャッテルが因子分析そのものを発明したわけではありません。

因子分析は、チャールズ・スピアマンやルイス・サーストンなどの先行研究から発展しました。キャッテルの重要性は、それを人格研究へ大規模かつ継続的に応用し、多次元的な性格測定へ発展させた点にあります。

オールポートたちが集めた言葉を、どう使ったのか

オールポートとオドバートは、人の違いを表す大量の英単語を収集しました。

キャッテルは、この語彙研究を出発点の一つとして、意味が重なる言葉をまとめ、使用頻度が低い言葉などを除きながら、分析する特性を段階的に絞りました。

ただし、

約4,500の特性語を、一度の因子分析で16個へ減らした

という単純な流れではありません。

言葉の整理、他者による人物評価、本人の質問紙回答、複数回の統計分析を重ねながら、性格構造を研究しました。

キャッテルは1946年(昭和21年)に『The Description and Measurement of Personality』を刊行し、人格の記述と測定に関する研究を体系化しています。

この段階で、性格を表す言葉は単なる辞書の項目ではなく、実際に測定し、関係を検討するための変数へ変わっていったのです。

表面特性と根源特性

キャッテルは、性格特性を大きく、表面特性根源特性に分けて考えました。

表面特性は、日常の中で一緒に現れやすい行動のまとまりです。

たとえば、

  • 人前でよく話す
  • 集団へ自分から入る
  • 新しい人へ積極的に声をかける

といった行動です。

一方の根源特性は、そのような複数の行動の背後にあり、共通して影響していると推定される、より基本的な特徴です。

キャッテルは、因子分析によって、表面に見える多くの行動から根源特性を見つけようとしました。

ただし、因子分析を行うと、脳の中に存在する「性格の部品」が直接見えるわけではありません。

因子は、回答や行動の関係から統計的に推定された構成概念です。

数字で示された因子を、体内に存在する物体のように受け取らないことが大切です。

16PFとは?

キャッテルの研究から発展した代表的な質問紙が、16PFです。

正式名称は、

Sixteen Personality Factor Questionnaire
(シックスティーン・パーソナリティ・ファクター・クエスチョネア)

です。

日本語では、「16人格因子質問紙」や「16因子性格検査」などと説明されます。

16PFは1949年(昭和24年)に初版が刊行されました。

その後、1956年(昭和31年)、1962年(昭和37年)、1968年(昭和43年)、1993年(平成5年)に主要な改訂が行われ、1993年版が第5版に当たります。

現在提供されている第5版は、レイモンド・B・キャッテルだけでなく、A・カレン・キャッテル、ヘザー・E・P・キャッテルらの名前で刊行されています。

したがって、現在の16PF全体を、キャッテル一人だけの作品として扱うのは正確ではありません。

「16」は、16種類の性格という意味ではない

16PFという名前を見ると、

「人間を16タイプに分ける検査なの?」

と思うかもしれません。

しかし、16PFは、人を16種類のうち一つへ分類する検査ではありません。

一人ひとりが、16の主要な特性について、それぞれ異なる程度を持っていると考えます。

つまり、

「あなたは16タイプのうち、この人です」

と決めるのではなく、

「16の特徴について、どのような組み合わせを持っていますか」

とプロフィールを作る検査です。

16PF第5版も、正常範囲の人格特性を複数の尺度から評価する質問紙として提供されています。

この点は、性格を一つの型ではなく、複数の特性の組み合わせとして考えたオールポートの流れとも重なります。

キャッテルは、質問紙だけを見ていたのではない

キャッテルは、人格を一種類の情報だけから研究すべきではないと考えました。

そこで、性格研究に用いる情報を、代表的に次のように区別しました。

Lデータ

Life-record data(ライフ・レコード・データ)です。

学校や職場での記録、日常行動、周囲の人による評価など、実生活に表れた情報を扱います。

Qデータ

Questionnaire data(クエスチョネア・データ)です。

本人が質問紙へ回答し、自分について報告した情報です。

16PFは、主にこのQデータを用いる質問紙です。

Tデータ

標準化された課題へ取り組んだときの反応から得られる、objective test dataなどと説明される情報です。

本人へ性格を直接質問するのではなく、課題中の行動や成績を資料にします。

この区別は、自己申告だけで性格のすべてを理解しようとせず、異なる情報源を比べる必要性を示しています。

ただし、現代の心理アセスメント全体が、キャッテルのL・Q・T分類だけを基礎にしているわけではありません。

現在では、面接、観察、自己報告、他者評定、行動課題、生活情報などを、目的に応じて組み合わせます。

キャッテルはビッグファイブを作ったの?

お答えすると、キャッテルはビッグファイブを一人で作った人物ではありません。

キャッテルの16因子研究は、後の研究者が人格の因子構造を再分析するための重要な資料となりました。

その後、アーネスト・タプスとレイモンド・クリスタル、ウォーレン・ノーマン、ルイス・ゴールドバーグ、ポール・コスタ、ロバート・マクレーなど、多くの研究者が五因子構造を検討しました。

また、コスタとマクレーは16PFの項目を分析する過程から、神経症傾向、外向性、経験への開放性に関係する三つの次元を発展させ、後に五因子モデルへ研究を広げました。

ただし、キャッテルの16因子や上位因子と、現在一般にいうビッグファイブは完全に同じものではありません。

16PFと五因子モデルの関係を調べた研究でも、両者の対応と同時に、構造上の違いが検討されています。

したがってキャッテルは、

ビッグファイブの発見者

というより、

性格語と質問紙回答を因子分析で整理し、後の五因子研究へ重要な資料と方法を残した人物

と位置づけるのが適切です。

「16因子」は唯一の正解なの?

16PFは、人格研究と性格検査の歴史で重要な検査です。

しかし、

人間の性格は、必ず16因子に分けられる

と心理学全体で決着したわけではありません。

因子分析の結果は、

  • どの質問や言葉を使うか
  • 誰を対象に調べるか
  • どの統計的方法を使うか
  • 因子を何個残すか
  • 因子をどのように解釈するか

によって変わる場合があります。

16PFの尺度構造や信頼性については、支持する研究だけでなく、特定の尺度の心理測定上の問題や、16因子の再現性を批判的に検討した研究もあります。

これは、16PFがすべて無意味だということではありません。

大切なのは、長く使われている検査であっても、対象、言語、文化、利用目的ごとに、信頼性や妥当性を確認する必要があるということです。

キャッテルの功績は、「16」という最終回答を確定したことではありません。

性格の構造を、データから発見し、検査として繰り返し確かめる研究方法を大きく発展させたことにあります。

人物の功績と思想は、分けて考える必要がある

キャッテルは人格、知能、因子分析、心理測定へ大きな影響を残した一方、優生思想や人間集団を序列化する考えと結びつく著作も残しました。

1997年(平成9年)、アメリカ心理学会の生涯功績賞をめぐって、彼の人種観や優生思想に対する強い批判が起こりました。アメリカ心理学会の歴史資料にも、この賞をめぐって、人種主義、白人至上主義、優生学を支持したとの異議が申し立てられたことが記録されています。

この問題は、キャッテルの因子分析や16PFに関する研究成果が、すべて自動的に無効になるという意味ではありません。

しかし、測定や統計が、人を理解するためではなく、人間や集団を序列化するために使われる危険を考えるうえで、無視できない問題です。

科学上の功績を評価することと、有害な思想を肯定することは同じではありません。

人格検査の歴史を学ぶときには、

何を測定できるようにしたのか

だけでなく、

その測定を何のために使ったのか

まで問い直す必要があります。

なぜキャッテルは、性格検査の歴史で重要なのか

キャッテルが重要なのは、単に16PFという検査を残したからではありません。

彼は、

  • 大量の性格表現を統計的に整理した
  • 因子分析を人格研究へ広く応用した
  • 性格を複数の連続的な特性として測ろうとした
  • 表面特性と根源特性を区別した
  • L・Q・Tという異なる情報源を重視した
  • 16PFの開発を進めた
  • 後の五因子研究へ資料と方法を残した

という点で、性格検査の発展へ大きな影響を与えました。

オールポートとオドバートが、性格を表す言葉を集めたのだとすれば、キャッテルは、その膨大な材料を統計という道具で整理し、測定できる設計図へ変えようとした人物です。

ただし、その設計図が唯一の完成図だったわけではありません。

後の研究者たちは、別の質問、別の集団、別の文化、別の統計的方法を使って、キャッテルの提案を検証し直しました。

その積み重ねから、現在のビッグファイブを含む、複数の性格モデルが発展していったのです。

次の章では、因子分析とは異なる発想から、実際の患者群と比較群の回答差を使って質問紙尺度を作ろうとした、スターク・ハサウェイとJ・C・マッキンリーによるMMPIの開発を見ていきましょう。

9. 『スターク・ハサウェイ』と『J・C・マッキンリー』実際の回答差からMMPIを作る

前の章で紹介したレイモンド・キャッテルは、質問や性格表現の関係を因子分析で整理し、その背後にある性格特性を探しました。

しかし、質問紙を作る方法は、それだけではありません。

ある質問が、研究者の目には「抑うつと関係がありそう」に見えたとしても、実際には、抑うつ状態にある人と比較対象の人をほとんど区別できないかもしれません。

反対に、一見すると症状と関係がなさそうな質問でも、実際の回答を比べると、二つの集団で違いが現れる場合があります。

そこで、

「この質問は、理論上それらしく見えるか」

よりも、

「実際の人々の回答に、どのような違いが現れたか」

を重視して検査を作ろうとした二人がいました。

アメリカの心理学者スターク・ハサウェイと、医師J・C・マッキンリーです。

二人が共同で開発した質問紙が、MMPIでした。

MMPIの正式名称

MMPIは、

Minnesota Multiphasic Personality Inventory
(ミネソウタ・マルティフェイシック・パーソナリティ・インヴェントリー)

の頭文字を取った名称です。

日本語では、一般にミネソタ多面的人格目録またはミネソタ多面人格目録と訳されます。

「Minnesota」は、開発の舞台となったミネソタ大学に由来します。

「Multiphasic」は「多面的・多相的」、「Personality Inventory」は、人格や心理的特徴を調べるための質問項目をまとめた検査を意味します。

噛み砕いていうならMMPIは、

一つの性格タイプを当てるのではなく、人格や精神病理に関係する複数の特徴を、多面的に調べる専門的な質問紙

です。

気軽なインターネット診断のように、長所や相性を楽しむ目的で作られたものではありません。

もともとは、臨床場面における成人患者の評価を補助するために開発されました。

スターク・ハサウェイとは?

正式な名前は、スターク・ローズクランズ・ハサウェイ(Starke Rosecrans Hathaway)です。

1903年(明治36年)8月22日にアメリカ・ミシガン州で生まれ、1984年(昭和59年)7月4日に亡くなりました。

ハサウェイは、ミネソタ大学で活動したアメリカの臨床心理学者です。

機械、電気、測定装置などにも関心が深く、人間の心理を抽象的な印象だけで語るのではなく、観察可能なデータから調べようとする実証的な姿勢を持っていました。

性格検査の歴史でハサウェイが重要なのは、MMPIの質問項目や尺度を、専門家の理論だけではなく、実際に集めた回答データから構成する方法を発展させたことです。

ただし、MMPIはハサウェイ一人の発明ではありません。

臨床上の課題を共有したJ・C・マッキンリーとの共同開発でした。ミネソタ大学の心理学史でも、両者の共同研究として説明されています。

J・C・マッキンリーとは?

正式な名前は、ジョン・チャーンリー・マッキンリー(John Charnley McKinley)です。

1891年(明治24年)11月8日に、アメリカ・ミネソタ州ダルースで生まれ、1950年(昭和25年)1月3日に亡くなりました。

マッキンリーは、ミネソタ大学で医学博士号と、神経・精神疾患に関する博士号を取得した医師・研究者です。

同大学で最初の常勤神経学教員となり、神経学、神経病理学、精神医学に関係する診療・教育・研究へ携わりました。

マッキンリーがMMPI開発で果たした大切な役割は、病院で実際にどのような患者を評価し、どのような情報が臨床に必要なのかという医学的な問題意識を提供したことです。

つまりMMPIは、

  • 測定や質問紙作成に詳しい心理学者
  • 神経学・精神医学に詳しい医師

という、異なる専門性を持つ二人の共同研究から生まれたのです。

MMPIの開発はどのように始まったのか

ハサウェイとマッキンリーは、1937年(昭和12年)ごろから、ミネソタ大学病院の精神科で利用する新しい評価法の開発を始めました。

当時の目的は、臨床家の面接や観察だけに置き換わるものを作ることではありません。

成人患者に対する通常の精神医学的評価を補助し、状態の特徴や程度を、一定の方法で調べることでした。

1940年(昭和15年)、二人は最初期の構成論文、

“A Multiphasic Personality Schedule(Minnesota):
I. Construction of the Schedule”

を共同名義で発表しました。

これは、

ア・マルティフェイシック・パーソナリティ・スケジュール(ミネソタ):
第1報・質問紙の構成

という意味です。

この論文は、ハサウェイとマッキンリーによる共同研究であったことを明確に示しています。

原版MMPIは、その後1943年(昭和18年)に検査として公刊されました。

専門家の「勘」ではなく、回答の違いを見る

従来、心理検査の質問は、

「この質問なら、この性格や症状を調べられそうだ」

という理論や専門家の判断から選ばれることがありました。

もちろん、理論や専門家の知識は重要です。

しかし、質問がもっともらしく見えることと、実際に役立つことは同じではありません。

そこでハサウェイとマッキンリーは、

  1. 多数の質問文を用意する
  2. 特定の臨床群と比較群へ回答してもらう
  3. 両群の回答に違いが見られた項目を探す
  4. 違いを示した項目を尺度へまとめる

という方法を重視しました。

この方法は、一般に経験的基準法経験的尺度構成、英語では empirical criterion keying(エンピリカル・クライテリオン・キーイング)などと呼ばれます。

経験的基準法を、小学生にも分かるようにいうと

ここでは、仕組みを説明するための架空の例を考えてみましょう。

ある特徴を持つグループと、比較するグループへ、同じ50問に答えてもらいます。

その中に、

「休日には朝早く起きることが多い」

という質問があったとします。

質問の文章だけを読んでも、調べたい心理的特徴と関係があるようには見えません。

しかし、実際の回答を集めると、二つのグループで大きな差が現れたとします。

その場合、この質問は、尺度を作る候補になるかもしれません。

反対に、

「私はいつも悲しいです」

という、いかにも抑うつと関係しそうな質問であっても、二つのグループを十分に区別できなければ、尺度項目としては役立たない可能性があります。

つまり経験的基準法では、

質問の見た目より、実際に得られた回答差を重視する

のです。

キャッテルの因子分析とは何が違うの?

キャッテルも、質問や評価のデータを使いました。

しかし、二つの方法では、データに尋ねていることが違います。

キャッテルの因子分析では、

「どの質問が、似た回答のまとまりを作るのか?」

を調べます。

ハサウェイとマッキンリーの経験的基準法では、

「どの質問が、基準となる二つの集団を実際に区別したのか?」

を調べます。

因子分析が「質問同士の関係」を探すのに対し、経験的基準法は「質問と外部の基準集団との関係」を重視したのです。

どちらもデータを利用しますが、目的は同じではありません。

なぜMMPIには不思議な質問があるの?

MMPIには、調べたい症状や特徴と直接関係しているように見えない項目も含まれていました。

これは、経験的基準法によって、質問文の表面的な意味よりも、実際の回答差が重視されたためです。

この方法には、

  • 検査の意図を回答者が予測しにくい
  • 専門家の先入観だけに頼らずに済む
  • 実際の集団差を尺度作成へ利用できる

という長所があります。

一方で、

  • なぜその質問が違いを示したのか説明しにくい
  • 最初に調べた集団の特徴へ結果が左右される
  • 時代や文化が変わると、同じ回答差が得られない可能性がある

という限界もあります。

データから差が見つかったからといって、その項目がいつでも、どこでも同じ意味を持つとは限らないのです。

MMPIの尺度名は、病名そのものではない

初期のMMPIでは、当時の精神医学的な分類に対応させる形で、複数の臨床尺度が作られました。

ただし、尺度名には、現在では古くなった診断用語も含まれています。

また、ある臨床尺度の得点が高いからといって、

「その尺度名と同じ病気である」

と自動的に診断できるわけではありません。

得点が高くなる理由は一つとは限らず、複数の臨床尺度の組み合わせにも意味があります。

そのためMMPIは、

  • 面接
  • 症状の経過
  • 行動観察
  • 医療情報
  • 生活歴
  • ほかの検査結果

などと合わせて解釈します。

MMPIは診断を機械的に決める装置ではなく、専門的な心理アセスメントへ情報を加える道具です。

「回答の仕方」も調べるという発想

質問紙には、本人の回答態度が影響します。

たとえば、

  • 自分を実際より好ましく見せる
  • 困りごとを必要以上に重く表す
  • 質問をよく読まずに答える
  • 同じ内容の質問へ矛盾した答えをする
  • 多数の質問を空欄にする

といったことが起こる可能性があります。

MMPIでは、臨床的な得点を読む前に、

この回答結果を、どの程度解釈できるのか

を検討するための指標が発展しました。

初期から使われた代表的な指標には、L尺度やF尺度などがあり、K尺度は後の研究によって加えられました。

現在のMMPI-3には、未回答、回答の一貫性、まれな回答、症状の過大報告や過小報告などを検討する、複数の妥当性尺度があります。

ただし、妥当性尺度は、

「この人はうそをついている」

と心の中を100%見抜く装置ではありません。

得点が通常と異なる場合にも、

  • 内容を読み違えた
  • 強い症状が実際にある
  • 言語や文化が合っていない
  • 集中できない状態だった
  • 意図的に回答を変えた

など、複数の可能性があります。

大切なのは、回答者を裁くことではなく、結果の解釈にどのような注意が必要かを調べることです。

MMPIは一度作られて終わったのではない

原版MMPIは、1940年代の言葉、診断分類、基準集団をもとに作られました。

しかし、社会、文化、言葉、精神医学の考え方は変化します。

そのためMMPIは、後の研究者によって何度も改訂されました。

主な版には、

  • 1943年(昭和18年)の原版MMPI
  • 1989年(平成元年)のMMPI-2
  • 1992年(平成4年)の青年用MMPI-A
  • 2008年(平成20年)のMMPI-2-RF
  • 2016年(平成28年)のMMPI-A-RF
  • 2020年(令和2年)のMMPI-3

があります。

MMPI-3は335項目、52尺度で構成され、妥当性尺度を含む現代的な多次元評価へ改訂されています。開発では、1万4,000人を超える臨床・医療・司法・公共安全などのデータが尺度作成や妥当性検証に使用されました。

日本では2022年(令和4年)にMMPI-3日本版が刊行されています。

改訂が続いていることは、原版が無価値だったという意味ではありません。

むしろ、

心理検査は一度完成したら終わりではなく、時代や文化に合わせて再検証しなければならない

ことを示しています。

なぜハサウェイとマッキンリーは重要なのか

二人が重要なのは、単に長い質問紙を作ったからではありません。

ハサウェイとマッキンリーは、

  • 心理学と医学の専門性を組み合わせた
  • 実際の患者群と比較群の回答差を尺度づくりへ利用した
  • 人格と精神病理を多面的に評価する質問紙を開発した
  • 質問の見た目より、外部の基準との関係を重視した
  • 回答の仕方そのものを検討する考えの発展に影響した
  • 得点を単独でなく、プロフィールとして読む方法を広めた
  • 後世の大規模な研究と改訂の出発点を作った

という点で、性格検査の歴史へ大きな影響を残しました。

ゴルトンは、人の違いを測定する道を開きました。

ロールシャッハは、曖昧な視覚課題への反応を観察する道を開きました。

オールポートは、性格を特性と言葉から整理する道を広げました。

キャッテルは、大量の特性を統計的にまとめました。

そしてハサウェイとマッキンリーは、

実際の人々の回答差から、臨床で利用できる質問紙尺度を作る

という道を発展させたのです。

二人の研究は、

「もっともらしい質問」と「実際に役立つ質問」は同じとは限らない

ことを教えてくれます。

同時に、

「一度、回答差が見つかったこと」と「いつでも、どこでも正しいこと」も同じではない

という注意も残しました。

次の章では、ここまで紹介した研究者たちが一つの検査を順番に完成させたのではなく、性格を理解するための異なる道を開いてきたことを、全体像として整理してみましょう。

10. 『性格検査』へつながった「五つの研究の道」

ここまで、性格検査の歴史に影響を与えた研究者たちを見てきました。

しかし、彼らは一つの検査を順番に完成させたわけではありません。

人の違いを数字で測った人。

曖昧な模様への反応を調べた人。

性格を表す言葉を集めた人。

大量の情報を統計で整理した人。

実際の患者群と比較群の回答差から、質問紙尺度を作った人。

使った材料も、研究の目的も異なっています。

それでも、研究の奥には共通する大きな問いがありました。

「目に見えない人の特徴を、観察できる情報からどのように理解すればよいのか?」

ここでは、これまでの研究を「五つの道」として整理してみましょう。

なお、この五分類は、心理学で公式に定められた歴史区分ではありません。

複雑な性格検査の歴史を理解しやすくするための、本記事独自の整理です。

第1の道|人の違いを測定する

フランシス・ゴルトン

ゴルトンは、人と人との違いを印象だけで語るのではなく、測定し、数値やデータとして比較しようとしました。

その発想は、後の個人差研究や心理測定へ影響を与えました。

一方で、測定と統計を優生学へ結びつけ、人間を序列化しようとした重大な問題も残しました。

この道から学べるのは、

人の特徴を測ることと、人間の価値を決めることはまったく違う

という点です。

第2の道|曖昧な課題への反応を見る

ヘルマン・ロールシャッハ

ロールシャッハは、インクの模様が何に見えるかという答えだけでなく、曖昧な形をどのように見て、意味づけ、説明するかに注目しました。

これは、本人へ自分の性格を直接尋ねる質問紙とは異なる道です。

現在のロールシャッハ法には複数の採点・解釈体系があり、その一つであるR-PASは、研究上の根拠や国際的な規準、実施者による違いの低減を重視しています。

ロールシャッハが残したのは、

本人の説明だけでなく、実際に課題へ取り組んだ反応も心理評価の資料になり得る

という視点でした。

第3の道|性格を特性と言葉から捉える

ゴードン・オールポートヘンリー・S・オドバート

オールポートは、人を少数の固定された型へ入れるのではなく、複数の特性の組み合わせとして理解することを重視しました。

さらにオドバートとの共同研究では、人の違いを表す大量の言葉を辞書から集めました。

その背景には、

人間関係で重要な性格の違いは、長い時間をかけて日常語として残るのではないか

という考えがあります。

この道は、性格を研究する材料が、専門家の作った言葉だけでなく、人々が日常で使う言葉の中にもあることを示しました。

ただし、言葉を集めただけでは、どの特徴がどのようにまとまるかまでは分かりません。

そこで次に必要になったのが、統計的な整理でした。

第4の道|大量の特徴を統計で整理する

レイモンド・キャッテル

キャッテルは、多数の性格表現や評価の関係を、因子分析などによって整理しました。

因子分析そのものを発明したわけではありませんが、先行する統計的方法を人格研究へ積極的に応用した点が重要です。

キャッテルがデータへ問いかけたのは、

「どの特徴や回答が、一緒に変化するまとまりを作るのか?」

という問題でした。

この研究は16PFの開発や、後の五因子研究へ重要な材料と方法を残しました。

ただし、統計で得られた因子は、人間の性格を分ける唯一の正解ではありません。

使う質問、対象者、分析方法によって、得られる構造が変化する可能性があります。

統計は性格の答えを自動的に出す機械ではなく、集めた情報の中にある関係を探す道具なのです。

第5の道|実際の回答差から尺度を作る

スターク・ハサウェイJ・C・マッキンリー

ハサウェイとマッキンリーは、質問の内容が理論上もっともらしいかだけではなく、

「患者群と比較群で、実際に回答の違いが現れたか?」

を重視してMMPIの尺度を作りました。

キャッテルが質問同士のまとまりを探したのに対し、二人は質問と外部の基準集団との関係へ注目したのです。

MMPIではその後、心理的特徴の得点だけでなく、回答の一貫性や通常とは異なる回答傾向などを検討する方法も発展しました。

この道から得られた大切な視点は、

結果を解釈する前に、その回答結果をどこまで信頼して読めるのかを考える

ということです。

五つの道は、一つの検査へ合流したわけではない

ここで注意したいのは、五つの道が最終的に一つの万能な性格検査へまとまったわけではないことです。

それぞれの研究は、後の心理学へ異なる方法と課題を残しました。

  • 何を人の特徴として扱うのか
  • どのような質問や課題を使うのか
  • 回答や行動をどう記録するのか
  • 得られた情報をどう整理するのか
  • 結果の解釈にはどのような根拠が必要か
  • 特定の文化や集団だけに偏っていないか
  • その検査を何のために使うのか

現在の心理検査は、こうした複数の問いを検討しながら作られ、利用されています。

五つの道が一つへ合流したのではなく、五つの道から生まれた問いが、現在の心理測定と心理アセスメントへ受け継がれているのです。

同じ「データ」でも、問いかけ方が違う

ここまでの研究者は、いずれも何らかの観察可能な情報を扱いました。

しかし、データへ尋ねたことは異なります。

ゴルトンは、

「人と人には、どのような測定上の違いがあるのか?」

と問いかけました。

ロールシャッハは、

「曖昧な課題へ、どのように反応するのか?」

と問いかけました。

オールポートとオドバートは、

「人の違いは、日常語の中でどのように表されているのか?」

と考えました。

キャッテルは、

「多数の特徴は、どのようなまとまりを作るのか?」

と調べました。

ハサウェイとマッキンリーは、

「どの質問が、外部の基準となる集団を実際に区別するのか?」

を確かめました。

同じ「科学的なデータを使う研究」でも、問いが違えば、得られる答えも変わります。

これは性格検査を理解するときに、とても大切な視点です。

一つの方法だけでは、人全体を説明できない

質問紙は、本人が自覚している考えや感情を、一定の方法で尋ねることができます。

一方で、自己理解や回答態度の影響を受けます。

曖昧な課題への反応は、自己報告とは異なる情報を得られる可能性があります。

一方で、実施や採点、解釈には専門的な訓練が必要です。

因子分析は、大量の情報を整理できます。

一方で、質問や分析方法が変われば、結果も変化する可能性があります。

経験的基準法は、実際の回答差を尺度作成へ使えます。

一方で、最初に調べた集団や時代の特徴に影響されます。

どの方法にも、得意なことと限界があります。

大切なのは、

「どの検査が絶対に優れているか?」

と順位を決めることではありません。

何を知るために、どの方法を使い、その結果をどこまで解釈できるのか?

を考えることです。

性格検査の歴史は、検証と修正の歴史

ここまで紹介した研究は、最初に発表された形のまま現在まで残っているわけではありません。

MMPIは1943年(昭和18年)の原版から、MMPI-2などの改訂版へ発展し、言葉、項目、基準データ、尺度の構成が再検討されてきました。

ロールシャッハ法にも複数の体系が生まれ、現代のR-PASのように、研究上の根拠や規準データを重視する方法も開発されています。

オールポートやキャッテルの特性研究も、その後の研究によって検証され、ビッグファイブを含む新しい枠組みへ発展しました。

科学の歴史とは、有名な研究者の考えをそのまま守り続ける歴史ではありません。

確かめる
批判する
修正する
別の集団や文化でもう一度調べる

という作業を積み重ねる歴史です。

五つの道が本当に教えてくれること

性格検査の歴史は、

「人を簡単に分類できるようになった歴史」

ではありません。

むしろ、

人を正確に理解することが、どれほど難しいかを学び続けてきた歴史

だといえるでしょう。

測定は役立ちます。

統計も必要です。

質問紙や行動課題から得られる情報にも意味があります。

しかし、どの方法も、人の心のすべてを映す完全な鏡ではありません。

五つの道が残した最も大切なものは、性格を一言で言い当てる答えではなく、

どのような方法で調べ、どのような根拠で解釈し、どこから先は分からないのかを考える姿勢

なのかもしれません。

では、現代の心理学では、こうした研究はどのように評価されているのでしょうか。

優生学のように現在では明確に否定されている考え方もあれば、その後の研究によって発展・修正され、現在も受け継がれている考え方もあります。

また、検査の文化的公平性やMMPIの改訂、ロールシャッハ法の採点体系など、心理検査は今も検証と改善が続けられています。

次の章では、歴史上の研究を現代心理学がどのように受け止め、何を受け継ぎ、何を修正し、何を新たな課題として考えているのかを見ていきましょう。

11. 現代では何が修正・批判されているのか

ここまで紹介してきた研究者たちは、性格検査の歴史へ大きな影響を残しました。

しかし、有名な研究者の考えだからといって、現在もすべてが正しいわけではありません。

科学では、新しいデータが集まれば、以前の説明を確かめ直します。

別の集団や文化でも同じ結果が得られるかを調べ、不公平な利用や倫理的な問題が見つかれば、検査の作り方や使い方を見直します。

性格検査の歴史は、発見の歴史であると同時に、

批判し、修正し、もう一度確かめる歴史

でもあるのです。

それでは、これまで紹介した研究は、現代の心理学からどのように評価されているのでしょうか。

優生学は、科学的にも倫理的にも否定されている

フランシス・ゴルトンは、個人差を測定し、多くのデータから人の違いを調べる研究へ影響を残しました。

一方で、人間を遺伝的な特徴によって選別し、集団を「改善」できるとする優生学を提唱しました。

優生学では、知能、性格、貧困、犯罪など、遺伝と環境が複雑に関わる特徴を単純な遺伝で説明し、人間を「優れている」「劣っている」と序列化しました。

その思想は、強制不妊、隔離、排除、人種差別、障害者差別などを正当化するために利用されました。

アメリカ国立ヒトゲノム研究所は、優生学を、選択的な生殖によって人間を改良できるとする、科学的に誤り、倫理的にも認められない思想と説明しています。

ここで大切なのは、

「人の違いを測定すること」

と、

「測定結果によって人間の価値を決めること」

を混同しないことです。

身長や得点の違いを数字に表すことはできても、その数字から人としての価値や権利の大きさを決めることはできません。

優生学の歴史は、測定技術が発展しても、その利用目的が誤っていれば、人を理解する道具が差別の道具へ変わることを教えています。

性格特性研究は、検証されながら発展している

オールポートやキャッテルの研究は、人の性格を複数の特性から理解する流れへ影響を与えました。

その後、多くの研究者が、異なる言語、質問紙、集団、統計的方法を使って性格特性を調べ、ビッグファイブを含むさまざまなモデルが発展しました。

ただし、ビッグファイブも、人間の性格を完全に説明する唯一の最終回答ではありません。

性格モデルは、複雑な人の違いを整理するための地図です。

地図は全体を理解する助けになりますが、実際の土地にある一軒一軒の家や、その人が歩いてきた道まですべて描くことはできません。

また、ある文化や言語で作られた質問紙を、別の文化へそのまま移しても、同じ特徴を同じ意味で測れるとは限りません。

現代の研究では、

  • 同じ因子構造が別の集団でも得られるか
  • 翻訳後も質問の意味が保たれているか
  • 得点を集団間で公平に比較できるか
  • その文化に固有の性格表現を見落としていないか

といった点も検討されます。

つまり、現在の特性研究では、

「五つの特性があるか」

だけでなく、

誰に、どの言語で、どのような目的で使えるのか

まで確かめることが求められているのです。

翻訳しただけでは、同じ検査にならない

性格検査を別の国で使う場合、英語の質問を日本語へ置き換えるだけでは不十分です。

たとえば、

「私は人前で自分の意見をはっきり言います」

という質問を考えてみましょう。

自分の意見を積極的に表すことが高く評価される環境もあれば、周囲との調和や控えめな振る舞いが重視される環境もあります。

同じ回答でも、その行動が持つ意味は文化や状況によって変わる可能性があります。

検査を別の言語や文化へ移す場合には、

  • 言葉の意味が同じように伝わるか
  • 測ろうとしている概念が両方の文化に存在するか
  • 質問が特定の集団だけに不利ではないか
  • 比較に使う基準データが適切か
  • 得点を同じように解釈できるか

を確認する必要があります。

2014年(平成26年)に刊行された『教育・心理検査基準』は、アメリカ教育研究学会、アメリカ心理学会、全米教育測定協議会による共同基準です。この基準では、公平性は検査の周辺的な問題ではなく、適切な実施と得点解釈を支える基本的な課題として扱われています。

公平な検査とは、全員へ機械的に同じ扱いをする検査とは限りません。

言語、障害、教育経験、文化的背景などを考慮し、不必要な不利益が生じないようにすることも、公平性の一部なのです。

MMPIは、時代に合わせて改訂されてきた

ハサウェイとマッキンリーが共同開発した原版MMPIは、1943年(昭和18年)に刊行されました。

しかし、1940年代に作られた質問や基準データを、社会や言葉が変化した後も、そのまま使い続けることはできません。

時代が変われば、一般的な生活習慣や家族の形、医療上の考え方、言葉の受け取られ方も変わります。

そこでMMPIは、後の研究者たちによって改訂されてきました。

現在のMMPI-3は、2020年(令和2年)に公表された335項目・52尺度の検査で、人格と精神病理に関係する特徴に加え、回答の一貫性や過大・過小報告などを検討する妥当性尺度も備えています。

ただし、新しい版だから自動的に万能になるわけではありません。

新しい検査にも、

  • 別の国や言語で同じように使えるか
  • 特定の臨床群で適切に解釈できるか
  • 利用目的に十分な根拠があるか
  • 文化的な偏りがないか

を確かめる必要があります。

MMPIの改訂史が示しているのは、

心理検査は、一度完成したら終わりではない

ということです。

検査は、社会、研究、言語の変化に合わせて、基準や尺度を見直し続けなければなりません。

ロールシャッハ法は、体系と指標を分けて評価する

ロールシャッハ法については、

「心の奥を完全に見抜ける検査」

という説明と、

「科学的な意味がまったくない検査」

という、正反対の説明を見かけます。

しかし、どちらも単純化しすぎです。

ロールシャッハ法には、歴史的に複数の実施・採点・解釈体系が作られてきました。

方法が違えば、同じ反応から得られる得点や解釈も変わる可能性があります。

2013年(平成25年)のメタ分析では、包括システムで使われる一部の指標に妥当性を支持する結果が確認された一方、十分な支持が得られなかった指標も報告されました。

したがって、

「ロールシャッハ法は正しいか、間違っているか」

と検査名だけで一括して判断するのは適切ではありません。

確認すべきなのは、

  • どの採点体系を使っているか
  • どの指標を解釈しているか
  • 何の目的で使用しているか
  • その解釈を支える研究があるか
  • 実施者同士で採点が一致するか

という点です。

現代的な体系の一つであるR-PASは、2011年(平成23年)にマニュアルが公表され、実施、採点、解釈、心理測定上の問題を体系的に扱っています。

ただし、R-PASがロールシャッハ法の唯一の体系というわけではありません。

また、R-PASが作られたことで、ロールシャッハ法をめぐるすべての議論が解決したわけでもありません。

現在も、指標の妥当性、採点の一致、文化的な基準、利用目的などについて研究が続いています。

一つの検査で、人を決めない

性格検査では、点数やプロフィールが表示されます。

数字が示されると、それが本人についての動かない事実のように感じられるかもしれません。

しかし、心理検査の結果には、測定誤差や解釈できる範囲があります。

また、人の回答や行動は、

  • その日の体調や睡眠
  • 緊張や疲労
  • 検査を受ける目的
  • 質問の理解
  • 学校や職場の環境
  • 家族や人間関係
  • これまでの経験

などからも影響を受けます。

そのため、一つの検査結果だけで、

「この人は必ずこのような人です」

「この仕事には向いていません」

「将来、この行動をするでしょう」

と決めつけることはできません。

心理アセスメントでは、必要に応じて、

  • 標準化された心理検査
  • 本人との面接
  • 行動観察
  • 生活環境や成育歴
  • 本人以外から得た情報
  • 医療・教育・職業上の記録
  • ほかの検査結果

などを組み合わせます。

アメリカ心理学会の心理アセスメント指針でも、標準化された検査だけでなく、面接、行動観察、周囲からの情報、環境的な文脈など、複数の資料を統合することが重視されています。

つまり、

性格検査は「結論」ではなく、全体像を考えるための情報の一つ

なのです。

検査の価値は、使う目的によって変わる

同じ性格検査でも、使われる場面によって必要な根拠は異なります。

自己理解の参考として使う場合。

心理支援で本人との対話に使う場合。

採用や配置の判断に使う場合。

司法や医療で重要な判断の資料にする場合。

結果が誤っていたときの影響が大きいほど、より強い根拠と慎重な手続きが必要です。

たとえば、自己理解のきっかけとしてある程度役立つ検査でも、その得点だけで採用の合否を決めてよいとは限りません。

検査の妥当性は、検査名へ永久に付いている合格印ではありません。

誰に、何の目的で、どのように使うのか

によって、必要な根拠が変わるのです。

現代では、何が否定され、何が残っているのか

ここまでの内容を整理すると、現代では次のように評価できます。

現在では否定されているもの

  • 人間を遺伝的な価値によって序列化する優生思想
  • 性格や能力を単純な遺伝だけで説明する考え
  • 検査得点を人間としての価値と結びつける使い方
  • 一つの検査結果だけで人を決定する考え

修正されながら受け継がれているもの

  • 人の個人差を一定の方法で測定する考え
  • 性格を複数の特性から捉える研究
  • 統計によって質問や特性の関係を調べる方法
  • 実際の回答データから尺度を作る方法
  • 回答結果を解釈できるか確認する考え
  • 検査を改訂し、基準データを更新する姿勢

現在も議論と研究が続いているもの

  • 性格特性モデルは文化を越えてどこまで共通するのか
  • ロールシャッハ法のどの指標が何を捉えるのか
  • 検査の翻訳や文化的公平性をどう確保するか
  • 性格検査が将来の行動をどこまで予測できるのか
  • オンライン検査やAIによる性格評価をどう扱うのか

科学では、古い理論をすべて信じるか、すべて捨てるかの二択ではありません。

根拠が支持される部分を残し、問題のある部分を修正し、新しい条件でもう一度確かめます。

現代へ受け継がれた最大の教訓

性格検査の歴史から受け継ぐべきものは、有名な検査名や研究者の名前だけではありません。

本当に大切なのは、

人を測る方法ほど、慎重に確かめ続けなければならない

という姿勢です。

印象だけで人を判断すれば、思い込みや偏見が入り込む可能性があります。

だから心理学は、測定し、データを集めます。

しかし、数字が出たからといって、それが人のすべてを表しているわけではありません。

だから、その測定方法自体も、もう一度検証します。

何が分かるのか。

何が分からないのか。

どこまで根拠があり、どこから慎重になる必要があるのか。

その境界を確かめ続けることが、現代の心理学に求められているのです。

性格検査の歴史を振り返ると、昔の研究がそのまま残っているわけではないことが分かります。

否定された考えがあります。

修正された方法があります。

新しいデータによって、意味を見直された検査もあります。

それでも、ここでもう一つ、不思議なことが残ります。

なぜ、同じように「人の性格を知りたい」と考えながら、研究者たちはこれほど異なる方法を選んだのでしょうか。

数字で測る方法。

言葉から整理する方法。

統計でまとめる方法。

質問への回答差を使う方法。

曖昧な模様への反応を見る方法。

まるで正反対に見えるこれらの方法は、互いに競い合うためだけに生まれたのでしょうか。

それとも、人の性格というものが、一つの方法だけでは捉え切れないほど複雑だったからなのでしょうか。

次の章では、人物の功績や検査の名前から少し離れ、なぜ性格検査には正反対にも見える方法が存在するのかを、別の角度から考えてみましょう。

12. おまけコラム

なぜ同じ「性格」を調べるのに、正反対の方法が生まれたのか

ここまで読んできて、不思議に感じたことはないでしょうか。

ゴルトンは、人と人との違いを数字で測ろうとしました。

オールポートは、性格を表す言葉へ目を向けました。

キャッテルは、大量の情報を統計的に整理しました。

ハサウェイとマッキンリーは、質問紙への実際の回答差を利用しました。

ロールシャッハは、曖昧なインクの模様へどのように反応するかを調べました。

数字と言葉。

決められた質問と、答えの決まっていない模様。

同じ「性格」を調べているはずなのに、まるで正反対の方法に見えます。

「一番正しい方法だけを使えばよかったのでは?」

そう思うかもしれません。

しかし、方法が違ったのは、単に研究者の好みが違ったからではありません。

それぞれが「人のどの部分を、何のために、どのような情報から理解するのか」という、異なる問いへ向き合っていたからです。

同じ「性格検査」でも、調べていたものは完全には同じではない

私たちは普段、さまざまな検査をまとめて「性格検査」と呼びます。

しかし、その内側をよく見ると、研究者が調べようとした対象は少しずつ異なります。

オールポートは、人に比較的持続して見られる特徴を「特性」として捉えました。

キャッテルは、多数の性格表現や評価の背後に、どのような基本的な因子があるのかを統計的に調べました。

ハサウェイとマッキンリーが開発したMMPIは、一般的な性格タイプを楽しむためではなく、人格と精神病理に関係する特徴を臨床的に評価するための質問紙として発展しました。

ロールシャッハ法は、本人が自分について説明する質問紙とは異なり、曖昧な視覚課題へ実際にどのように取り組むかを資料にします。現代のR-PASも、ロールシャッハ法を自己報告式質問紙とは異なるパフォーマンス型の評価として位置づけています。

つまり、研究者たちは完全に同じ対象を、別々の道具で競って測っていたわけではありません。

同じ「人の性格や個人差」という広い山の中で、異なる場所を調べていたのです。

質問紙は「本人が語る自分」を調べる

質問紙法では、

「私は初対面の人とも話しやすい」

「失敗しないよう、よく確認する」

といった質問へ、本人が回答します。

この方法の強みは、自分の考え、感情、普段の行動について、本人から直接情報を得られることです。

同じ質問と採点方法を使えば、多くの人の回答を一定の基準で整理することもできます。

しかし、本人が答えるからこその限界もあります。

自分の特徴を正確に理解しているとは限りません。

実際の自分ではなく、「こうありたい自分」を思い浮かべることもあります。

採用試験などでは、自分を好ましく見せようとするかもしれません。

質問の意味を、作成者とは違うように受け取る場合もあります。

質問紙が教えてくれるのは、心をそのまま写した映像ではありません。

質問を読んだ人が、自分について考え、選択した回答なのです。

曖昧な課題は「本人が課題へどう取り組んだか」を見る

ロールシャッハ法では、

「あなたは社交的ですか?」

と直接尋ねません。

意味が一つに決まっていないインクの模様を見せ、何に見えるかを答えてもらいます。

そこで扱われるのは、答えの内容だけではありません。

図版全体を使ったのか。

一部分に注目したのか。

形、色、動きなどの何を手がかりにしたのか。

見えたものをどのように説明したのか。

こうした反応を一定の体系で記録します。

この方法には、自己報告式質問紙とは異なる種類の情報を扱える可能性があります。

一方で、自由度の高い反応を扱うため、実施、採点、解釈には専門的な訓練が必要です。

また、ロールシャッハ法のすべての指標が同じ程度の研究的根拠を持つわけではありません。

そのため、

「本人も知らない本当の性格を見抜ける」

と説明するのは適切ではありません。

質問紙とロールシャッハ法は、一方が表面、もう一方が心の奥を測るという単純な関係ではないのです。

本人が自分について報告した情報と、曖昧な課題へ取り組んだ際の反応という、異なる種類の資料を扱っています。R-PASも、実施や採点を標準化し、研究的根拠や国際的な基準を重視する一つの現代的体系として開発されています。

統計は、性格を「発明する」のではなく、回答の関係を整理する

キャッテルは、多数の性格表現や評価を、因子分析などによって整理しました。

因子分析では、多くの質問へ似た答え方をする傾向があるとき、その背後に共通する特徴がある可能性を考えます。

たとえば、

  • 人と一緒にいることを好む
  • 初対面でも話しかけやすい
  • にぎやかな場所を楽しめる

という回答が一緒に変化するなら、その背後に外向性に関係する共通の傾向があるかもしれません。

ただし、統計が人間の中から、完成した性格の部品を自動的に取り出すわけではありません。

どの質問を使うか。

誰を対象に調べるか。

因子を何個残すか。

どの分析方法を選ぶか。

こうした条件によって、得られる構造が変わる可能性があります。

統計は、人間の性格を発明する機械ではありません。

集めた回答の中に、どのような関係やまとまりがあるのかを探す道具なのです。

キャッテルの重要性も、因子分析そのものを発明したことではなく、スピアマンらが発展させた方法を人格研究へ積極的に応用した点にあります。

MMPIは「質問の意味」よりも「実際の回答差」を重視した

ハサウェイとマッキンリーがMMPIを開発したとき、重視したのは、質問が専門家の目にもっともらしく見えるかどうかだけではありませんでした。

実際の患者群と比較群で、どの質問への回答に違いが現れたかを調べました。

たとえば、症状と明らかに関係しているように見える質問でも、二つの集団を区別できなければ、尺度項目として役立たない可能性があります。

反対に、一見すると症状と関係が薄そうな質問でも、安定した回答差があれば、評価の手がかりになる可能性があります。

ここで使われたのは、キャッテルの因子分析とは異なる問いです。

キャッテルは、

「どの質問同士が似たまとまりを作るのか?」

と考えました。

ハサウェイとマッキンリーは、

「どの質問が、外部の基準となる集団を区別したのか?」

を重視しました。

同じ質問紙のデータでも、研究者がデータへ何を尋ねたかによって、作られる尺度は変わったのです。MMPIはハサウェイとマッキンリーによる共同開発で、1940年(昭和15年)の初期論文でも経験的な質問紙構成が示されています。

方法が正反対に見える、本当の理由

ここまでを整理すると、方法が正反対に見える理由は三つあります。

1.調べようとした対象が違ったから

日常的な性格特性を調べる研究。

人格と精神病理に関係する特徴を臨床的に評価する研究。

曖昧な課題への知覚や反応を扱う研究。

同じ「性格検査」という言葉でまとめられても、目的と対象は完全には同じではありません。

2.手がかりにした情報が違ったから

本人が自分について答えた情報。

周囲の人がその人物を評価した情報。

課題へ実際に取り組んだ反応。

患者群と比較群の回答差。

研究者によって、「何を観察可能な資料として使うか」が異なりました。

3.どの方法にも、見える部分と見えない部分があったから

質問紙は、多くの人へ一定の方法で実施しやすい一方、自己理解や回答態度の影響を受けます。

自由反応を扱う方法は、自己報告とは異なる情報を得られる可能性がある一方、採点と解釈が難しくなります。

統計は多数の情報を整理できますが、一人の経験や生活背景のすべてを表すことはできません。

経験的な尺度構成は、実際の集団差を利用できますが、最初に調べた集団や時代の影響を受けます。

つまり、異なる方法が生まれたのは、どれか一つが完全な答えだったからではありません。

一つの方法だけでは、人間という複雑な対象のすべてを捉えられなかったからなのです。

正反対の道は、同じ頂上へ続いていたのか

ここで、もう一つ注意したい点があります。

今回の研究者たちが、全員まったく同じ頂上を目指していたと表現するのも、厳密には少し単純です。

それぞれが考えた性格の概念、研究目的、利用場面は異なっていました。

したがって、五つの道は、同じ頂上へ続く登山道というよりも、同じ山脈にある異なる峰を調べる道と考えた方が近いでしょう。

ある研究者は、山の高さを測りました。

ある研究者は、地形の共通点を整理しました。

ある研究者は、登る人が道をどう選ぶかを観察しました。

ある研究者は、山を表す言葉を集めました。

どの研究も山について何かを教えてくれます。

しかし、どの一つも山脈のすべてではありません。

性格についても同じです。

質問紙、統計、行動課題、面接、生活上の情報は、それぞれ違う角度から人を理解する資料になります。

どの方法が絶対に優れているかを決めるのではなく、

何を知りたいのか
どの方法が目的に合っているのか
結果をどこまで解釈できるのか

を考える必要があります。

異なる方法が存在すること自体が、人間の複雑さを示している

性格検査の方法が一つに統一されていないと聞くと、

「心理学は、まだ正解を見つけていないの?」

と感じるかもしれません。

確かに、すべてを説明できる完成された性格検査は存在しません。

しかし、異なる方法があることは、心理学が失敗している証拠とは限りません。

人間の性格が、

  • 本人が自覚している面
  • 周囲の人から見える面
  • 場面によって変化する面
  • 長い時間を通して比較的安定する面
  • 質問への回答に表れる面
  • 実際の行動に表れる面

を持つ、複雑な対象だからこそ、複数の見方が必要なのです。

性格検査の歴史は、「最も優れた一つの方法」を選び出した歴史ではありません。

異なる方法を試し、それぞれが何を捉えられ、何を捉えられないのかを確かめてきた歴史です。

正反対に見える方法が並んでいること自体が、

人の心は、一方向からのぞいただけでは理解し切れない

ことを教えているのかもしれません。

では、ここまでたどってきた性格検査の歴史は、私たちに何を残したのでしょうか。

それは、研究者の名前や検査の種類だけではありません。

人の心について問い、証拠を集め、結果を確かめ、問題があれば修正し続ける姿勢も、現代へ受け継がれてきました。

最後に、五つの研究の道と、そこに残された功績や限界を振り返りながら、性格検査の長い歴史が私たちへ教えてくれる本当の意味を考えてみましょう。

13. まとめ・考察

性格検査の歴史は「答え」ではなく、問いを受け継いだ歴史

この記事では、心理学における性格検査の歴史を、五つの研究の道から見てきました。

フランシス・ゴルトンは、人と人との違いを測定し、データとして扱う道を開きました。

ヘルマン・ロールシャッハは、曖昧な模様への反応から、人の知覚や意味づけを捉えようとしました。

ゴードン・オールポートとヘンリー・S・オドバートは、性格を表す言葉を集め、人の特徴を「特性」から研究する土台を築きました。

レイモンド・キャッテルは、膨大な性格表現や回答を、因子分析などの統計的方法によって整理しました。

そして、スターク・ハサウェイとJ・C・マッキンリーは、実際の患者群と比較群の回答差を利用し、MMPIを共同開発しました。

使った方法は、それぞれ異なります。

数字。

言葉。

統計。

質問紙。

インクの模様。

一見すると、別々の研究に見えるかもしれません。

しかし、その根底には共通する問いがありました。

「目に見えない人の性格を、どのようにすれば、できるだけ確かな方法で理解できるのだろう?」

性格検査の歴史は、この問いに対する一つの答えを見つけた歴史ではありません。

多くの研究者が異なる答えを示し、それを後の研究者が確かめ、批判し、修正してきた歴史なのです。

性格検査は、一人の天才が作ったものではなかった

記事の始まりでは、

「性格検査は、誰が最初に作ったのだろう?」

という疑問から出発しました。

しかし、ここまで読み進めると、この問いへ一人の名前だけで答えることが難しい理由が見えてきます。

現在の性格検査には、

  • 人の違いを測定する考え
  • 性格を特性として捉える考え
  • 多数の回答を統計的に整理する方法
  • 実際の集団差から質問を選ぶ方法
  • 自己報告とは異なる反応を観察する方法
  • 結果を解釈できる状態か確認する考え
  • 信頼性、妥当性、公平性を検討する考え

など、異なる時代に生まれた多くの発想が関わっています。

性格検査は、一人の発明家が完成させた機械ではありません。

さまざまな研究者が異なる部品を作り、後の人々が組み直し、問題が見つかるたびに修理を続けてきた、今も完成していない測定の仕組みなのです。

「偉人を覚えること」がこの記事の目的ではない

今回登場した研究者の名前や生年月日を覚えることも、心理学の歴史を知るうえでは役立ちます。

しかし、本当に大切なのは、名前を暗記することではありません。

それぞれの研究者が、

何を疑問に思ったのか

どのような方法で確かめようとしたのか

何が後世へ受け継がれたのか

どこに問題や限界があったのか

を知ることです。

ゴルトンの測定研究には、心理測定へつながる重要な発想がありました。

一方で、優生学という重大な問題もありました。

キャッテルは、性格特性を統計的に整理する研究を発展させました。

しかし、16因子が人間の性格を説明する唯一の正解になったわけではありません。

ロールシャッハ法は、質問紙とは異なる情報を得ようとする道を開きました。

しかし、そのすべての指標が同じ程度の研究的根拠を持つわけではありません。

MMPIは、実際の回答差を使う新しい質問紙作成法を発展させました。

それでも、時代や文化が変われば、項目や基準を見直す必要があります。

研究者の功績を学ぶことは、その研究者の考えをすべて正しいと信じることではありません。

功績と限界の両方を見ることが、心理学の歴史を学ぶ意味なのです。

学問は、間違えないことよりも、間違いを修正できることに価値がある

心理学の研究には、後から問題が見つかることがあります。

結果を再現できない。

別の文化では同じ構造にならない。

検査項目の表現が古くなる。

基準となる集団に偏りがある。

当初の解釈に十分な根拠がなかった。

このような問題が見つかると、

「昔の心理学者は間違っていたのだから、研究には意味がない」

と感じるかもしれません。

しかし、科学の強さは、一度も間違えないことだけにあるのではありません。

新しい証拠によって問題を発見し、考え方や測定方法を修正できることにもあります。

検査を改訂する。

新しい集団で調べ直す。

採点方法を明確にする。

文化や言語の違いを検討する。

不公平な利用を批判する。

一つの検査だけで判断しないようにする。

こうした修正の積み重ねによって、心理学は少しずつ、人をより慎重に理解する学問へ近づいてきました。

学問とは、完成した答えを保管する棚ではありません。

問いを置き直し、新しい証拠によって答えを書き換え続ける作業場なのです。

性格検査を見る目も、少し変わるかもしれない

性格診断の結果を見て、

「驚くほど当たっている」

と思った経験はないでしょうか。

反対に、

「自分とはまったく違う」

と感じたこともあるかもしれません。

この記事を読む前なら、その結果を「当たった」「外れた」の二つだけで考えていたかもしれません。

しかし、性格検査の歴史を知ると、別の問いも浮かんできます。

この検査は、何を測ろうとしているのだろう?

質問は、どのような考え方で選ばれたのだろう?

結果を支える研究はあるのだろうか?

どのような人を基準に作られたのだろう?

この結果から、どこまで考えてよいのだろう?

自分の経験と合わない部分には、どのような理由があるのだろう?

診断結果をそのまま信じるのでも、すぐに否定するのでもありません。

結果が作られた仕組みと、その限界を考える。

それが、性格検査に振り回されず、上手に活用するための第一歩です。

性格検査は「人を分ける箱」ではなく「対話を始める窓」

性格検査の結果には、点数や特性名が表示されます。

そのため、人をいくつかの箱へ分ける道具のように感じるかもしれません。

しかし、本来の結果の活かし方は、

「あなたはこのタイプだから、こう生きるべきです」

と結論を出すことではありません。

「どの場面で、この特徴が表れるのだろう?」

「この特徴に助けられた経験はあるだろうか?」

「困る場面では、どのような工夫ができるだろう?」

と考えるきっかけにすることです。

検査結果に「慎重」と書かれていたとしても、その一語だけでは本人の生活は分かりません。

慎重さによって失敗を防げる場面もあれば、決断に時間がかかる場面もあります。

人前では静かでも、家族や親しい友人の前ではよく話す人もいます。

同じ得点でも、これまでの経験、価値観、環境、目標は一人ひとり違います。

性格検査は、人を小さな箱へ閉じ込めるための道具ではありません。

自分や相手について、これまでとは違う角度から話し始めるための窓として使えるのです。

人間という山に、頂上からの一枚の写真はない

ここまでの研究者たちは、異なる道から人の性格へ近づきました。

性格検査の歴史を、大きな山を調べる物語として考えてみましょう。

ある研究者は、山の高さを測りました。

ある研究者は、地面の形を記録しました。

ある研究者は、山に生えている植物の名前を集めました。

ある研究者は、多くの記録から地形の共通点を探しました。

ある研究者は、山を歩く人が道をどのように選ぶかを観察しました。

どの研究も、山について何かを教えてくれます。

しかし、一つの記録だけで山のすべては分かりません。

天気が変われば、景色も変わります。

見る場所が変われば、同じ山でも形が違って見えます。

まだ調べられていない場所も残っています。

人の性格も同じです。

質問紙、統計、観察、面接、生活上の情報は、それぞれ異なる方向から人を理解する資料になります。

しかし、そのどれにも、見える場所と見えない場所があります。

だからこそ、心理学では一つの結果だけを最終回答にせず、複数の情報を照らし合わせる必要があるのです。

あなたなら、検査結果をどのように受け取りますか?

次に性格検査を受ける機会があったら、結果を見た瞬間に、自分へ名札を貼るのではなく、少し立ち止まってみてください。

「この結果は、どの場面の自分を表しているのだろう?」

「当てはまらない場面には、どのような自分がいるだろう?」

「この特徴は、どのようなときに強みになるだろう?」

「この結果だけでは分からない、自分の大切な部分は何だろう?」

そう問い直すことで、検査結果は「自分を決める答え」から、「自分を考える材料」へ変わります。

そして他人の結果を見るときも、

「この人はこのタイプだから」

と決めつけるのではなく、

「この人には、どのような場面でこの特徴が表れるのだろう?」

と考えられるかもしれません。

性格検査の知識は、自分を理解するためだけではありません。

他人を一つの言葉で決めつけず、その人にも複数の面があると想像するためにも役立ちます。

性格検査の歴史が教えてくれること

性格検査の歴史をたどると、人間を正確に測ることが、どれほど難しいかが分かります。

同時に、その難しさから逃げず、少しでも確かな方法を探してきた研究者たちの姿も見えてきます。

この歴史を、単なる偉人伝として読むだけでは十分ではありません。

重要なのは、

  • 測定には根拠が必要であること
  • 数字には限界があること
  • 検査は目的に合わせて使うこと
  • 文化や時代によって見直す必要があること
  • 結果を人間の価値と結びつけないこと
  • 新しい証拠によって考えを修正すること

を学ぶことです。

性格検査の歴史とは、人の心を完全に読み取れるようになった歴史ではありません。

人の心は簡単には決められないからこそ、より慎重に問い、確かめ、修正してきた歴史

なのです。

あなたは、次に性格検査の結果を見たとき、それを自分の最終的な「答え」として受け取るでしょうか。

それとも、自分のまだ知らない一面を探すための、新しい「問い」として受け取るでしょうか。

その選び方によって、性格検査は人を閉じ込める箱にも、自分や他人への理解を深める窓にもなるのかもしれません。

14. 疑問が解決した物語

一人の天才が作ったわけではなかったんだ。

高校生のユウキさんは、本を閉じて静かに考えました。

最初は、

「性格検査は、誰か一人の有名な心理学者が発明したものなんだろう。」

と思っていました。

けれども、記事を読み終えた今、その考えは大きく変わっています。

フランシス・ゴルトンは、人と人との違いを測ろうとしました。

ヘルマン・ロールシャッハは、質問だけでは見えない心の側面を探ろうとしました。

ゴードン・オールポートは、性格を表す言葉を整理しました。

レイモンド・キャッテルは、それらを統計的に分析しました。

スターク・ハサウェイとJ・C・マッキンリーは、実際の回答データをもとに質問紙を作り上げました。

どの研究者も、同じ検査を作っていたわけではありません。

それぞれが異なる方法で、

「人の性格を、より正確に理解するにはどうすればよいのか。」

という問いに向き合っていたのです。

ユウキさんは、最初に抱いた疑問を思い出しました。

「どうして、同じ性格を調べるのに、こんなに方法が違うんだろう。」

その答えは、とてもシンプルでした。

人の心は、一つの方法だけでは捉えきれないから。

だからこそ、研究者たちは違う角度から研究を進め、それぞれの成果が積み重なって、現在の性格検査へとつながっていったのです。

もちろん、その歴史には、後に否定された考え方や、修正された理論もありました。

しかし、それもまた、心理学が「より正確に人を理解しよう」と検証を続けてきた証でもあります。

図書室を出る頃には、ユウキさんの性格検査に対する見方は変わっていました。

以前は、

「この検査は当たるのかな。」

と結果だけを気にしていました。

けれども、これからは、

「この検査は、どのような考え方にもとづいて作られたのだろう。」

「どのような目的で使われる検査なのだろう。」

と、その背景にも目を向けてみようと思いました。

検査の結果だけではなく、その検査が生まれた歴史や目的を知ることで、人の心をより深く理解できるかもしれないと感じたのです。

あなたは、この記事を読む前と比べて、性格検査の見方に何か変化はあったでしょうか。

もし次に性格検査や心理テストを目にしたときは、「当たる・当たらない」だけではなく、「どのような考え方から生まれた方法なのだろう」という視点でも眺めてみてください。

きっと、これまでとは違った心理学の面白さが見えてくるはずです。

15. 文章の締めとして

この記事では、心理学における性格検査の歴史を変えた五人の研究者を通して、人の性格を理解しようとした歩みをたどってきました。

その歴史を振り返ると、性格検査は一人の天才が完成させた発明ではなく、多くの研究者が異なる視点から問いを立て、検証を重ね、時には間違いを修正しながら築き上げてきた学問であることが分かります。

だからこそ、現在私たちが目にする性格検査も、「絶対に正しい答え」を示すものではなく、人をより深く理解するための一つの手がかりとして発展し続けています。

過去の研究を知ることは、昔の心理学者の名前を覚えることではありません。

「人を理解することは、簡単ではない」という事実と、それでもより良い方法を探し続けてきた研究者たちの姿勢を知ることでもあります。

もし、この記事をきっかけに、性格検査や心理学をこれまでとは少し違う視点で見るようになったなら、とても嬉しく思います。

注意補足

本記事は、現在公表されている心理学や心理学史に関する文献・資料などをもとに、筆者が個人で調べられる範囲で内容を整理・紹介したものです。

心理学は現在も研究が続けられている学問であり、新しい研究成果によって考え方や評価が見直されることがあります。また、歴史上の人物や理論についても、研究者によって解釈や評価が異なる場合があります。

🧭 本記事のスタンス

本記事は、「これが唯一の正解」であることを示すものではありません。

性格検査の歴史や心理学に興味を持ち、読者自身が資料を調べ、さらに学びを深めるための一つの入り口としてお読みいただければ幸いです。

心理学の研究や、歴史上の人物に対する評価には、さまざまな立場があります。異なる資料や考え方にも触れながら、自分なりの視点で心理学の歴史をたどってみてください。

性格を「測る」学びから、人の心を「はかる」まなざしへ――この記事で生まれた問いを道しるべに、文献を読み、研究をたどり、あなた自身の学びをさらに深めてみてください。

最後までお読みいただき、

ありがとうございました。

人を理解することは、一つの答えを見つけることではなく、問い続け、学び続けることの大切さを教えてくれているのかもしれません。

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