「マジカルナンバー7±2」はジョージ・A・ミラーの研究だけでは語れません。本記事では、ミラーをはじめ、ネルソン・コーワン、アラン・バドリー、グラハム・ヒッチ、ウィリアム・チェイス、ハーバート・A・サイモンの6人の研究者を時系列で整理しながら、チャンク(チャンク化)やワーキングメモリとの関係をやさしく解説します。心理学における記憶研究の流れを、初めて学ぶ方にも分かりやすく紹介します。

心理学における「マジカルナンバー7±2」の重要人物6人|ミラーからコーワン、バドリーまで研究の流れをやさしく解説
代表例
次の数字を、数秒だけ見て覚えてみてください。
8・2・5・1・9・4・7
では、こちらはどうでしょうか。
8・2・5・1・9・4・7・3・6・0・2・8・5・1・4
数字が増えると、順番が混ざったり、最初の数字を忘れたりすることがあります。
一方で、同じ情報でも電話番号のように区切ったり、知っている意味と結びつけたりすると、覚えやすくなる場合があります。
人間は、一度にどのくらいの情報を扱えるのでしょうか。

そして、私たちは限られた記憶を、どのような工夫で使っているのでしょうか。
こうした疑問を考える入り口として有名になったのが、心理学における「マジカルナンバー7±2」です。
この言葉の中心人物は、アメリカの心理学者ジョージ・A・ミラーです。しかし、その後の記憶研究は、ミラー一人だけで進んだわけではありません。
この記事では、記憶容量、ワーキングメモリ、チャンク、熟達という異なる角度から研究の発展に関わった6人を紹介します。
5秒でわかる結論
「マジカルナンバー7±2」という言葉を広く知られるものにした中心人物は、ジョージ・A・ミラーです。
ただし、人間の記憶容量とチャンクを広く理解するには、次の6人が重要です。
- ジョージ・A・ミラー
「7±2」という有名な問題を示した人物 - ネルソン・コーワン
条件を限定すると、中心的な容量は3~5チャンク程度ではないかと再検討した人物 - アラン・バドリー
- グレアム・ヒッチ
情報を一時的に保ちながら処理するワーキングメモリのモデルを提案した人物 - ウィリアム・チェイス
- ハーバート・A・サイモン
チェスの熟達者研究を通して、知識とチャンクの関係を研究した人物
6人全員が「7±2」を提唱したわけではありません。
ミラーの問いを出発点として、人間が情報をどのように保持し、まとめ、利用するのかを理解するうえで重要な研究者たちです。
小学生にもわかりやすく言うと
昔、ミラーという心理学者が、
「人は、一度にどれくらいの情報を扱えるのだろう?」
という問題を考えました。
そこから有名になった言葉が、「マジカルナンバー7±2」です。
けれども、研究はそこで終わりませんでした。
別の心理学者たちは、
「本当にいつでも7個くらいなのかな?」
「覚えるだけでなく、考えながら情報を使う仕組みもあるのでは?」
「知識が増えると、いくつもの情報を一つのまとまりとして見られるのでは?」
と考え、研究を続けました。

つまり、6人が同じ答えを発見したのではありません。
それぞれが違う角度から、人間の記憶の仕組みを少しずつ明らかにしていったのです。
1.このようなことはありませんか?
電話で聞いた番号を、入力する前に一部忘れてしまった。
買い物に必要なものを覚えていたはずなのに、店に着くと思い出せなくなった。
勉強する内容をそのまま暗記するのは難しいのに、意味のあるグループに分けると覚えやすくなった。
将棋やチェスに詳しい人が、初心者には複雑に見える場面を一目で理解しているように感じた。
こうした経験には、人間が一度に扱える情報の限界と、情報を意味のあるまとまりとして捉える働きが関係しています。
その「意味のあるまとまり」は、心理学ではチャンク(chunk)と呼ばれます。
ただし、チャンクは、数字や言葉を見た目だけで区切れば必ず作れるものではありません。本人が持っている知識や経験によって、何が一つのまとまりになるかは変わります。
「マジカルナンバー7±2」は、このような記憶の限界と情報のまとめ方を考える入り口として有名になりました。
しかし、
「人間は、どのような場合でも7個前後まで覚えられる」
という単純な法則ではありません。
何を覚えるのか、どのような方法で測るのか、反復や知識を利用できるのかによって、観察される容量は変わります。
2.疑問に思った物語
「結局、誰の研究なの?」
大学で心理学を学び始めた美咲さんは、授業で「マジカルナンバー7±2」という言葉を知りました。
先生は、こう説明しました。
「この言葉で最も有名なのは、ジョージ・A・ミラーです」
美咲さんはノートに、
マジカルナンバー7±2=ミラー
と書きました。
ところが、授業が進むと、別の人物の名前が次々に登場します。
「コーワンは、中心的な記憶容量を3~5チャンク程度と考えました」
「バドリーとヒッチは、ワーキングメモリのモデルを提案しました」
「チェイスとサイモンは、チェス熟達者とチャンクの関係を研究しました」
ここでいうワーキングメモリ(working memory)とは、情報を短いあいだ保つだけでなく、それを使って考えたり、理解したりする働きを表す考え方です。
美咲さんは、疑問に思いました。
「マジカルナンバー7±2は、ミラー一人の研究ではないの?」
「コーワンは、ミラーの考えを否定したの?」
「ワーキングメモリやチェスの研究は、7±2とどのようにつながるの?」

実は、この6人は全員が同じ問題を、同じ方法で研究したわけではありません。
ミラーとコーワンは主に記憶容量の数を論じ、バドリーとヒッチは情報を保持しながら処理する仕組みを考えました。そして、チェイスとサイモンは、専門知識によって情報の見え方やまとまり方が変わることを研究しました。
それぞれの役割を分けて考えると、6人の関係が分かりやすくなります。
3.すぐにわかる結論
お答えします。
「マジカルナンバー7±2」の中心人物は、ジョージ・A・ミラーです。
ミラーは1956年の論文で、刺激を見分ける絶対判断、直後に再生できる項目数を調べる記憶範囲、情報を別のまとまりに組み替えるリコーディング(recoding/リコーディング)などを論じました。
ただし、ミラーは、
「人間の記憶容量は、いつでも正確に7±2個である」
と証明したわけではありません。
論文では、異なる研究で「7」に近い数字が現れることを、印象的で修辞的な題名によってまとめています。ミラー自身も、それらが同じ仕組みによって生じた一つの普遍的限界だと断定してはいません。
その後、ネルソン・コーワンは、反復や長期記憶の助けなどをできるだけ分けて考えると、中心的な記憶容量は3~5チャンク程度ではないかと論じました。
これは、ミラーの研究を単純に否定したものではありません。
「どのような条件で、何の容量を測っているのか」を、より細かく整理した研究です。
アラン・バドリーとグレアム・ヒッチは1974年、記憶を単なる一時的な保管場所としてではなく、情報を保ちながら推論、理解、学習を行うための仕組みとして捉えるワーキングメモリモデルを提案しました。二人が「7±2」という数字を直接修正したのではなく、研究の焦点を「何個覚えられるか」から「情報をどのように保ち、処理するか」へ広げた点が重要です。
ウィリアム・チェイスとハーバート・A・サイモンは、チェスの熟達者が実際の対局に近い盤面を、初心者より正確に再現できる現象を研究しました。
その結果は、熟達者がすべての駒を一つずつ記憶しているのではなく、長年の経験で身につけた意味のある配置を、チャンクとして認識しているという説明につながりました。ただし、無作為に並べられた盤面では熟達者の優位が小さくなるため、単純に「専門家は記憶容量が大きい」という話ではありません。

6人の役割を短くまとめると、次のようになります。
ミラーが有名な問いを示し、
コーワンが容量をより厳密に再検討し、
バドリーとヒッチが情報を保持しながら処理する仕組みを示し、
チェイスとサイモンが知識とチャンクの関係を具体的に研究した。
したがって、今回紹介する6人は、全員が「マジカルナンバー7±2の提唱者」なのではありません。
「7±2」という有名な問題を出発点として、人間が限られた情報をどのように保持し、整理し、利用するのかを理解するための重要人物たちなのです。
ここからは、まず「マジカルナンバー7±2」が本来どのような研究だったのかを確認し、その後、6人それぞれが果たした役割を詳しく見ていきます。
4.『マジカルナンバー7±2』とは?
6人を理解するための前提知識
ここからは、「マジカルナンバー7±2」と、それに関連する6人の研究者について、正式な研究内容に沿って詳しく見ていきます。
最初に押さえておきたいのは、マジカルナンバー7±2が、
人間は、どのような場合でも必ず7個前後の情報を覚えられる
という普遍的な法則ではないことです。
「マジカルナンバー7±2」の由来
この言葉は、アメリカの心理学者ジョージ・A・ミラーが1956年に発表した論文、
The Magical Number Seven, Plus or Minus Two: Some Limits on Our Capacity for Processing Information
(ザ・マジカル・ナンバー・セブン、プラス・オア・マイナス・トゥー:サム・リミッツ・オン・アワ・キャパシティ・フォー・プロセシング・インフォメーション)
の題名に由来します。
「7±2」は、7を中心とするおよそ5から9の範囲を表します。
しかし、この論文は「短期記憶には5~9個の情報が入る」とだけ述べたものではありません。ミラーは主に、絶対判断、記憶範囲、情報のリコーディングという複数の問題を取り上げました。

絶対判断――刺激をいくつまで区別できるのか
絶対判断とは、比較用の見本をその場で確認せず、示された刺激がどの種類に当たるかを答える課題です。
例えば、高さの異なる音を一つ聞き、それがあらかじめ決められた何番の音かを答えます。
選択肢が少なければ比較的正確に判断できますが、種類が増えるにつれて間違いも増えます。
ミラーは、この限界をビット(bit)という情報量の単位を用いて検討しました。ただし、ここで測られているのは、数字を何個覚えられるかという単純な記憶課題ではなく、刺激をどの程度まで正確に分類できるかです。
記憶範囲――いくつの項目を順番どおり再生できるのか
一方の記憶範囲は、数字や文字などを短時間示したあと、正しい順番でどこまで言い直せるかを調べるものです。
こうした課題では、再生できる項目数が7前後になる結果が多く報告されていました。
この部分が広く知られたことで、
人間の短期記憶の容量は7±2である
という説明が一般に広まりました。
しかし、ミラーが重視したのは、項目の数だけではありませんでした。人は複数の情報をまとめ直すことによって、一度に扱う単位そのものを変えられると考えたのです。
リコーディングとチャンク
複数の情報を、別のまとまりとして符号化し直すことを、リコーディング(recoding)といいます。
例えば、
H・2・O
という3つの記号を、それぞれ別々の情報として覚えるのではなく、「水」を表す化学式という一つのまとまりとして捉えることができます。
化学を学んだことがある人にとっては、「H₂O」は単なる3文字ではなく、水という意味をもつ一つの情報として認識されます。一方で、化学に触れたことがない人にとっては、3つの記号の並びとしてしか見えないかもしれません。
このような、本人にとって意味をもつ情報の単位が、チャンク(chunk)です。
重要なのは、チャンクが単なる見た目上の区切りではないことです。
どの情報を一つのチャンクとして扱えるかは、その人がすでに持っている知識や経験によって変わります。そのため、同じ情報を見ても、初心者と専門家では、認識できるまとまりの大きさが異なる場合があります。
つまり、保持できるチャンク数に限界があったとしても、一つのチャンクに含まれる情報量まで常に同じとは限りません。
なぜ「7」がこれほど有名になったのか
ミラーの論文では、絶対判断や記憶範囲など、性質の異なる研究の中に「7」に近い数字が繰り返し現れました。
ミラーは、その一致を「マジカルナンバー7±2」という印象的な題名で表現しました。
ただし、題名には読者の関心を引くための修辞的でユーモラスな性格もあります。ミラー自身も、異なる課題で現れた限界が、すべて同じ心理的な仕組みによって生じているとは断定していません。
したがって、
ミラーは、人間の記憶容量が常に7±2であると証明した
と理解するのは正確ではありません。
より適切には、
人間の情報処理には複数の限界があり、その一部で7前後という数字が見られた
と理解する必要があります。
現代では「7」より「4」なのか
その後、ネルソン・コーワンは2001年、反復や長期記憶の助け、チャンク化などの影響をできるだけ区別した場合、中心的な記憶容量はおよそ3~5チャンクではないかと論じました。
中心値として4が強調されることから、「マジカルナンバー4」と表現されることもあります。
ただし、これは、
昔は7だったが、現在は4が正しい
という意味ではありません。
ミラーとコーワンでは、対象とした課題や、測定から除こうとした要因が異なります。反復を利用できるのか、長期記憶の知識を使えるのか、情報を意味のあるチャンクにできるのかによって、観察される容量は変わります。
現代の心理学では、数字だけを比較するのではなく、
どのような条件で、何を、一つの単位として数えているのか
を明確にすることが重要です。
「何個覚えられるか」から研究は広がった
ミラーが投げかけた問題は、その後、さまざまな方向へ発展しました。
ネルソン・コーワンは、余分な助けをできるだけ区別し、中心的な記憶容量を再検討しました。
アラン・バドリーとグレアム・ヒッチは、情報を一時的に保つだけでなく、それを使って推論、理解、学習を行うワーキングメモリ(working memory)のモデルを提案しました。
ウィリアム・チェイスとハーバート・A・サイモンは、チェスの熟達者を調べ、専門知識によって盤面を意味のあるパターンとして認識できることと、チャンクとの関係を研究しました。
この6人は、全員が「7±2」という数字を直接研究したわけではありません。
それぞれが、
- 情報をどのくらい保持できるのか
- 情報をどのようにまとめるのか
- 保持した情報をどのように処理するのか
- 知識や経験が記憶をどのように支えるのか
という異なる問題に取り組みました。
その研究を順番にたどることで、「人は何個覚えられるのか」という数字の問題から、「人は限られた記憶をどのように使って考えているのか」という、より広い認知心理学の問いが見えてきます。
次の段落では、その出発点となったジョージ・A・ミラーの人物像と、1956年の論文が心理学に与えた影響を詳しく見ていきます。
5.『ジョージ・A・ミラー』
「7±2」という問いを心理学史に残した人物
ジョージ・アーミテージ・ミラー(George Armitage Miller)は、1920年2月3日にアメリカのウェストバージニア州チャールストンで生まれ、2012年7月22日に亡くなった心理学者です。

ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学、ロックフェラー大学、プリンストン大学などで研究し、人間の記憶、言語、情報処理を心理学の研究対象として発展させました。現在では、認知心理学と認知科学の成立に大きく貢献した人物の一人と評価されています。
ミラーが研究活動を始めた当時は、外から観察できる行動を重視する行動主義が、アメリカ心理学の中心的な立場でした。
しかしミラーは、人間が情報をどのように受け取り、整理し、記憶し、言葉として扱うのかという、心の内部の働きも科学的に研究できると考えました。
この研究姿勢は、心を情報処理の仕組みとして研究する認知心理学の発展につながっていきます。
1956年に発表した有名な論文
ミラーの名前を広く知らしめたのが、1956年に心理学誌『Psychological Review(サイコロジカル・レビュー)』へ発表した次の論文です。
The Magical Number Seven, Plus or Minus Two: Some Limits on Our Capacity for Processing Information
(ザ・マジカル・ナンバー・セブン、プラス・オア・マイナス・トゥー――人間の情報処理能力におけるいくつかの限界)
この論文でミラーは、前章で紹介した絶対判断、記憶範囲、情報の組み替えに関する研究を取り上げました。
ただし、この論文は、
人間は、どのような情報でも必ず7個前後まで覚えられる
と証明したものではありません。
ミラーは、性質の異なる複数の研究で7に近い数字が現れることに注目しましたが、それらがすべて同じ心理的限界によって生じているとは断定していません。
論文の題名にある「マジカル」という言葉も、厳密な自然法則を宣言したものではなく、異なる研究に似た数字が現れる不思議さを表現した、印象的で少しユーモラスな言葉でした。
ミラーが重要視した「情報の単位」
ミラーの研究で特に重要なのは、単純に「何個覚えられるか」だけでなく、何を一個として数えるのかという問題を示したことです。
人間は、複数の情報を意味のある一つのまとまりに組み替えることがあります。この組み替えをリコーディング(recoding)といい、組み替えられた情報のまとまりをチャンク(chunk)と呼びます。
例えば、「1・9・4・5」を四つの数字として見る場合と、「1945年」という一つの歴史的な年として理解する場合では、同じ数字列でも情報の扱い方が異なります。
ただし、何が一つのチャンクになるかは、情報そのものだけで決まりません。本人が持っている知識や経験によって変わります。
この視点は、後にウィリアム・チェイスやハーバート・A・サイモンが行った、専門家の記憶研究にも引き継がれました。
言語研究とワードネット
ミラーは、短期記憶だけを研究した心理学者ではありません。
人間が言葉をどのように理解し、文をどのように処理するのかという心理言語学の発展にも貢献しました。
さらに晩年には、英単語の意味や関係をコンピューター上で整理したワードネット(WordNet)の開発を主導しました。ワードネットは、同義語や上位概念、下位概念などの関係によって単語を結びつけた語彙データベースです。
記憶、言語、コンピューター科学へと研究を広げた経歴からは、ミラーが一つの分野だけにとどまらず、人間の心を複数の角度から理解しようとした研究者だったことが分かります。
ミラーの本当の功績
ミラーの功績は、「人間の記憶容量は7である」という最終的な答えを出したことではありません。
むしろ、
- 人間の情報処理にはどのような限界があるのか
- 情報を数える単位とは何か
- 知識によって情報のまとめ方はどう変わるのか
という、後の研究者が検討する大きな問いを提示したことにあります。
「7±2」は現在、すべての記憶課題に当てはまる固定的な法則とは考えられていません。
それでもミラーは、情報処理の限界とチャンクという考え方を広く知らしめ、その後の記憶研究の出発点をつくった重要人物です。
6.『ネルソン・コーワン』
記憶容量を実験条件から見直した心理学者
ネルソン・コーワン(Nelson Cowan)は、アメリカの心理学者です。
一般に公開されている大学の公式プロフィールでは、正確な生年月日は明示されていません。そのため、本記事では確認できない生年月日を推測して掲載せず、研究歴を中心に紹介します。

コーワンは、1973年にミシガン大学を卒業し、1980年にウィスコンシン大学で心理学の博士号を取得しました。その後、ミズーリ大学で長く研究と教育に携わり、現在は同大学の名誉特別教授です。
主な研究分野は、短期記憶、ワーキングメモリ、注意、聴覚と視覚の情報処理、子どもの記憶発達です。
「7ではなく4」と単純に言ったのではない
コーワンの代表的な研究として知られているのが、2001年に発表した次の論文です。
The Magical Number 4 in Short-Term Memory: A Reconsideration of Mental Storage Capacity
(ザ・マジカル・ナンバー・フォー・イン・ショートターム・メモリ――心的な記憶容量の再検討)
この題名から、コーワンの研究は、
ミラーの7は間違いで、本当の答えは4だった
と説明されることがあります。
しかし、これは正確ではありません。
コーワンが検討したのは、従来の記憶課題で観察される成績の中から、反復、長期記憶、知識によるチャンク化などの助けをできるだけ区別したとき、注意の中心に同時に保てる情報量がどの程度なのかという問題です。
その検討から、成人の中心的な記憶容量は、多くの条件でおよそ3~5チャンク、中心的な値としては約4チャンクと考えられると論じました。
なぜ記憶範囲では7前後になることがあるのか
数字や単語を覚える課題では、私たちは提示された情報をそのまま受け取っているだけではありません。
例えば、次のような助けを利用できます。
- 頭の中で言葉を繰り返す
- 既に知っている情報と結びつける
- 複数の項目を一つのまとまりにする
- 規則性や意味を見つける
情報を心の中で繰り返すことを、リハーサル(rehearsal)といいます。
リハーサルや長期記憶の助けを利用できる課題では、単純な保存容量よりも多くの情報を再生できる場合があります。
そのためコーワンは、実験で得られた数字だけを見るのではなく、
その数字は、どのような条件の下で得られたのか
を慎重に区別する必要があると考えました。
注意の焦点という考え方
コーワンは、ワーキングメモリを複数の独立した保存箱だけで説明するのではなく、長期記憶、注意、意識の関係から捉えるモデルも発展させました。
この考え方は、一般に埋め込み過程モデル(embedded-processes model/エンベデッド・プロセシズ・モデル)と呼ばれます。
このモデルでは、長期記憶の一部が一時的に活性化し、その中のさらに限られた情報へ注意が向けられると考えます。
つまり、私たちが現在意識して扱える情報は、長期記憶全体ではなく、その時点で活性化し、注意を向けられている一部分です。
どのような研究者なのか
コーワンの研究姿勢の特徴は、分かりやすい一つの数字を示すだけでなく、その数字が生まれる条件を細かく検討することです。
また、成人だけでなく子どもの記憶発達も研究し、ワーキングメモリ容量や注意の働きが成長とともにどのように変化するのかを調べてきました。
コーワンの功績は、「7」という数字を「4」に置き換えたことではありません。
記憶容量を語るときには、
- 何を一つのチャンクとして数えるのか
- 反復を利用できるのか
- 長期記憶の助けがあるのか
- 注意をどこまで集中できるのか
を分けて考えなければならないと示した点にあります。
したがって、「約4チャンク」も、すべての人と課題に当てはまる新しい絶対法則ではありません。
7.『アラン・バドリー』
記憶を「保存」から「作業」へ広げた心理学者
アラン・デイヴィッド・バドリー(Alan David Baddeley)は、1934年生まれのイギリスの心理学者です。ワーキングメモリの多成分モデルを提唱したことで知られ、現在も研究活動を続けています。

ケンブリッジ大学などで学び、イギリス医学研究評議会の応用心理学研究部門やヨーク大学などで、人間の記憶を研究してきました。
現在はヨーク大学の名誉教授であり、人間の記憶、認知心理学、神経心理学などの研究で知られています。ヨーク大学は、バドリーを世界的に高く評価されている記憶研究者であり、グレアム・ヒッチとともにワーキングメモリモデルを発展させた人物として紹介しています。
ワーキングメモリという新しい見方
1974年、バドリーはグレアム・ヒッチとともに、ワーキングメモリ(working memory)の原型となるモデルを発表しました。
それまでの短期記憶は、情報を短時間保存する一つの場所として捉えられることが多くありました。
しかし、日常生活では情報を保存するだけではありません。
例えば暗算では、途中の数字を一時的に覚えながら、計算を進める必要があります。
文章を読むときには、前の文の内容を保ちながら、次の文を理解しなければなりません。
バドリーとヒッチは、このように情報を一時的に保ちながら、同時に理解、計算、推論などを行う仕組みをワーキングメモリとして捉えました。
1974年の研究では、記憶に負荷をかけた状態で、推論、文章理解、学習などを行わせる実験が示されています。
複数の仕組みからなる記憶モデル
1974年に示された原型は、その後の研究によって整理され、主に次のような構成要素を持つモデルへ発展しました。
中央実行系
中央実行系(central executive/セントラル・エグゼクティブ)は、注意をどこへ向けるかを調整し、複数の作業を管理する仕組みです。
大量の情報を保存する倉庫というよりも、どの作業を優先するかを決める管理役に近い存在です。
音韻ループ「おんいんループ」
音韻ループ(phonological loop/フォノロジカル・ループ)は、言葉や音声に関する情報を短時間保つ仕組みです。
電話番号を頭の中で繰り返したり、聞いた単語を一時的に覚えたりするときに関係します。
視空間スケッチパッド
視空間スケッチパッド(visuospatial sketchpad/ヴィジュオスペーシャル・スケッチパッド)は、形、位置、方向など、視覚的・空間的な情報を扱う仕組みです。
地図を思い浮かべたり、物の配置を記憶したりするときに働きます。
理論を完成品として固定しなかった
バドリーの人物像を理解する上で重要なのは、自分が提案したモデルを最初の形のまま守り続けたわけではないことです。
研究が進むと、音声情報、視空間情報、長期記憶から取り出した知識を、どのように一つのまとまりとして結びつけるのかという問題が生まれました。
そこでバドリーは、2000年にエピソーディック・バッファ(episodic buffer)という構成要素を追加しました。
エピソーディック・バッファは、異なる種類の情報や長期記憶の知識を、一時的なまとまりへ統合する仕組みです。
例えば物語を理解するには、登場人物、場所、直前の文章、過去の知識などを結びつけなければなりません。そのような情報の統合に関係する仕組みとして提案されました。
新しい証拠に合わせて自らの理論を修正したことからは、最初の主張に固執せず、説明力を高めようとしたバドリーの研究姿勢が分かります。
マジカルナンバー7±2との関係
バドリーは、ミラーの7±2を直接修正した人物ではありません。
また、「7ではなく別の数字が正しい」と主張したわけでもありません。
バドリーの重要性は、記憶研究の中心を、
何個保存できるのか
という容量だけの問題から、
情報を保ちながら、どのように考え、理解し、操作するのか
という処理の問題へ広げた点にあります。
同じ数の情報でも、音声として覚えるのか、図として覚えるのか、別の作業を同時に行うのかによって成績は変わります。
バドリーは、記憶を一つの単純な保存箱ではなく、異なる役割を持つ仕組みが協力するシステムとして説明した重要人物です。
8.『グレアム・ヒッチ』
共同研究によってワーキングメモリの原型を築いた心理学者
グレアム・ジェームズ・ヒッチ(Graham James Hitch)は、イギリスの心理学者です。
一般に公開されているヨーク大学の資料では正確な生年月日は明示されていないため、本記事では確認できない日付を断定しません。

ヒッチは、記憶、ワーキングメモリ、子どもの認知発達、暗算などを研究し、ヨーク大学の教授を務めました。現在は同大学の名誉教授です。
一般向けの記事では、ワーキングメモリモデルが「バドリーのモデル」とだけ呼ばれることがあります。
しかし、その原型となった1974年の研究は、バドリーとヒッチによる共同研究です。ヨーク大学も、ワーキングメモリモデルを両者が共同で発展させたものとして紹介しています。
二重課題から記憶の仕組みを調べた
ヒッチとバドリーが利用した重要な研究方法の一つが、二重課題(dual task/デュアル・タスク)です。
二重課題とは、二つの作業を同時に行わせ、それぞれの成績がどのように変化するかを調べる方法です。
例えば、数字を一時的に覚えながら、文章を理解したり、論理的な判断をしたりする課題が考えられます。
もし短期記憶が一つの単純な保存場所であり、その容量を使い切ると他の処理ができなくなるのであれば、数字の記憶負荷が増えた時点で、推論や理解は大きく崩れるはずです。
しかし実験では、負荷が高まることで成績は低下するものの、理解や推論が完全に不可能になるわけではありませんでした。
このような結果から、記憶には一つの機能だけではなく、情報の保持と処理を支える複数の仕組みがあると考えられました。
ヒッチが研究を広げた領域
ヒッチは、ワーキングメモリモデルの共同提案後も、記憶理論を子どもの発達や実際の認知活動へ広げました。
特に、子どもが言葉や数字をどのように覚えるのか、暗算をするときに一時的な記憶がどのような役割を果たすのかなどを研究しています。
子どもは成長するにつれて、単に多くの情報を覚えられるようになるだけではありません。
知っている言葉が増え、情報をまとめる方法を学び、注意を調整する能力も発達します。
ヒッチの研究は、記憶容量を固定された数字として見るのではなく、発達や課題の種類によって働き方が変わる仕組みとして理解することにつながりました。
バドリーとの違い
バドリーとヒッチは共同研究者であるため、二人の章には共通する内容があります。
しかし、記事の中では次のように役割を分けて理解すると分かりやすくなります。
バドリーは、ワーキングメモリモデル全体を長年にわたって整理し、音韻ループ、視空間スケッチパッド、エピソーディック・バッファなどへ理論を発展させた人物です。
一方のヒッチは、二重課題などの実験を通してモデルの出発点を共同で築き、子どもの記憶や暗算など、具体的な認知活動へ研究を展開した人物です。
ヒッチはバドリーの補助者ではなく、ワーキングメモリ理論を最初から共同で築いた研究者です。
マジカルナンバー7±2との関係
ヒッチも、7±2という数字を直接変更した人物ではありません。
彼の研究が示したのは、記憶の成績が、保存する情報の数だけでは決まらないということです。
私たちが「覚えながら考える」ときには、情報の保持、注意の配分、課題の切り替えなどが同時に行われています。
ヒッチは、マジカルナンバーを単なる個数の問題として見るだけでは不十分であり、記憶を使って何をしているのかまで考える必要があると示した重要人物です。
9.『ウィリアム・G・チェイス』
専門家の優れた記憶を研究した心理学者
ウィリアム・G・チェイス(William G. Chase)、1940年7月23日生まれので1983年12月16日に亡くなった、アメリカの心理学者です。

ウィスコンシン大学で博士号を取得した後、カーネギーメロン大学で研究と教育に携わりました。
主な研究テーマは、人間の情報処理、視覚認知、記憶技能、専門家の熟達です。
チェイスが研究したのは、単純に「人は何個の情報を覚えられるのか」という問題だけではありません。
長い訓練を積んだ専門家が、なぜ初心者よりも多くの情報を正確に認識し、記憶し、活用できるのかを研究しました。
とくに、ハーバート・A・サイモンと行ったチェス熟達者の研究で知られています。この研究は、専門家の優れた記憶が、単純に短期記憶の容量が大きいからではなく、経験によって情報を意味のあるまとまり、すなわちチャンクとして認識できることと深く関係していると考える重要な手がかりになりました。
サイモンと行ったチェス研究
チェイスの代表的な研究が、ハーバート・A・サイモンと行ったチェス熟達者の研究です。
1973年に発表された研究では、熟達度の異なるチェス選手に盤面を見せ、駒の配置を再現させました。
研究では、主に二種類の盤面が用いられました。
一つは、実際の対局で現れる可能性のある、意味のある盤面です。
もう一つは、駒の位置を無作為に並べた盤面です。
意味のある盤面では、熟達者は初心者よりも駒の位置を正確に再現しました。
ところが、無作為に配置された盤面では、実戦的な盤面で見られた熟達者の大きな優位が著しく小さくなりました。
熟達者は一つずつ覚えていない
この結果は、熟達者がすべての駒を一つずつ独立して覚えているわけではないことを示しています。
熟達者は長年の経験によって、駒の配置を、
- 王を守る形
- 攻撃の形
- 駒同士が連携する形
- よく現れる戦術的な配置
などの意味あるパターンとして認識できます。
初心者には多くの独立した駒に見える盤面が、熟達者には少数の意味あるまとまりとして見えるのです。
このまとまりを説明するために使われたのが、ミラーも重視したチャンクという考え方です。
専門家は記憶容量そのものが大きいのか
この研究から、
専門家は、生まれつき短期記憶の容量が大きい
と結論づけることはできません。
熟達者の優位は、特に本人が多くの知識を持つ専門領域で現れます。
意味のない配置では優位が大きく縮小することから、専門家の記憶を支えているのは、単純に大きな保存容量だけではなく、長期記憶に蓄えられた知識だと考えられます。
ただし、その後の研究では、熟達者の記憶には小さなチャンクだけでなく、より大きな知識構造や長期記憶から情報を取り出す仕組みも関係すると考えられています。
したがって、チェイスとサイモンが専門家の記憶をチャンクだけで完全に説明したわけではありません。
二人は、専門知識が知覚と記憶をどのように変えるかについて、有力な説明と研究方法を示したのです。
訓練によって変わる記憶
チェイスは、訓練によって数字列の記憶成績が大きく向上する過程についても研究しました。
このような研究で重要なのは、訓練によって人間の生物学的な短期記憶容量がそのまま巨大化したと考えないことです。
練習を重ねた人は、数字を既に知っている記録や意味あるパターンへ置き換えるなど、長期記憶を利用した方法を身につけます。
つまり、記憶の成績は、保存容量だけではなく、情報をどのように符号化し、長期記憶と結びつけるかによって変化します。
マジカルナンバー7±2との関係
チェイスの研究は、チャンクが単なる語呂合わせや一時的な暗記の工夫ではないことを示しました。
専門家が使うチャンクは、長い経験と学習の中で形成された、意味のある知識構造です。
チェイスは、
人は何個覚えられるのか
という問いを、
知識と訓練によって、一つの情報単位はどのように変わるのか
という問いへ発展させた人物です。
10.『ハーバート・A・サイモン』
記憶の限界を問題解決と認知科学へ広げた研究者
ハーバート・アレクサンダー・サイモン(Herbert Alexander Simon)は、1916年6月15日にアメリカのウィスコンシン州ミルウォーキーで生まれ、2001年2月9日に亡くなった研究者です。

シカゴ大学で学び、1943年に政治学の博士号を取得しました。1949年からは、後のカーネギーメロン大学で研究を行いました。
サイモンの研究分野は非常に広く、心理学、経済学、経営学、政治学、コンピューター科学、認知科学、人工知能などに及びます。
1978年には、組織における意思決定過程の研究によって、ノーベル経済学賞と呼ばれるスウェーデン国立銀行賞を受賞しました。
限界のある人間を研究した
サイモンの研究を貫く重要な考え方は、人間の能力には限界があるということです。
現実の人間は、
- 必要な情報をすべて集められるわけではない
- 無限の選択肢を比較できるわけではない
- 記憶できる情報量に限界がある
- 判断に使える時間にも限りがある
という条件の中で考えています。
サイモンは、こうした人間の性質を限定合理性(bounded rationality/バウンデッド・ラショナリティ)という考え方で説明しました。
これは、人間が非合理的で何も考えていないという意味ではありません。
限られた情報、時間、計算能力の中で、現実的に受け入れられる判断をしようとするという考え方です。
チェス研究で明らかにしようとしたこと
サイモンはウィリアム・チェイスとともに、チェス熟達者の記憶と知覚を研究しました。
チェスでは、一つの局面から考えられる手が次々に枝分かれします。そのため、すべての可能性を同じ深さまで調べることはできません。
熟達者は、過去の経験によって蓄積された盤面のパターンを利用し、有望な手や重要な配置を素早く見つけます。
つまり専門家は、無限に近い可能性を一つずつ調べるのではなく、長期記憶にある知識を使って、検討すべき範囲を絞っています。
チェイスとの研究では、この専門知識が盤面の見え方と記憶の仕方を変えることが検討されました。
認知科学と人工知能への展開
サイモンは、アレン・ニューウェルらとともに、人間の問題解決をコンピューター上で表現する研究にも取り組みました。
人工知能(artificial intelligence/アーティフィシャル・インテリジェンス)の初期研究では、コンピューターにあらゆる可能性を無差別に調べさせるのではなく、有望な選択肢を選ぶための規則が重視されました。
このような問題解決の方法は、人間が限られた能力の中で、知識を使って探索範囲を絞る仕組みとも関係しています。
サイモンにとって、チェス、組織の意思決定、コンピューターによる問題解決は、まったく無関係な研究テーマではありませんでした。
その中心には常に、
限界のある人間は、どのように複雑な問題を解くのか
という問いがありました。
分野を越えて研究した人物
サイモンは、政治学から研究を始め、組織論、経済学、心理学、コンピューター科学、人工知能へと活動を広げました。
しかし、研究対象を気まぐれに変えたわけではありません。
人間がどのように情報を選び、記憶し、判断し、問題を解決するのかという一貫した問いを、異なる学問の方法を使って追究したのです。
一つの専門分野だけで人間の知性を説明しようとせず、心理学、社会科学、コンピューター科学を結びつけた姿勢が、サイモンという人物の大きな特徴です。
マジカルナンバー7±2との関係
サイモンは、7±2という数字を直接提唱した人物ではありません。
しかし、人間の記憶と情報処理には限界があることを前提として、その限界を知識によってどのように補うのかを研究しました。
ミラーが、
人間は一度にどれほどの情報を扱えるのか
という問いを広く提示した人物だとすれば、サイモンは、
限られた人間が、知識を使ってどのように複雑な問題を解くのか
という問いへ研究を広げた人物だといえます。
6人の研究はどのようにつながったのか
ここまで紹介した6人は、全員が同じ実験を行ったわけではありません。
また、一つの理論を順番に完成させた研究チームでもありません。
それぞれの人物が、異なる問いから人間の記憶と情報処理を研究しました。
ジョージ・A・ミラーは、情報処理の限界とチャンクという問題を広く示しました。
ネルソン・コーワンは、反復や長期記憶の影響を区別し、中心的な記憶容量をより厳密に検討しました。
アラン・バドリーは、記憶を単なる保存場所ではなく、情報を保ちながら処理する仕組みとして説明しました。
グレアム・ヒッチは、二重課題などの実験を通してワーキングメモリモデルを共同で築き、発達や暗算の研究へ広げました。
ウィリアム・G・チェイスは、専門家の優れた記憶が、知識と訓練による情報のまとまり方と関係することを研究しました。
ハーバート・A・サイモンは、人間の処理能力の限界を、意思決定、問題解決、認知科学、人工知能へ広げました。

この研究史から分かるのは、「7と4のどちらが正しいか」という単純な数字の争いではありません。
人間の記憶成績は、
- 何を一つの情報単位として数えるか
- どのような課題を行うか
- 反復を利用できるか
- 長期記憶にどれほど知識があるか
- 情報を保ちながら別の処理を行うか
によって変わります。
マジカルナンバー7±2を正しく理解するには、一つの数字だけでなく、この6人がそれぞれ明らかにした容量・注意・処理・知識・熟達の関係を見る必要があるのです。
11.6人の心理学者を時系列で整理すると
第5〜10段落では、マジカルナンバー7±2を理解する上で重要な6人の人物を、それぞれ紹介してきました。
ここでは人物の生まれた順番ではなく、研究が発表された年代順に並べ、人間の記憶に関する研究がどのように広がったのかを整理します。
| 年 | 研究者 | 主な研究 | 研究の焦点 |
|---|---|---|---|
| 1956年 | ジョージ・A・ミラー | 「マジカルナンバー7±2」の論文を発表 | 情報処理の限界、記憶範囲、リコーディング |
| 1973年 | ウィリアム・G・チェイス、ハーバート・A・サイモン | チェス熟達者の知覚と記憶を研究 | 専門知識、パターン認識、チャンク |
| 1974年 | アラン・バドリー、グレアム・ヒッチ | ワーキングメモリの原型となるモデルを提案 | 情報の一時的な保持と処理 |
| 2000年 | アラン・バドリー | エピソーディック・バッファを提案 | 異なる情報と長期記憶の統合 |
| 2001年 | ネルソン・コーワン | 短期記憶容量を再検討 | 注意の中心に保てる約3~5チャンク |

1956年――ミラーが情報処理の限界を問い直す
1956年、ジョージ・A・ミラーは、
The Magical Number Seven, Plus or Minus Two
(ザ・マジカル・ナンバー・セブン、プラス・オア・マイナス・トゥー)
という論文を発表しました。
ミラーが取り上げたのは、記憶できる項目数だけではありません。刺激を区別する絶対判断、数字や文字の記憶範囲、情報を意味のある単位へ組み替えるリコーディングなど、性質の異なる問題を検討しました。
ミラーは、これらすべてが一つの「7」という法則で説明できるとは断定していません。むしろ、人間の情報処理に見られる限界と、情報を数える単位の重要性を問題として提示しました。
1973年――チェイスとサイモンが専門知識に注目する
1973年、ウィリアム・G・チェイスとハーバート・A・サイモンは、チェス熟達者が盤面をどのように知覚し、記憶するのかを研究しました。
意味のある実戦的な盤面では、熟達者は初心者より正確に駒の配置を再現しました。一方、駒を無作為に並べた盤面では、熟達者の大きな優位が縮小しました。
この結果から、熟達者は一つひとつの駒を独立して覚えるのではなく、長期記憶に蓄積された知識を使い、駒の配置を意味のあるまとまりとして認識していると考えられました。
チェイスとサイモンは、ミラーの研究をそのまま再現したのではありません。
ミラーが示した「情報の単位」という問題を、専門知識とパターン認識の側面から具体的に研究したのです。
1974年――バドリーとヒッチが「記憶しながら考える仕組み」を研究する
1974年、アラン・バドリーとグレアム・ヒッチは、ワーキングメモリ(working memory)の原型となるモデルを提案しました。
二人が注目したのは、情報を短時間保存する容量だけではありません。
数字を覚えながら推論したり、文章の内容を保ちながら続きを読むなど、人間が情報を一時的に保持しながら別の処理を行う仕組みを研究しました。
これにより、記憶研究の視点は、
一度に何個覚えられるのか
という問題から、
情報を保ちながら、どのように理解し、計算し、考えるのか
という問題へ広がりました。
2000年――バドリーがモデルを発展させる
バドリーは、1974年のモデルを完成品として固定しませんでした。
2000年には、言語、視覚、空間、長期記憶などから得られる情報を一時的に結びつける仕組みとして、エピソーディック・バッファ(episodic buffer)を提案しました。
これは、研究結果に合わせてワーキングメモリモデルが修正され、発展してきたことを示しています。
2001年――コーワンが中心的な容量を再検討する
2001年、ネルソン・コーワンは、短期記憶容量に関する多くの研究を整理しました。
コーワンは、従来の記憶課題には、
- 頭の中で情報を繰り返すリハーサル
- 長期記憶にある知識
- 複数の項目をまとめるチャンク化
などの助けが含まれると考えました。
こうした影響をできるだけ区別すると、注意の中心に同時に保てる容量は、およそ3~5チャンクではないかと論じました。
これは、ミラーの7を単純に4へ置き換えたものではありません。
ミラーとコーワンでは、取り上げた現象、実験条件、容量として数えようとしたものが異なります。
研究の流れを簡潔にまとめると
6人の研究は、次のようにつながっています。
ミラーが情報処理の限界と情報単位の問題を示し、チェイスとサイモンが専門知識による情報のまとまり方を研究した。バドリーとヒッチは記憶しながら考える仕組みを提案し、コーワンは実験条件を整理して中心的な容量を再検討した。
これは、「7が4に変更された」という単純な歴史ではありません。
容量、チャンク、専門知識、注意、情報処理という複数の方向へ研究が広がり、人間の記憶についての理解が少しずつ深められてきた歴史なのです。
12.6人の心理学者に共通していたこと
6人は、同じ時代に同じ目的で研究していたわけではありません。
研究課題も実験方法も異なるため、「6人全員が同じ主張を伝えようとしていた」と考えるのは正確ではありません。
しかし、6人の研究を総合すると、共通して読み取れる重要な考え方があります。
それは、
人間の記憶には限界があるが、その働きは一つの数字だけでは説明できない
ということです。

記憶容量――一度に扱える情報には限りがある
ミラーとコーワンは、異なる条件と方法から、人間が一度に扱える情報量を研究しました。
ミラーは複数の情報処理課題に現れる限界を取り上げ、コーワンはリハーサルや長期記憶の影響を区別した場合の中心的な容量を検討しました。
二人の研究から分かるのは、「7か4か」という数字の勝負ではありません。
容量を論じるためには、何を測り、何を一つとして数え、どのような助けを利用できるのかを明確にする必要があるということです。
情報のまとまり――何を一個と数えるかで変わる
ミラーは、記憶容量を考える際には、項目数だけでなくチャンクという情報単位が重要だと説明しました。
チェイスとサイモンは、専門家が長期記憶にある知識を使い、複数の情報を意味のあるパターンとして認識する可能性を研究しました。
例えば、初心者には多数の独立した駒に見えるチェス盤面でも、熟達者には少数の意味ある配置として見える場合があります。
つまり、記憶の負担は、目の前にある情報の数だけではなく、本人がその情報をどのように理解できるかによって変わります。
情報処理――記憶は保存するだけではない
バドリーとヒッチは、人間の短期的な記憶を、情報を置いておくだけの保存箱として捉えませんでした。
私たちは、情報を一時的に保ちながら、
- 文章を理解する
- 計算する
- 推論する
- 次の行動を決める
といった処理を行います。
ワーキングメモリ研究によって、記憶は「どれだけ入るか」だけでなく、「保持した情報をどのように使うか」という問題として研究されるようになりました。
専門知識――知識は情報の見え方を変える
チェイスとサイモンの研究が示した重要な点は、専門家の優れた記憶を、単純に大きな短期記憶容量だけで説明できないことです。
専門家は、長期記憶に蓄積した知識を使い、重要な特徴や意味ある関係を素早く見つけます。
そのため、専門知識は覚えられる項目数を直接増やすというよりも、情報を整理し、まとまりとして認識しやすくすると考えられます。
6人の研究から見えてくる結論
6人の研究を総合すると、人間の記憶は次の要素の関係から理解する必要があります。
- 一度に扱える容量
- 情報をまとめる単位
- 注意の向け方
- 保持と処理の仕組み
- 長期記憶に蓄積された知識
- 課題や実験条件
人間の能力には限界があります。
しかし、私たちは知識や経験を使って情報をまとめ、重要なものへ注意を向け、限られた能力を効率的に利用しています。
これが、6人の研究を一つの流れとして学ぶことで見えてくる、人間の記憶の姿です。
13.『マジカルナンバー7±2』で誤解されやすいこと
「マジカルナンバー7±2」は、短く覚えやすい言葉です。
その一方で、「人間は7個までしか覚えられない」という単純なルールとして紹介されることがあります。
ここでは、6人の研究の流れを踏まえ、特に誤解されやすい点を整理します。
誤解① ミラーは「人は必ず7個まで覚えられる」と証明した
いいえ。
ミラーの1956年論文は、人間の記憶容量を一つの固定値として確定したものではありません。
論文には、記憶範囲だけでなく、絶対判断やリコーディングの議論も含まれています。また、ミラーは、それぞれの課題に現れた近い数字が、同じ原因によるものだとは断定しませんでした。
正しくは、
ミラーは、複数の情報処理課題に見られる限界を整理し、情報単位の重要性を示した
と理解する必要があります。
誤解② コーワンはミラーの研究を否定した
いいえ。
コーワンは、反復や長期記憶の助けをできるだけ区別した条件で、中心的な記憶容量を再検討しました。
その結果として、約3~5チャンクという範囲を示しましたが、これは「ミラーの7が完全に間違っていた」という意味ではありません。
ミラーとコーワンでは、研究対象と測定条件が異なります。
したがって、両者は単純な対立関係ではなく、異なる条件から記憶容量を考えた研究として理解するのが適切です。
誤解③ チャンク化はミラー一人が完成させた理論である
いいえ。
ミラーは、情報を意味のある単位へ組み替えるリコーディングとチャンクの重要性を広く示しました。
しかし、その後、チェイスとサイモンが専門家の知識とパターン認識を研究するなど、チャンクに関連する考え方は発展を続けました。
さらに現在では、専門家の記憶は小さなチャンクだけでなく、より大きな知識構造や長期記憶から情報を取り出す仕組みとも関係すると考えられています。
誤解④ バドリーとヒッチは「7±2」を否定した
いいえ。
バドリーとヒッチは、7±2に代わる別の数字を提案したのではありません。
二人が研究したのは、人が情報を一時的に保ちながら、理解、推論、学習などを行う仕組みです。
二人は記憶研究を、
何個覚えられるか
という容量だけの問題から、
情報をどのように保持し、処理するか
という問題へ広げました。
誤解⑤ 6人の心理学者は互いに対立していた
いいえ。
6人は、同じ実験を行って一つの正解を争っていたわけではありません。
- ミラーは情報処理の限界と情報単位
- コーワンは注意の中心に保てる容量
- バドリーとヒッチは保持と処理の仕組み
- チェイスとサイモンは専門知識と熟達
を主に研究しました。
心理学には異なる理論や解釈がありますが、この6人を「7と4のどちらが正しいかを争った研究者」と考えるのは不正確です。
現在の理解は、それぞれの研究成果が積み重なって形成されています。
誤解⑥ マジカルナンバー7±2は一人の心理学者が完成させた理論である
いいえ。
「マジカルナンバー7±2」という言葉を広めたのは、ジョージ・A・ミラーです。
しかし、現在の記憶研究における理解を、ミラー一人が完成させたわけではありません。
その後、
- チェイスとサイモンが専門知識とパターン認識を研究し
- バドリーとヒッチがワーキングメモリの仕組みを提案し
- コーワンが中心的な容量を実験条件から再検討しました
したがって、マジカルナンバー7±2は、現代心理学で完成された一つの独立理論というよりも、
人間の記憶容量、注意、情報単位、処理、知識の関係を考える出発点となった歴史的な研究テーマ
として理解する方が正確です。
誤解を避けるために覚えておきたいこと
マジカルナンバー7±2を理解するときは、数字だけを見るのではなく、次の三点を確認することが重要です。
- 何を一つの情報として数えているのか
- どのような記憶課題を行っているのか
- 反復、知識、チャンク化などの助けを利用できるのか
人間の記憶容量は、どの場面でも同じ数字になるわけではありません。
6人の研究が示してきたのは、記憶には限界がある一方で、人間は知識、経験、注意を利用し、その限られた能力を柔軟に使っているということなのです。
14.さらに学びたい人へ
記憶の仕組みがもっと面白くなるおすすめ書籍
さらに学びたい人は、自分の年齢や知識に合った本から読み進めると、マジカルナンバー7±2をより深く理解できます。
小学生・初学者にもおすすめ
『進化しすぎた脳―中高生と語る「大脳生理学」の最前線』著者:池谷裕二
この本は、脳研究者の池谷裕二氏が、中学生や高校生との対話をもとに、記憶、意識、脳の働きなどを説明した本です。講談社も、記憶のメカニズムから意識の問題までを、中高生を相手に語った本として紹介しています。
小学生が一人で読む場合は、やや難しい部分があります。小学校高学年の子どもが、保護者と一緒に気になる章から読む方法がおすすめです。
全体に最もおすすめ
『記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方』著者:池谷裕二
この本では、記憶が脳内でつくられる仕組み、忘却、学習、長期記憶などが、神経科学の研究をもとに説明されています。
マジカルナンバー7±2だけを扱った本ではありませんが、短期記憶と長期記憶の違い、学習と忘却の意味を知ることで、ミラーやコーワンの研究をより広い視点から捉えられるようになります。
中級者におすすめ
『認知心理学―知のアーキテクチャを探る 新版』著者:道又爾・北﨑充晃・大久保街亜・今井久登・山川恵子・黒沢学
認知心理学とは、人間が外界の情報をどのように受け取り、注意を向け、記憶し、判断し、言葉として扱うのかを研究する心理学の分野です。
この記事に登場したミラー、バドリー、ヒッチ、コーワンらの研究を理解するには、短期記憶だけでなく、注意や長期記憶、情報処理との関係を見る必要があります。
その意味で、この本は、6人の研究が認知心理学全体のどこに位置するのかを整理するのに適しています。
ワーキングメモリを本格的に学びたい人へ
『ワーキングメモリの探究―アラン・バドリー主要論文集』著者:アラン・バドリー
第7段落と第8段落で紹介した、アラン・バドリーとグレアム・ヒッチの研究を、本格的に学びたい人におすすめの研究書です。
この本には、バドリー自身が選んだ主要論文が収録されています。
この本を読むと、ワーキングメモリモデルが、最初から完成した形で提案されたわけではないことが分かります。
どの順番で読めばよい?
初めて学ぶ人は、次の順番で読むと理解しやすくなります。
『進化しすぎた脳』
↓
『記憶力を強くする』
↓
『認知心理学―知のアーキテクチャを探る 新版』
↓
『ワーキングメモリの探究』
『進化しすぎた脳』で脳そのものへの興味を広げ、『記憶力を強くする』で記憶の基本を学びます。
その後、『認知心理学』で記憶、注意、知覚、思考の関係を整理し、最後に『ワーキングメモリの探究』で実際の研究論文へ進む流れです。
すべてを読む必要はありません。
今回の記事から一冊だけ選ぶなら、初学者には『記憶力を強くする』がおすすめです。
マジカルナンバー7±2は、「人間は7個覚えられる」という一文だけでは理解できません。
記憶、注意、知識、脳、情報処理をそれぞれ異なる角度から学ぶことで、6人の研究者が明らかにしようとした人間の心の仕組みが、より立体的に見えてくるのです。
15.まとめ・考察
記憶の限界を知ることは、可能性を狭めることではない
この記事では、「マジカルナンバー7±2」という言葉をきっかけに、人間の記憶と情報処理を研究した6人の心理学者を紹介してきました。
ジョージ・A・ミラーは、人間が一度に扱える情報には限界があり、何を一つの情報単位として数えるかが重要だと考えました。
ネルソン・コーワンは、反復や長期記憶の助けを区別し、注意の中心に保てる容量をより厳密に検討しました。
アラン・バドリーとグレアム・ヒッチは、記憶を単なる保存場所ではなく、情報を保ちながら考え、理解し、操作するワーキングメモリ(working memory)として研究しました。
ウィリアム・G・チェイスとハーバート・A・サイモンは、専門家が知識や経験を利用し、複雑な情報を意味のあるまとまりとして捉えることを明らかにしようとしました。
6人の研究を通して分かるのは、「人間は7個まで覚えられる」という一つの数字ではありません。
より重要なのは、次の考え方です。
人間の記憶には限界がある。しかし、情報のまとめ方、注意の向け方、知識や経験の使い方によって、その限られた能力をより効果的に利用できる。

記憶の限界は、欠点ではなく人間らしさである
私たちは、見たものや聞いたものをすべて覚えることはできません。
そのため、何かを忘れたときに、
「自分は記憶力が悪い」
「頭がよくないのかもしれない」
と考えてしまうことがあります。
しかし、人間の記憶に限界があるのは、特定の人だけの欠点ではありません。
人間の心は、世界に存在するすべての情報を同じように保存するのではなく、必要な情報を選び、意味を見つけ、過去の知識と結びつけながら処理しています。
忘れることも、必ずしも失敗ではありません。
重要ではない情報を弱めるからこそ、現在必要なものへ注意を向けられる場合があります。
記憶の限界は、人間の能力を妨げる壁であると同時に、情報を選び、整理し、意味をつくる心の仕組みでもあるのです。
「たくさん覚える人」より「上手にまとめる人」
マジカルナンバー7±2から得られるユニークな教訓は、優れた記憶とは、単純に多くの情報を詰め込むことではないという点です。
例えば、十個の情報を十個のまま覚えようとすると、大きな負担がかかります。
しかし、それらを三つの意味あるグループに整理できれば、同じ内容でも扱いやすくなる場合があります。
チェスの熟達者も、盤上の駒を一つずつ丸暗記していたわけではありません。長年の経験によって、複数の駒の関係を意味あるパターンとして認識していました。
この考え方は、勉強、仕事、料理、スポーツ、音楽などにも当てはまります。
知識が増えるとは、頭の中に情報が無秩序に積み上がることではありません。
新しい情報を既に持っている知識と結びつけ、使いやすい形に整理できるようになることです。
その意味では、学ぶことは「頭の中の倉庫を大きくする作業」というよりも、情報を見つけやすくする地図を描く作業だと考えられます。
このような体験はありませんか?
電話番号を覚えようとして、数字を二つや三つずつ区切ったことはないでしょうか。
長い買い物リストを、
- 野菜
- 飲み物
- 日用品
のように分類したら、覚えやすくなった経験があるかもしれません。
歴史の年号を出来事と結びつけたら、それまでより思い出しやすくなった人もいるでしょう。
反対に、文章を読みながら通知を確認したため、何度も同じ場所を読み直した経験はないでしょうか。
暗算の途中で話しかけられ、どこまで計算したのか分からなくなったこともあるかもしれません。
これらはすべて、情報のまとまり方や、ワーキングメモリと注意の限界に関係する身近な体験です。
マジカルナンバー7±2を意識すると、こうした出来事を「集中力がない」「記憶力が悪い」とだけ判断せず、
今、自分は何個の情報を同時に扱おうとしているのだろう
情報を意味のあるまとまりに整理できないだろうか
と考えられるようになります。
日常生活ではどのように活かせるのか
マジカルナンバー7±2を生活に取り入れるといっても、何でも七つに分ければよいわけではありません。
数字を機械的に守るのではなく、情報を一度に詰め込みすぎないことが大切です。
例えば勉強するときは、新しい内容を短いまとまりに分け、それぞれの関係を考えます。
説明するときは、伝えたい内容を数個の要点に整理します。
作業するときは、複数のことを同時に進めるのではなく、必要な手順を外部のメモへ移します。
覚えにくい内容は、既に知っている人物、出来事、場所などと結びつけます。
ただし、チャンク化すれば無制限に覚えられるわけではありません。
意味のあるチャンクをつくるには、理解や知識が必要です。また、一つのチャンクが複雑になれば、その内容を処理する負担も生じます。
大切なのは、記憶の限界を消そうとすることではなく、限界に合わせて環境と情報を設計することです。
限界を知ることが、よりよい情報設計につながる
マジカルナンバー7±2の研究は、個人の勉強法だけに関係するものではありません。
学校の授業、仕事の説明、ウェブサイト、アプリ、取扱説明書など、情報を人へ伝えるあらゆる場面に関係します。
一度に多くの選択肢を提示したり、重要な情報を長い文章の中へ埋めたりすれば、受け手の負担は大きくなります。
反対に、内容を意味のある単位に分け、見出しを付け、順序を整理すれば、情報は理解しやすくなります。
人間の記憶に限界があるからこそ、伝える側には情報を整理する責任があります。
「理解できないのは読者の努力が足りないから」と考えるのではなく、「説明の構造に無理はないか」と問い直すことが必要です。
これは、マジカルナンバー7±2から導ける、学習法を越えた重要な考察です。
マジカルナンバーの本当の「魔法」とは
マジカルナンバー7±2の「マジカル」という言葉からは、7という数字に特別な力があるように感じられるかもしれません。
しかし、本当の魔法は数字そのものではないのではないでしょうか。
限られた記憶しか持たない人間が、言葉をつくり、数字をまとめ、物語を語り、専門知識を築き、複雑な問題を解決できること。
その背景には、情報を意味あるまとまりへ変え、長期記憶にある知識と結びつける力があります。
人間は、限界がないから賢いのではありません。
限界があるからこそ、情報を選び、まとめ、外部へ記録し、他者と知識を共有する方法を発展させてきたとも考えられます。
ノート、文字、図表、コンピューターも、人間の限られた記憶を補うための道具です。
そう考えると、マジカルナンバー7±2は、単なる暗記可能数の話ではありません。
それは、
限界のある心が、工夫によってどこまで複雑な世界を理解できるのか
という、人間の知性そのものに関わる問いなのです。
あなたなら、この知識をどのように活かしますか?
次に何かを覚えるとき、目の前の情報をそのまま詰め込もうとせず、意味のあるまとまりに分けてみてください。
誰かに説明するときは、一度に多くを伝えすぎていないか考えてみてください。
集中できないときは、自分の意志の弱さだけを責めるのではなく、同時に処理しようとしている情報が多すぎないかを確認してみてください。
あなたなら、マジカルナンバー7±2から得た知識を、勉強、仕事、説明、日常生活のどの場面で活かせるでしょうか。
そして、自分にとっての情報の「一個」とは、本当に一個なのでしょうか。
その問いを持つことが、人間の記憶をより深く理解する最初の一歩になるのかもしれません。
16.疑問が解決した物語
「結局、誰の研究なの?」
授業の最初、美咲さんはそう疑問に思っていました。
ノートには、
マジカルナンバー7±2=ミラー
と書いてあります。
しかし、その後には、コーワン、バドリー、ヒッチ、チェイス、サイモンという名前が続いていました。
美咲さんは、この記事を最後まで読み終えると、もう一度ノートを開きました。
そして、最初に書いた一行の下へ、新しくこう書き加えました。
ミラーは、人間の情報処理の限界とチャンクという問いを広く示した。
コーワンは、条件を整理して中心的な記憶容量を再検討した。
バドリーとヒッチは、情報を保持しながら考えるワーキングメモリの仕組みを研究した。
チェイスとサイモンは、専門知識によって情報の見え方やまとまり方が変わることを示した。
書き終えた美咲さんは、ようやく気づきました。
「マジカルナンバー7±2は、6人が一つの正解を争った話ではなかったんだ」
ミラーが「7」と言い、コーワンが「4」と言って対立したのではありません。
そもそも二人は、まったく同じ条件で、同じ記憶の働きを測っていたわけではありませんでした。
バドリーとヒッチも、7±2を否定したのではなく、記憶の研究を「何個覚えられるか」から、「覚えながら、どのように考えるか」へ広げました。
チェイスとサイモンも、記憶容量の数字を直接決めたのではありません。
長年の知識や経験によって、複雑な情報が意味のあるまとまりとして見えるようになることを研究したのです。
美咲さんは、最初の疑問に対する答えを、次のようにまとめました。
「マジカルナンバー7±2」で最も有名なのはミラー。
けれど、現在の記憶研究の理解は、ミラー一人だけで完成したものではない。
6人が異なる角度から研究したことで、人間の記憶をより詳しく説明できるようになった。
その答えが分かると、美咲さんは自分の勉強方法についても考え始めました。
これまでは、授業で出てきた人名や用語を、一つずつ暗記しようとしていました。
けれども、それでは名前が増えるたびに混乱してしまいます。
そこで美咲さんは、6人を次の四つのテーマに分けて整理しました。
- 記憶容量
- 情報のまとまり
- 情報の保持と処理
- 専門知識と問題解決
すると、ばらばらに見えていた人物名が、一つの研究の流れとして見えるようになりました。
「覚える内容が減ったわけではないのに、前より整理しやすい」
美咲さんは、これがチャンクの考え方なのだと実感しました。
さらに、レポートを書くときにも工夫しました。
最初から多くの情報を一つの段落へ詰め込むのではなく、
ミラーが提示した問い
その問いを広げた研究
現在の理解
という三つのまとまりに分けました。
文章の流れが見えやすくなり、自分でも何を説明したいのか分かるようになりました。
美咲さんにとって、マジカルナンバー7±2は、単に「人は7個前後まで覚えられる」という知識ではなくなっていました。
それは、
人間の能力には限界があるからこそ、情報をどのように整理し、意味づけ、使いやすい形にするかが大切である
という学びに変わったのです。

記憶力がよい人とは、何でもそのまま大量に覚えられる人とは限りません。
情報同士の関係を見つけ、意味のあるまとまりへ変えられる人の方が、複雑な内容を理解しやすい場合があります。
そして、分かりやすく教える人もまた、情報をただ増やすのではなく、受け手が理解しやすい単位へ整理しています。
美咲さんは、ノートの最後にこう書きました。
大切なのは、7という数字を覚えることではない。
自分が何を一つの情報として扱っているのかを考えること。
最初に抱いた「結局、誰の研究なの?」という疑問は、6人の役割を分けて考えることで解決しました。
同時に美咲さんは、人間の記憶には限界があることを、弱点としてだけ捉える必要はないと知りました。
限界があるからこそ、人は情報をまとめ、メモを取り、図を描き、他者と知識を共有する方法を考えてきたのです。
あなたが今、覚えにくいと感じていることも、能力が足りないからではなく、情報がまだ意味のあるまとまりになっていないだけかもしれません。
あなたなら、目の前の情報をどのように整理し、自分にとって覚えやすいチャンクへ変えるでしょうか。
17.文章の締めとして
私たちは、何か新しいことを知ると、「これが正解なんだ」と、一つの答えだけを探したくなることがあります。

しかし、今回紹介したマジカルナンバー7±2の歴史は、そのような単純なものではありませんでした。
一人の研究者がすべてを解明したのではなく、それぞれの時代に、それぞれの研究者が新しい問いを投げかけ、その答えを少しずつ積み重ねてきたことで、現在の理解へとつながっています。
だからこそ、心理学のおもしろさは、「正しい数字」を覚えることだけではなく、「なぜ、その考え方が生まれたのか」を知ることにあるのではないでしょうか。
一つの研究を知ると、その前の研究が気になり、さらにその後の研究も知りたくなる。
その積み重ねが、人間の心を理解する楽しさにつながっていきます。
この記事が、マジカルナンバー7±2だけでなく、心理学そのものに興味を持つきっかけとなれば、とてもうれしく思います。

補足注意
この記事は、心理学や認知科学に関する研究や文献をもとに、筆者が個人で調べられる範囲で内容を整理し、できる限り正確にお伝えすることを目指して執筆しました。
しかし、心理学は現在も研究が続けられている学問です。
新しい実験結果や研究成果によって、これまでの考え方が見直されたり、新たな知見が加わったりすることがあります。また、一つのテーマに対しても、研究者によって解釈や考え方が異なる場合があります。

🧭 本記事のスタンス
この記事で紹介した内容が「唯一の正解」や「すべての結論」というわけではありません。
この記事が、マジカルナンバー7±2や記憶研究について興味を持ち、自分自身でも文献や書籍を手に取り、さまざまな視点から学ぶきっかけになれば幸いです。
心理学の魅力は、一つの答えを覚えることではなく、多くの研究を知り、それぞれの考え方を比較しながら理解を深めていけることにあります。
この記事も、その学びへの「入り口」の一つとして、読んでいただければうれしく思います。
この記事をひとつのチャンクとして記憶に置き、次は文献をひもといて知識をつなぎ――「7±2」のその先に広がる、まだ数えきれない心の世界へ、学びを深めてみてください。
最後まで読んでいただき、
本当にありがとうございました。
人間の心を理解することは、一つの答えを見つけることではなく、新しい問いを持ち続けることの大切さを教えてくれているのかもしれません。


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