「その瞬間を残したい」母のひと言に心が震えた|新津きよみ『雲の上の人』感動考察

小説

生まれてきたありのままの時間を母子手帳に記入してほしかったの。
―― その言葉が、心にずっと残ります。
『ミステリな食卓 美味しい謎解きアンソロジー』(双葉社)に収録されている、新津きよみさんの短編小説『雲の上の人』。

西沢 裕美 姉 実家のそば屋「名月庵」を手伝っています
西沢 亜美 妹 中学生の頃の夢を叶えてCAとして働いています
西沢 修平 裕美と亜美の父親
西沢 和子 裕美と亜美の母親

この物語の中で語られる、母・西沢和子のひとつの言葉が、私の胸を静かに、でも確かに揺らしました。

言葉までの経緯

今回の言葉の背景にあるのは、双子の姉妹・裕美と亜美の出生にまつわる、少し特別な物語です。
生まれた瞬間を“正確に”記録するということ
物語の中で、姉・裕美と妹・亜美は、日付をまたいで誕生しました。年末と年始。そのため、病院の先生から「日付をそろえますか?」と尋ねられたとき、母・和子はそれを断ります。
そして語ったのが、

あの言葉――

生まれてきたありのままの時間を母子手帳に記入してほしかったの。
 あのときは、そうすることに価値がある気がしたのよ。

 『年をまたいであなたたちが生まれてきた。
 その感動を記録の上で残したかったの。だから、正確な出生時間を届け出た。
 お母さんのわがままよね。

ミステリな食卓 美味しい謎解きアンソロジー ​双葉社 新津きよみ『雲の上の人』より引用

​でした。

心に響く事

ここに、和子の静かな、でも強い想いが感じられます。「記録」という行為に、母としての純粋な感動と、わが子への愛情を宿らせたのです。

※これは実際に物語の中で語られたセリフ・エピソードをもとにしています。

感動した“今”を、そのまま残しておきたい
私がこの言葉から受け取った一番大きなメッセージは、「今、この瞬間の感動を大切にしたい」という願いでした。
何かに心が震えるとき、私たちはその感動をどうしても記録しておきたくなるものです。写真を撮ったり、日記に書いたり。その衝動こそが、“人生の本質”に触れた証なのではないでしょうか。
だからこそ、和子は、わが子が生まれたその瞬間の時刻を、ありのまま記録したいと思ったのです。

今この時間のこの状態をそのまま保存、記録するという事自体が大切な思い出になる――

そのような想いが、この言葉には込められているのではないでしょうか。
時が経つと、心は揺れ動くもの
和子は、自分の判断が娘たちにとってプレッシャーになっているのではないかと、後に悩みます。特に姉である裕美が、「姉である」という立場に縛られ、無理をしているのではないかと心配するのです。
これは私たちにも通じる感覚だと思います。あのときは最良と思った決断が、時を経て、誰かの足かせになってしまったのではと不安になる。
ですが、そのときの自分が“心から感動し、大切にしたかった思い”を信じること。それは、他者に対しても、自分自身に対しても、優しさとなるのではないでしょうか。

考えたこと

自分の感覚を信じていい

誰かの目線を気にして、自分の選択や感情を否定してしまうことがあります。でも、「この瞬間に感じたこと」を大切にしてもいいんです。
それがたとえ他人には理解されなくても、自分が「確かに心が震えた」と思えたなら、それは立派な“真実”だから。

和子の言葉が教えてくれるのは、

自分自身の感覚を信じ、そこに意味と価値を見出しても良いのだということ。

その瞬間が感動できる時間。そのような大切な時間を作ることができれば、とても幸せな人生を過ごせると教えてくれているのではないでしょうか

この言葉を思い出すとき

大切な人との記念日
子どもの成長の節目
何気ない日常の一瞬が、心に残ったとき
そんなときにこの言葉を思い出すのかもしれません。
そして、
今を大切にしよう
感動した瞬間を、記録しておこう
誰かの“ありのまま”を大切にしよう
そう思わせてくれるのです。

あなたは、どんなときにこの言葉を思い出しますか?

まとめ

このブログを通じてお伝えしたかったのは、「感動した瞬間は、それだけで価値がある」ということです。
母・和子の言葉は、出産という尊い体験を通じて生まれた“心の叫び”です。
それは、時に不安になっても、それでもやっぱり「正しかった」と言えるような、大切な選択だったのではないでしょうか。

この言葉を直接味わいたい方は、

ぜひこちらの書籍を手に取ってみてください。

書名:ミステリな食卓 美味しい謎解きアンソロジー
著者:碧野圭、太田忠司、近藤史恵、斎藤千輪、新津きよみ、西村健
編者:山前譲
出版社:双葉社
発売日:2023年6月14日
ISBN:978-4-575-65908-5
判型:文庫(15cm)/287ページ/792円(税込)

『雲の上の人』は、新津きよみさんによる珠玉の一編です。

ぜひ、あなた自身の心で、あの言葉を受け止めてみてください。

最後まで読んでくださり、

本当にありがとうございました。

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