『機能的固着(きのうてきこちゃく)』とは?——“固定観念”で行き詰まる理由と、ろうそく問題でわかる抜け出し方【認知のクセをやさしく解説】
“これはこういうもの”——そんな思い込みをほどくと、世界の見え方が変わる。心理学が教える“発想の柔軟性”とは?
キャンプでお箸を忘れた。
でも、木の枝を削って代用できたら…困りごとは一瞬で解決します。
この“発想の差”を生むカギこそ、今回のテーマ——機能的固着です。
3秒で分かる結論
機能的固着とは、物を“いつもの用途”でしか見られなくなる認知のクセ。
固定観念が強いほど別の使い道に気づきにくくなり、問題解決が遅れる——これが本質です。
ミニQA
Q1. 機能的固着(きのうてきこちゃく)とは何ですか?
A. 物を“いつもの用途”でしか見られなくなる思考のクセです。別の使い道に気づきにくくなり、問題解決が遠回りになります(APA辞典の定義に基づく)。
Q2. 「ろうそく問題」の正解は? なぜ難しいの?
A. 画鋲入りの箱を台として使い、箱を壁に固定してろうそくを載せます。箱=入れ物という思い込みが、箱=台を見えなくするため難しく感じます。
Q3. アダムソン(1952)の発見は要するに?
A. 見せ方だけで解決率が変わること。画鋲が箱の中だと解きにくく、箱の外だと解きやすくなりました(呈示効果)。
今回の現象とは?
「お箸がない…でも木の枝なら使えるかも?」
そんな“ひらめき”が出る人もいれば、「お箸=買うもの」と思い込み、食べにくさに耐える人もいます。
同じ状況なのに、発想の幅が違うのはなぜでしょう。
- 定規がない → 下敷きの端で線を引く人/何もできずに止まる人
- 画鋲の“箱”を箱=入れ物としか見られず、台として使う発想が出ない人
- 仕事や家事でも「これはこう使うもの」で遠回りしてしまう場面

でも——そのモヤモヤには名前があります。
読み進めれば、思考整理・時短・創造力UPに直結するヒントが得られます(先に結論も示します)。
よくある疑問を“キャッチフレーズ”で
Q1. 「なぜ“いつもの使い方”以外が思いつかないの?」(法則とは?)
→ 機能的固着=最も一般的な用途にとらわれる傾向。別用途を見落としがちに。
Q2. 「材料は同じなのに、人によって結果が違うのはなぜ?」(法則とは?)
→ 提示の仕方で固着の強さが変わります。たとえば箱に画鋲が入ったまま渡されると、箱=入れ物の先入観が強まり解けにくい。
Q3. 「プレッシャーや報酬で、むしろ発想が狭くなる?」(法則とは?)
→ 古典研究では、高報酬条件で“ろうそく問題”が解きづらくなる示唆があります(Glucksberg, 1962の系譜)。
日常あるある
- メモを貼るテープがない→付箋の糊面を細く切ってテープ代用
- コースターがない→紙箱のフタを一時コースター
- PC台がほしい→段ボールを“平らで丈夫な板”として活用
この記事を読むメリット:
① 固定観念に気づく/② 具体的な抜け出し方を身につける/③ 時短・節約・創造力に効く
疑問が浮かんだ物語
キャンプ場。友達はお箸を忘れて困っています。
「枝を少し削れば代わりになるよ」と声をかけると、友達は首をかしげました。
「お箸は“買うもの”でしょ。枝は“地面に落ちてるもの”だし…」
心の中で友達はつぶやきます。
——どうしてそんな発想が出てくるの?
——自分にはなぜ思いつかないんだろう?
——他の使い方も考えてみたいのに、頭が固まってしまう…

身近だからこそ不思議。けれど、この違いには思考のクセが関わっています。
意外と身近にあるこの現象。正体を探しにいきましょう。次へ。
すぐに分かる結論
お答えします。
この現象は――
『機能的固着(functional fixednessファンクショナル・フィクスドネス)』
と呼ばれる心理的な傾向です。
ものを“いつもの用途”でしか見られず、
別の使い方や新しい発想に気づきにくくなる——
そんな“思考のクセ”が、私たちの頭の中で静かに働いています。
心理学の世界では、これを**「認知バイアス(思考のゆがみ)」**の一種としています。
つまり、決して怠けているわけでも、想像力がないわけでもありません。
人間なら誰もが持っている自然な傾向なのです。
たとえば、1930年代に心理学者カール・ドゥンカーが行った有名な実験、
**「ろうそく問題」**がありますよ。
この問題は、**「モノを何として見るか」**が、
思考の自由度を決める大きなカギになります。
かみ砕くと:
「“これはこういうもの”という思い込みが、
“本当は何ができるのか”を見えなくしてしまう。」
それが機能的固着です。
このあとでは、さらに一歩進んで――
- 「機能的固着」の正確な定義と有名な研究(ドゥンカー、アダムソン、マッカフリー)
- 現代社会でなぜ注目されているのか(仕事・教育・創造性との関係)
- そして今日から試せる「発想を柔らかくする実践法」
を、わかりやすい例とともに解説していきます。
小さな気づきが、あなたの“見えない思い込み”を解くきっかけになるかもしれません。
次の章で、一緒にこの不思議な心理の奥深さを探っていきましょう。
『機能的固着』とは?
✅ 正確な定義
**機能的固着(きのうてきこちゃく/functional fixedness, ファンクショナル・フィクスドネス)**とは、対象を“もっとも一般的な用途”に限定して捉えてしまい、ほかの使い道に目が向きにくくなる認知的傾向です。問題解決や創造的発想を妨げることがあります。
かんたんに言うと:
「**名前(用途ラベル)**に縛られ、性質が見えにくくなるクセ」
🧪 由来
出発点はゲシュタルト心理学の系譜にあるカール・ドゥンカー(Karl Duncker, 1903–1940)。彼は**『生産的思考の心理学』(独語版1935年、英訳1945年)で「ろうそく問題(Candle Problem)」を提示し、“箱=入れ物”の先入観が解決を妨げる**ことを示しました。
ゲシュタルト心理学の系譜とカール・ドゥンカーとは
🧩 ゲシュタルト心理学の系譜とは?
「ゲシュタルト(Gestalt)」とはドイツ語で「形」や「全体構造」という意味があります。
つまり、**ゲシュタルト心理学(Gestalt Psychology)**とは、
「人は物事を部分ではなく、“全体”として捉える傾向がある」という考えを中心にした心理学の流れのことです。
この考え方は、20世紀初頭のドイツで生まれました。
主な提唱者は以下の3人です:
- マックス・ヴェルトハイマー(Max Wertheimer)
- ヴォルフガング・ケーラー(Wolfgang Köhler)
- クルト・コフカ(Kurt Koffka)
彼らは、「人間の知覚や思考は、単なる要素の集まりではなく、“全体のまとまり(ゲシュタルト)”として理解される」と考えました。
たとえば、音楽を聴くとき、私たちは「1音1音」ではなく「メロディ全体」として感じ取りますよね。
それと同じように、問題解決や発想も、全体の関係をどう“見るか”が鍵になるとしたのです。
この流れの中で、後に登場したのが「カール・ドゥンカー」です。
彼は、ゲシュタルト心理学の思想を**“思考と問題解決”に応用**した人物でした。
👨🏫 カール・ドゥンカー(Karl Duncker, 1903–1940)
カール・ドゥンカーはドイツ生まれの心理学者で、
**「創造的思考」「洞察(インサイト)」「問題解決のプロセス」**を研究した第一人者の一人です。
彼はマックス・ヴェルトハイマーの弟子であり、
ゲシュタルト心理学の理論をもとに「人がどのように問題を“理解し、ひらめきを得るのか”」を実験的に探りました。
代表的な著作は
📘 『生産的思考の心理学(Productive Thinking, 1935 / 英訳 1945)』
この中で、有名な**「ろうそく問題(Candle Problem)」**を発表しました。
要するに、
**「ゲシュタルト心理学の系譜」**とは、
“人の心を全体的にとらえ、思考の構造や発想の瞬間を探る”心理学の流れです。
その中でカール・ドゥンカーは、
「人がなぜ思い込みにとらわれ、どうすればそこから抜け出せるのか」を
初めて科学的に示した研究者でした。
彼の残した実験と理論は、
現代の「創造性教育」や「アイデア発想法」にもつながっています。
🔎 代表的研究とポイント
① ドゥンカーの「ろうそく問題」(1935/英訳1945)
- 材料:ろうそく、マッチ、画鋲の入った箱。
- 課題:ロウがテーブルに垂れないよう、ろうそくを壁に固定する。
- 解:箱を“燭台(しょくだい)”として使い、画鋲で箱を壁に固定する。
- 洞察:箱=入れ物という固定観念が、箱=台という別機能の発見を妨げる。
多くの人が画鋲でロウソクを壁に固定してしまいます。
“箱=入れ物”に固着し、“箱=台”**に気づけずつまずきます。

② アダムソン(Robert E. Adamson, 1952)
心理学者ロバート・E・アダムソンは、材料の見せ方だけで解決率が変わることを実験で示しました。
- 操作:材料の呈示方法を変える。
- 画鋲が箱“の中”…解決率が下がる(固定観念が強まる)。
- 画鋲が箱“の外”…解決率が上がる(固定観念が弱まる)。
- 示唆:“見せ方”だけで固着の強さが変わる。
画鋲が箱“の中”に入っていると固着が強まり解けにくい、箱が“空”だと解けやすい——つまり、“どう見えるか”が“どう考えるか”を左右します。

③ マイヤーの「二本のひも問題」(Norman R. F. Maier, 1931)
ノーマン・R・F・マイヤーは、天井から離れた位置に垂れた二本のひもを結ぶ課題を出しました。
- 課題:天井から離れた位置にぶら下がる二本のひもを同時に結ぶ。
- 鍵:手元のペンチ等を“重り”にしてひもを振り子にし、片方を揺らして結ぶ。
- 洞察:“道具の別機能”に気づけるかが成否を分ける。

ここまでのまとめ
- 定義:用途ラベルの呪縛。
- 起点:ドゥンカーの洞察課題。
- 要因:呈示の仕方で固着は強まる/弱まる。
- 一般性:課題が変わっても(二本のひも)本質は同じ。
章の実践的アップグレード
.1 ミニ演習:名前を外して“性質で見る”
- 机上の1アイテムを選び、名詞を使わずに説明:
例)「平らで硬い板、四隅が丸い、摩擦は中程度」=スマホ → “水平器”“台”“カード下敷き”など別機能が見えてくる。 - 60秒で**“できることを3つ”**書き出す → 最短の代用品リストに。
(GPTの考えに基づく練習)
.2 見せ方を変える(アダムソン応用)
片付け時も**“用途別の箱”ではなく“性質別の箱(重い・平ら・曲がる…)”**を試すと、代用発想が早くなる。
箱から中身を出して並べる/色・配置を変える → 先入観を弱める。
定義と古典研究で“固着”の正体が見えました。次は、なぜそれが今の私たちに重要なのか——仕事・学び・暮らしの観点から整理します。
なぜ注目されるのか?
📌 1) いまの仕事・学習に直結するから
発想転換=コストをかけずに“成果”を伸ばす最短ルート。
- 例:“性質で見る”(平ら/固い/滑りにくい…)ことで代用品が広がる → 時短・節約・創造性UP。
- 教育・研修・デザイン思考の場で、ろうそく問題は固定観念の可視化に広く使われています。
⚠️ 2) インセンティブの“副作用”があるから
報酬(インセンティブ)が洞察課題に与える影響は一筋縄ではありません。
- **グラックスバーグ(Sam Glucksberg, 1962)**は、材料が“箱の中”(固着が強い)条件では、高報酬群の方が遅くなる=焦りが“いつもの使い方”を強め、発想を狭めると報告。
- 逆に、画鋲が箱の外(固着が弱い)条件では、報酬が成績を改善または差が小さくなる傾向も示されています。“課題の性質×報酬”の相互作用が重要です。
要は、「急げ・勝て・稼げ」の圧が強いと、“目の前の常識”にしがみつきやすい。
柔らかい注意と探索の余白が、洞察には必要です。
🧰 3) “外す”トレーニングが確立してきたから
Generic-Parts Technique(ジェネリック・パーツ・テクニック, GPT)
- 手順:対象を部品に分解し、各部品について**「さらに分解できるか」「説明が用途を含んでいないか」**を問い直す。
- 効果:見落としていた“性質”に気づき、固定観念を外しやすくなる(実験的に改善が示唆)。
手順を問い直します。これにより**“名前の呪縛”から“性質”へ視点を戻す**ことができ、機能的固着を乗り越えやすくなると報告されています。
🧭 4) 世間での受け止め方・使われ方
- 教育・企業研修:ろうそく問題や二本のひも問題は、発想の転換やチームでの問題定義の導入に。
- 研究の現在地:子どもは機能的固着の影響を受けにくい場合があるなど、発達・文脈の要因も研究が進展。“誰に、どんな状況で”固着が起きやすいかが探索されています。
章の実践的アップグレード
.1 インセンティブ設計のコツ(グラックスバーグの示唆)
- 発想段階:競争・時短・金銭報酬を強くしすぎない(探索の余白を確保)。
- 実装段階:要件が明確な手順型タスクには、目標管理や報酬を活用。
発見フェーズと実行フェーズで、評価軸を切り替えるのがポイント。
.2 現場ミニ事例
- 教育:授業でろうそく問題を使い、**“材料の並べ方”**を意図的に変えて議論 → 固着の可視化。
- 製品開発:試作机に**性質ラベル(軽い/高剛性/親水性)**を貼ったボックスを置く → 素材選定の探索効率UP。
- 業務改善:会議の冒頭2分を**「名詞禁止の説明」**に充て、**問題の“性質”**から論点整理。
.3 注意と限界
個人差:年齢や経験で固着の出方が異なる場合がある。
安全:代用は設計外使用。破損・事故・衛生に注意(耐荷重・耐熱)。
限界:全ての課題が洞察型ではない。計算・規格・手順遵守が最適な場面も多い。
重要性が分かったら、**「どう外すか」**です。次章では、今日から使えるミニ演習・チェックリスト・安全面の注意まで、実践的に落とし込みます。
実生活への応用例
大原則:名詞ではなく「性質」で見る。
“これは○○”という用途ラベルではなく、平ら・硬い・曲がる・摩擦・耐熱などの性質に注目します。研究では、対象を部品に分けて性質で再記述する**Generic-Parts Technique(ジェネリック・パーツ・テクニック/GPT:ジー・ピー・ティー)**が、機能的固着(ファンクショナル・フィクスドネス)の打破に有効と示されています。
1)「代用品リスト」を即興でつくる(60秒)
- 定規がない → 下敷き・カードの縁(=平ら/硬い)
- コースターがない → 小皿(=耐水/平ら)
- PC台がほしい → 段ボール(=軽い/面で支える)
コツは名詞を封印し、「平ら・硬い・すべりにくい」と性質で置き換えること。これはGPTの中核と一致します。
かみ砕き:
「名前」ではなく「何ができるか」で見ると、代用の選択肢が一気に増えます。
2)“用途ラベル外し”の1分ドリル
1分だけ、机上の物を名詞を使わずに描写。
例:「硬い平らな板で四隅が丸い。摩擦は中くらい」=スマホ。
用途語を避け、性質で言い換えるのがポイント(GPTの要)。
3)環境リデザイン(見せ方を変える)
箱から中身を出して並べる/色や配置を変えるだけでも、別機能に気づきやすくなります。**アダムソン(1952)**は、**画鋲が箱“の中”**だと解決率が下がり、**箱“の外”**だと上がる=提示の仕方だけで固着が変わることを実証しました(ろうそく問題の再現)。
かみ砕き:
**見え方=考え方。**置き方ひとつで、ひらめきやすさが変わります。
4)90秒ワークフロー(毎日の習慣化)
1)名詞禁止30秒:目の前の1品を性質だけで描写。
2)代用探索30秒:その性質でできることを3つ書く。
3)安全チェック30秒:耐荷重・耐熱・衛生を確認(“代用”は設計外使用)。
行き詰まったらいったん離れる=インキュベーション。メタ分析は休止が解決率の向上に寄与し得るとまとめています。
5)メリットとデメリット
- メリット:時短・節約・創造性UP・非常時対応力。
- デメリット:安全・耐久の不確実性(設計外使用による破損・事故・衛生リスク)。
――応用のコツがつかめたところで、次章では“やりすぎ”や“思い違い”を避けるための注意点を整理します。
注意点や誤解されがちな点
1)「機能的固着=悪」ではない
既存の用途にすばやくマッチできることは、効率・安全の面でむしろ有用です。大切なのは、行き詰まりを感じたときに“外す”選択肢を持つこと。定義は「最も一般的な用途に限定して捉える傾向」であり、善悪の価値判断そのものではありません。
2)危険な考え方・よくある誤解
- 誤解A:「代用すれば何でも解決」
→ 設計外使用は破損・事故・衛生リスク。耐荷重/耐熱を必ず確認。 - 誤解B:「報酬が強いほど創造的になる」
→ 洞察課題では逆効果になり得ます。グラックスバーグ(1962)は、箱の中(固着が強い)条件で高報酬群が遅くなることを示しました。課題の性質×報酬の組み合わせがカギです。 - 誤解C:「発想は才能だけ」
→ GPT訓練で改善が報告されています(**“性質で再記述”**する技法)。
かみ砕き:
“速さで押す”場面と**“余白で探す”場面を切り替える**。
そして性質で見る練習は“筋トレ”のように伸ばせます。
3)誤解が生まれる原因
- 見せ方(呈示:ていじ)が先入観を強める(箱“の中”だと入れ物に見えやすい)。
- 時間圧・評価圧で探索が狭まる(報酬と洞察の相互作用)。
- 用途ラベルが性質の気づきを覆い隠す(GPTはこの“言葉のクセ”を外す)。
4)誤解を生まないための実践ルール
- ルール1:安全優先(耐荷重・耐熱・衛生/子ども・高齢者・ペット周りは代用を控える)。
- ルール2:発見と実行を分ける
発想段階は余白・試行、実行段階は締切・基準へ切替(洞察課題の性質に合致)。 - ルール3:見せ方を変える(箱から出す・並べ替える・ラベルを外す)。
- ルール4:インキュベーション(少し離れて戻る。メタ分析で効果が示唆)。
――ここまでで“使い方”と“落とし穴”が整理できました。次章(おまけコラム)では、名作課題の裏側や、発想を助ける面白い知見を軽やかにのぞいていきましょう。
完全版FAQ
Q1. 機能的固着(きのうてきこちゃく)とは何ですか?
A. 物を“いつもの用途”でしか見られなくなる思考のクセです。別の使い道に気づきにくくなり、問題解決が遠回りになります(APA辞典の定義に基づく)。
Q2. 「ろうそく問題」の正解は? なぜ難しいの?
A. 画鋲入りの箱を台として使い、箱を壁に固定してろうそくを載せます。箱=入れ物という思い込みが、箱=台を見えなくするため難しく感じます。
Q3. アダムソン(1952)の発見は要するに?
A. 見せ方だけで解決率が変わること。画鋲が箱の中だと解きにくく、箱の外だと解きやすくなりました(呈示効果)。
Q4. 機能的固着は悪いもの?
A. いいえ。効率や安全に役立つ側面もあります。行き詰まりのサインが出たら外す——使い分けがコツです。
Q5. 今日から外すには何をすればいい?(最短の一手)
A. 名詞禁止で性質に言い換える練習を1分。例:「平らで硬い板、摩擦中」=スマホ。→代用3つを書き出す→安全チェック。
Q6. インセンティブ(報酬)は創造性を高めますか?
A. 条件次第。固着が強い課題では、高報酬がむしろ遅くなる傾向が報告されています(Glucksberg, 1962)。発想段階は“余白”、実行段階は“締切”が有効です。
Q7. 子どもは機能的固着が少ないって本当?
A. 年齢や経験で出方が変わるとする研究があります。経験が増えるほど用途ラベルが強まりやすい一方、訓練で柔軟性は高められます。
Q8. Generic-Parts Technique(GPT)って何?
A. **対象を部品に分け、用途語を避けて“性質で再記述”**する手順です。名前の呪縛を外し、見落としていた機能に気づきやすくなります(McCaffrey, 2012)。
Q9. 代用品の安全が心配。何に注意すべき?
A. 耐荷重・耐熱・衛生を必ず確認。子ども・高齢者・ペット周りは設計外使用を避けるのが原則です。
Q10. 関連する“思考のクセ”は?
A. 確証バイアス(都合のよい情報だけを見る)、固定観念、機能バイアスなど。併せて理解すると、発想のボトルネックが可視化されます。
Q11. 仕事での具体的使い道は?
A. 会議冒頭2分の名詞禁止説明、試作机の**“性質ラベル箱”**、インキュベーションを前提にしたスケジュールなどが即効性あり。
Q12. もっと学ぶには?
A. 本文「更に学びたい人へ」を参照。入門→中級→体系の順で読むと理解が飛躍します。
おまけコラム
『ろうそく問題』の裏側と“ひらめき”の瞬間
ろうそく、箱、画鋲、マッチ。
この4つのシンプルな材料で行われた実験が、なぜ世界中の心理学教科書に載るほど有名になったのか。
——その理由は、「人がどう“考える”のか」を美しく映し出すからです。
🧠 ドゥンカーの観察メモ
心理学者カール・ドゥンカー(Karl Duncker, 1903–1940)は、被験者の行動をただ正誤で分けるのではなく、**「考え方の過程」**に注目しました。
多くの人は最初に「画鋲でろうそくを直接止める」ことを試みます。
それが失敗してはじめて、「箱を使えるかも」と発想が転換します。
この瞬間、脳内では認知の再構成(リストラクチャリング)が起きているとされます。
これはゲシュタルト心理学(Gestalt Psychology)の考え方で、
「部分ではなく全体の見方が変わると、解決が見えてくる」という理論です。
つまり、発想とは“新しい情報”ではなく、見え方の再構成。
「何を見るか」ではなく「どう見るか」がすべてなのです。
💡 “ひらめき”はどこから来るのか?
神経科学の研究では、問題を一度離れたあと(=インキュベーション:寝かせ期間)に“ひらめき”が起きやすいと報告されています。
これは右脳側頭葉のガンマ波が急上昇する瞬間とも対応しており、
「ふとした瞬間に思いつく」感覚の正体に近い現象です。
日常でも、
- シャワー中にアイデアが浮かぶ
- 散歩中に急に答えが見える
こうした体験はすべて「意識がいったん外れた時に構造が再編される」ことによる自然な働きです。
🔍 小さな視点転換が生む“発見”
- 箱を“入れ物”から“台”に見る
- 枝を“ゴミ”から“道具”に見る
- 制約を“壁”ではなく“素材”とみなす
発想は、何も魔法ではありません。
見方を少しズラすことで、
「現実の中にもうある答え」を見つけられる——
それがろうそく問題の静かなメッセージなのです。
💬ここまでで、“ひらめき”の裏側と心理の仕組みを見てきました。
次の章では、この学びを生活・仕事・学習にどう活かすか、そしてどんな心構えが大切かを、まとめと考察で整理していきましょう。
まとめ・考察
固定観念を外す“思考の柔軟性”とは?
✅ ここまでのまとめ
- **機能的固着(ファンクショナル・フィクスドネス)**とは
→「いつもの使い方」以外が見えなくなる思考のクセ。 - 原因と影響
→ “用途ラベル”にとらわれる/“見せ方”で固着の強さが変わる。 - 克服の鍵
→ “性質で見る”・“見せ方を変える”・“時間を置く”・“GPT訓練”。 - 注意点
→ 固着は悪ではない。目的や場面に合わせて“使い分ける”。
💡 「見え方」を変えることが、人生を変える
固定観念は、時に安全で便利な“道しるべ”になります。
でも、それに頼りすぎると、目の前の可能性が見えなくなる。
仕事の改善も、勉強法の工夫も、
新しいアイデアも、最初の一歩は「見方の転換」です。
ろうそく問題のように、
“見慣れたもの”の中に“新しい役割”を見つけること。
それが創造性の最もシンプルな形です。
🧭 今日からできる3つのアクション
- 名詞でなく性質で考える(“何ができるか”で見る)
- 焦ったら一度離れる(インキュベーション=寝かせの時間)
- 周囲の“見せ方”を変える(整理・配置の工夫で発想を誘発)
小さな実験を繰り返すうちに、
あなたの中の“思考の柔軟性”は確実に育っていきます。
🌱 小まとめ
「これはこう使うもの」と思った瞬間、発想は止まります。
けれどその一歩手前で、
「もしかして別の使い道があるかも」と思えたなら、
もうそれだけで思考の自由が広がっています。
この柔らかい思考は、
時短にも節約にも、そして創造にもつながります。
更に学びたい人へ
以下は、「機能的固着」や発想・思考法をさらに深めたい人におすすめの本です。
『アイデアのつくり方』
- 著者:ジェームス W. ヤング
- 解説:竹内 均
- 翻訳:今井 茂雄
特徴・内容の要点
この本は、アイデアはゼロから生まれるのではなく、既存の要素を組み合わせ直すことで生まれるという理論を、シンプルかつ実践的に語っています。
「資料集め → 消化 → 発酵 → 結合 → 実行」の五段階モデルが提示されており、発想プロセスをステップとして追える構造になっています。
おすすめ理由
- 初心者にも読みやすい文章。
- 今回扱った「用途ラベルに縛られず性質で見る」発想法と親和性が高い。
- 日常レベルの思考練習にも使いやすく、すぐに実践できるヒントが多く含まれています。
『思考の整理学』(ワイド新版)
- 著者:外山 滋比古
特徴・内容の要点
この本は、「思考」そのもののさばき方、整理の仕方に焦点をあてています。
特に、「寝かせる時間(インキュベーション)」の重要性や、思考の余白を残す工夫が語られています。
また、論点を広げる・削ぐといった思考の切り口の変え方も多数収録されています。
おすすめ理由
- 発想を深めるとき、「離す」時間がいかに重要かを実感的に教えてくれる。
- 固着を起こしている状態から抜け出すヒントを、思考の整理という観点から補完してくれる。
- 中高生〜大人まで、幅広い読者に対応できる名著。
『誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ― 認知科学者のデザイン原論』
- 著者:D. A. ノーマン(ドナルド・A・ノーマン)
- 翻訳:岡本 明、安村 通晃、伊賀 聡一郎、野島 久雄
特徴・内容の要点
この本は、認知科学とデザインが交わる視点から、「人はどう知覚し、使いやすさを感じるか」を論じています。
「アフォーダンス(Affordance:機能的手がかり)」という概念をはじめ、「見た目」と「使われ方」のズレを埋める設計の理論が詳述されています。
物や道具をどう“見せるか・見られるか”という視点が、まさに見せ方が思考を変えるという本記事テーマと直結します。
おすすめ理由
- 中級者・創造的仕事をする人に特に役立つ。
- 固着の「見える枠」を意識的に操作するデザイン思考の理屈を補強できる。
- 発想の場面だけでなく、製品設計・ユーザー体験(UX)・日用品の見直しにも応用可能。
以上が3冊の紹介です。
それぞれ異なる角度から、発想・思考の枠を緩めるための視点や技法を教えてくれます。
関心のある一冊から手に取って、あなたの“思考の柔軟性”をさらに育ててみてください。
疑問が解決した物語
キャンプの翌朝。
火をおこして湯気が立つ鍋を見つめながら、友達がぽつりと口を開きました。
「昨日ね、木の枝で食べてみたら、意外とちゃんと使えたよ。
最初は“お箸じゃないし”って思ってたけど、
“細くて長い、軽い棒”って考えたら、ただの“素材”だったんだね。」
その顔はどこか晴れやかで、
昨日の“困った”が少し誇らしげな“発見”に変わっていました。
「思い込みって、気づかないうちに“できない”って決めてたんだね。
枝も、工夫も、意外と身近にあったのに。」
彼は笑いながら、拾った枝を少し削って、
「これ、今日のコーヒーを混ぜるスティックにも使えるかも」と言いました。
私もつられて笑いました。
——そうか、見え方を変えるだけで、世界は急に広くなるんだ。
その瞬間、昨日までの“問題”は、
ただの“試されごと”に変わっていました。

🪶 行動と教訓
友達は、「これはこう使うもの」という枠を一度手放し、
“性質で見る”ことを実践しました。
その小さな視点の転換が、
「不便」から「発見」へと日常を変えたのです。
発想は特別な才能ではなく、
**「思い込みに気づき、少し離れて見直すこと」**から始まります。
💭 読者への問いかけ
あなたの身の回りにも、
「これはこうするもの」と無意識に決めてしまっていること、ありませんか?
その“名前”をいったん外して、
“形・性質・動き”で見つめてみてください。
もしかしたら、すぐそばに——
新しい使い道と、まだ見ぬアイデアが
静かに眠っているかもしれません。
💬 物語の中の気づきは、きっと誰にでも起こり得る小さな奇跡です。
文章の締めとして
“見えない思い込み”は、誰の中にも静かに潜んでいます。
そしてそれは、悪いものではありません。
同じ道を早く歩くために、
脳が無意識に作った「近道」でもあるからです。
けれど、時にはその近道が、
新しい景色への道を塞いでしまうこともある。
だからこそ――
ふと立ち止まり、「これって本当にそうだろうか?」と
自分に問いかける時間を、少しだけ持ってみてください。
日常の中で、“名前を外して性質で見る”。
それだけで、世界の輪郭が少し変わって見えます。
それが、発想を広げ、問題を解く力の第一歩です。
私たちの思考は、日々アップデートできます。
昨日までの「当たり前」を見直すたび、
新しいアイデア、新しい視点が、
静かに生まれていくのです。
注意補足
💬 このブログで紹介した内容は、
筆者が個人で調べられる範囲の研究・文献・事例に基づいて構成しています。
他の解釈や研究も存在し、
今後の発見によって見え方が変わる可能性もあります。
けれど、それこそが学びの面白さ。
「固定観念をほどく」というテーマは、
これからも進化し続ける、人間らしい探求なのです。
もし今日の記事で、
「見え方を変えるって面白いかも」と感じたなら——
どうかそこで終わらせず、もう一歩、深く探ってみてください。
“機能的固着”という言葉は、
単なる心理学用語ではなく、
**「自分の中の固定観念をほどく鍵」**でもあります。
その鍵を手にした今、
少し専門的な文献や研究をのぞいてみると、
きっと新しい発見が待っています。
たとえば、研究者たちがどんな方法で「発想の転換」を生み出しているのか。
なぜ、人は思い込みに縛られやすいのか。
どんな環境が、創造性を解き放つのか。
知れば知るほど、
あなたの思考の世界はしなやかに広がっていきます。

最後まで読んでいただき、
本当にありがとうございました。
「これはこういうもの」ではなく、
「ほかにどんな見方があるだろう?」と問いかけ続けること。
その姿勢こそが、
固定観念を超えて、自分らしい発想を育てる
いちばん確かな学び方です。
どうぞこの先も、
あなた自身の“思考の旅”を、ゆっくり深めていってください。
💭 最後のひとこと
あなた自身の「思考を自由にする旅」の小さなきっかけになりますように。
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