なぜ人は“偉い人”の言葉を疑わず信じてしまうのか──その心理の裏にあるのが『権威主義的パーソナリティ』という現象です。

考える

あの先生が言うことは絶対正しい!
そんな気持ち、あなたも一度は覚えたことはありませんか?

小さな頃、「偉い人」が言っていること=間違いない、
と思い込んでしまう経験、身に覚えはありませんか?
実はこれ、心理学で
“権威主義的(けんいしゅぎてき)パーソナリティ”
と呼ばれるものなんですよ。

それ、本当に“自分の考え”ですか?

ある日の職員会議。
上司が「こう進めるべきだ」と言った瞬間、誰も何も言えなくなった空気。
意見があるのに、言い出せない。
だって、上司の言うことだし……
そんな経験、ありませんか?

これは単なる気遣いでしょうか?
それとも、自分でも気づかない「思考停止」状態かもしれません。

その正体こそが今回ご紹介する――
権威主義的パーソナリティという心理現象です。

『権威主義的パーソナリティ』とは?

この言葉は、偉い人の言うことに疑いを持たずに従ってしまう性格傾向を指します。

そして恐ろしいのはそれだけでなく、
立場の弱い人に対して攻撃的になりやすいという点。

つまり、「上には従い、下には強く出る」――
まるでピラミッド構造のロボットのような行動様式です。

この概念は、精神分析家エーリヒ・フロムが提唱し、
のちにアドルノらが研究を進めた社会心理学のキーワード。

現代の私たちにも、深く関係しているテーマです。

なぜ注目されるのか?

「自分の頭で考えない」ことが社会全体に影響を与える、
その危険性がここにあります。

たとえば、第二次世界大戦下のドイツ。
ナチスの台頭を許したのも、多くの人が“上の命令に従っただけ”という姿勢でした。

心理学者ミルグラムの実験では、
「他人に電気ショックを与えろ」と命じられた被験者の6割以上が指示に従ったという衝撃の結果が出ています。

私たちは思っている以上に、
“権威”に弱い生き物なのです。

あなたの周りにもある!身近な事例

学校で…
「先生が言ったから正しい」と思い込むあまり、自分の答えに自信が持てない。

職場で…
上司のミスを見つけても言い出せず、結果チーム全体が失敗。

SNSで…
フォロワー数が多い人の意見が正しいと思い込み、疑うことを忘れる。

これらはすべて、「権威主義的パーソナリティ」の影響かもしれません。

明日からできる!対処法とヒント

✅ 「なぜそう考えるのか?」と自分に問い直す
✅ 「反対意見にも価値があるかもしれない」と仮定してみる
✅ 複数の情報源を持つ
✅ 信頼=思考停止 ではないと理解する

知識ではなく、“態度”の問題です。

注意点と誤解されがちな点

じゃあ、先生や上司は疑うべき?
――違います

疑うのではなく、「考える」ことが大事なんです。

尊敬や信頼は大切ですが、
それが「自分の思考の放棄」になってしまっては本末転倒です。

おまけコラム:なぜ人は“従いたくなる”のか?

私たちは「自由」を望みながら、
時にそれを自ら手放してしまうことがあります。

その矛盾した人間の心理に真正面から向き合ったのが、
ドイツ生まれの社会心理学者・精神分析家エーリヒ・フロム(Erich Fromm)です。

◆ エーリヒ・フロムとは?

1900年ドイツ・フランクフルト生まれ。
ユダヤ系の家庭に育ち、ナチスの台頭を目の当たりにした経験から、権威と服従の心理を深く研究しました。

フロムはフロイトの精神分析にマルクス主義的社会批判を取り入れ、
「社会や経済の構造が人間の性格形成にどう影響するか」を解き明かそうとした先駆的な学者です。

代表作は『自由からの逃走』『愛するということ』『健全な社会』など。
彼の思想は、単なる学術理論を超え、人間の「あり方」に問いを投げかけ続けています。

◆ 自由から逃げる人間の心理

『自由からの逃走』(Escape from Freedom, 1941)で、
フロムはこのように述べています。

「人は自由から逃げたがる。
自分で決断する不安よりも、誰かに従う安心を選んでしまう。」

自由には責任が伴います。
何かを選ぶということは、同時に「選ばなかったものの責任」も引き受けることになる。
それは時に、怖く、苦しく、不安になるものです。

だから人は、「決めること」から逃げて、誰かの指示に従おうとするのです。
そこには、「安心」と「保護」を求める無意識の欲求があります。

◆ 権威に従うことで“自分”を見失う

フロムは、人が権威に服従する心理を、
「受動的な逃避」と位置づけました。

上司の言う通りにしておけば叱られない

有名人の意見をそのまま信じておけば考えなくて済む

社会のルールに従っていれば自分で判断しなくていい

こうした選択は一時的に「楽」で「安心」かもしれません。

でも、その代わりに、
“自分の思考”や“主体性”が少しずつ削られていくのです。

◆ それで本当に「自由」と言えるのか?

権威に従うことで一時的な安心は得られるかもしれません。
しかしフロムは、「それは本当の意味での自由ではない」と語ります。

真の自由とは、
“自分で考え、自分で決める勇気”を持つこと。

フロムの言葉を借りるなら、それは「積極的自由(positive freedom)」であり、
自分の人生を自分の意志で切り拓くことにほかなりません。

だからこそ、
「従うこと=楽」「自由=不安」
という感覚にとらわれたときこそ、一度立ち止まり、考えてみてください。

それは本当に自分の選択ですか?
それとも、誰かに“思考”を預けてしまっていませんか?

エーリヒ・フロムの思想は、現代の私たちにこそ必要な、
「自分の心と向き合う勇気」を静かに呼びかけてくれているのです。

まとめと問いかけ

🔹 強い者には服従し、弱い者には攻撃的
🔹 自分の意見を持つことを放棄してしまう
🔹 学校・職場・家庭など、あらゆる場面で起きる
🔹 対処法は「考え続けること」

あなたは、最近、
「それって本当に自分の考え?」と自分に問いかけたことがありますか?

おすすめ書籍

『自由からの逃走』 エーリヒ・フロム(ちくま学芸文庫)
『権威主義の正体』 岡本浩一(PHP新書)
『服従の心理』 スタンレー・ミルグラム(河出書房新社)

本の特徴とおすすめ理由

📘『自由からの逃走』 エーリヒ・フロム(ちくま学芸文庫)
特徴

権威主義的パーソナリティを理解するうえで原点とも言える一冊

「なぜ人は自由であることに不安を感じるのか?」という人間の本質的な問いに答えてくれます

ナチズムの興隆を背景に、社会構造と個人心理を結びつけて論じています

おすすめ理由
→ フロムの考えを知ることで、現代社会でも起きうる「服従のメカニズム」に気づけます。
思考停止に陥らないために、“自分で考える力”を養うきっかけになる本です。

📙『権威主義の正体』 岡本浩一(PHP新書)
特徴

日本の文化背景を踏まえた国民性と権威への従属意識を分析

家庭、学校、職場など、身近な場面における「権威主義的傾向」が具体例でわかりやすく解説されています

難しい理論を平易な日本語で解説してくれているため、心理学初心者にも読みやすい一冊

おすすめ理由
→ 「自分のことかもしれない…」と感じる具体的な描写が多く、自分の思考や行動の傾向に気づかされます。
日本人に特有の“空気を読む文化”と「権威」の関係を考える上でも役立ちます。

📕『服従の心理』 スタンレー・ミルグラム(河出書房新社)
特徴

実験心理学の名著。
「電気ショック実験」で有名なミルグラムが、人が命令にどれほど従うかを科学的に検証した書籍です

権威に対して、道徳や倫理よりも服従を優先してしまう人間心理のリアルが描かれています

実験の詳細、被験者の反応、社会的インパクトまで網羅されています

おすすめ理由
→ 「自分なら絶対やらない」と思っていたことが、実は簡単に起こりうる――。
行動の裏にある無意識の服従心理を、実験データとともに知ることで、「なぜ人は従ってしまうのか?」が深く理解できます。

書籍名特徴こんな人におすすめ
『自由からの逃走』権威依存と自由の心理を根源から解説思考の土台を築きたい人
『権威主義の正体』日本人の思考と行動パターンに迫る身近な場面に落とし込みたい人
『服従の心理』権威への従属を実験で示した名著科学的に理解したい人

🔚 さいごに

人はときに、考えることをやめて「正しそうな誰か」に従いたくなるものです。
それは、楽で、安心できて、間違いに思えないからです。

でも、「誰かの正しさ」よりも、「自分の判断」を信じることは、
もっと強くて、もっと自由な生き方につながっていきます。

このブログを通して、
あなた自身の中にある「問い」や「気づき」を見つけてもらえたなら、嬉しく思います。

注意喚起として

本記事は著者個人が調べられる範囲で、信頼できる文献と研究に基づき、筆者ができる限り正確に調査した内容です。
ただし、すべてが絶対的な正解ではありません。

研究は日々進み、新たな視点が生まれています。
どうか、この記事を「自分で考える」きっかけにしていただけたら幸いです。

最後まで読んでいただき、

本当にありがとうございました。

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