みんなと同じを選んでしまう理由を、トイレに一緒に行く休み時間の物語から出発して、心理学・行動経済学・脳の仕組みまでやさしく紐解く解説ガイド。
友だちと「いつも同じ行動」をしてしまう『同調行動(ハーディング現象)』とは?やさしく&本格的に解説

代表例
ランチでつい「みんなと同じ」を選んでしまうとき
会社や学校の昼休み。
本当はカレーが食べたいのに、
みんなが「ラーメン行こうよ」と言った瞬間、
「じゃあ、私もラーメンでいいや」
と、つい口について出てしまう。
あとから一人で
「いや、あのときカレーが食べたかったんだけどな…」
と、少しモヤッとしたことはありませんか?

この “なんとなくみんなと同じを選んでしまう” 背景にあるのが、
今回のテーマです。
3秒で分かる結論
『同調行動(ハーディング現象)』とは、
自分の本心よりも「周りと同じでいたい」という気持ちが強くなり、
行動や考え方を他人に合わせてしまう心理現象 のことです。

行動経済学では、この「みんなと同じ行動をとる群れの動き」を
ハーディング現象(herding:群れの行動) と呼びます。
小学生にもスッキリ分かる説明
噛み砕いていうと
「自分ではちょっと違うと思っていても、
みんなと同じほうが安心で、安全な気がして、
ついマネしてしまう行動」
が『同調行動』です。
- 本当は別のメニューがいいのに、友だちと同じものを注文する
- 本当は「それはよくない」と思っているのに、みんなが笑っているから一緒に笑ってしまう
こういうとき、
頭の中の “自分の気持ち” と “みんなに合わせたい気持ち” がケンカして、
後者が勝っている状態 と考えるとイメージしやすいと思います。
ここから先は、
同調行動を
- もっと身近な「あるある」から理解し
- きちんとした心理学の定義や実験
- 脳や行動経済学の視点
まで、だんだん深く掘り下げていきます。
1. 今回の現象とは?
「みんなと同じじゃないと不安…」はどうして?同調行動という“心の法則”
まずは、今回のテーマになる “あるある” を整理してみましょう。
🔍 「同調行動」あるある集
このようなことはありませんか?
- 誰かが「トイレ行こ〜」と言うと、
行きたくなくても「じゃあ私も」と一緒に立ち上がる - クラスの「いつメン」が決めた遊びに、
本当は別のことがしたいのに、何となく合わせてしまう - 楽しみにしていた服よりも、
「みんなが着ているブランドだから」と、そっちを選んでしまう - 会議で「私は違う意見だな」と思っても、
雰囲気的に反対しづらくて黙ってしまう - SNSで、みんなが叩いている相手に対して、
よく考えずに「いいね」やネガティブなコメントを押してしまう
一つひとつの行動だけを見ると、
「まあ、よくあること」で流してしまいがちです。

でも、よく考えると
「あれ、自分は本当にそうしたかったんだっけ?」
と不思議に感じる瞬間もあるはずです。
🎯 今回の記事を読むメリット
- 「なぜ私は、みんなと同じ行動を選んでしまうんだろう?」
というモヤモヤの “名前” と “しくみ” が分かる - 同調行動の メリット(安心・協力・秩序) と
デメリット(いじめ・炎上・後悔) を整理できる - 「流されすぎて疲れる…」ときに使える、
上手な同調との付き合い方のコツ が分かる - 行動経済学の ハーディング現象 や
マーケティングでよく使われる 社会的証明 との関係も理解できる
ようになります。
では、この現象を、
もっと身近に感じられるように、
一つの物語から入っていきましょう。
2. 疑問が浮かんだ物語
「なぜ私はトイレまで一緒に行ってしまうんだろう?」
主人公は、小学高学年の女の子 ミサキさん です。
休み時間になると、
仲の良い4人組で、毎日のように集まって話をしています。
その日も、いつものメンバーでおしゃべりをしていると、
一人が何気なく言いました。
「トイレ行こ〜」
すかさず、もう一人が
「あ、じゃあ私も」
さらにもう一人も、
「私も行く〜」
と立ち上がります。
ミサキさんは、心の中でこうつぶやきました。
「(え…さっき行ったし、今は別に行きたくないんだけど)」
でも、口から出た言葉は
「じゃあ、私も行く〜」
でした。

そのときの気持ちは、
- 行列のできているお店を見て
「なんかおいしそうだし、せっかくだから並んでみようかな」
と感じるときや - SNSで「いいね」がたくさんついた投稿を見て
「きっとこれが正しいんだろうな」と思ってしまう
あの感じに、どこか似ています。
放課後、家に帰ってから、ミサキさんはふと立ち止まります。
「どうして、行きたくもないトイレについて行っちゃうんだろう?」
「もし、みんなが悪いことをしようとしたら、私はどうするんだろう?」
その小さな違和感が、
今回のテーマを理解する入口です。
みんなと同じじゃないと不安。
でも、本当の自分の気持ちを無視してしまうのは、ちょっと苦しい。
ミサキさんのモヤモヤは、
多くの人が一度は感じたことのある “心のゆれ” ではないでしょうか。
この不思議な感覚には、
心理学・行動経済学でしっかり研究されてきた「名前」があります。
次の章では、その “名前” と “意味” を
まずはシンプルに 見てみましょう。
3. すぐに分かる結論
お答えします
✅ —— 同調行動とは?
自分の本心や判断とは少し違っていても、
周りの人の意見や行動に合わせて、
自分の行動や考え方を変えてしまうこと
を指します。
心理学の辞典では、
「集団の規範や、他者の反応に一致するように行動すること」
といった言葉で説明されています。

噛み砕いていうなら…
もっとかんたんに言うと、
“自分の本音” よりも “周りの空気” を優先してしまう行動
が、同調行動です。
- トイレに行きたくないけれど、「一人だけ残るのは気まずい」と思って一緒に行く
- 「それはおかしい」と思っているのに、多数派がそう言うので黙ってしまう
- 好きな服よりも、「みんなが着ているから」という理由で流行の服を選ぶ
これらはすべて、同調行動の一例です。
なぜそうしてしまうのか? 2つの大きな理由
研究では、同調行動には大きく分けて
2つの心理(影響) があるとされています。
- 規範的影響(きはんてきえいきょう)
- みんなに嫌われたくない
- 仲間はずれがこわい
- 「空気を読んで合わせる」タイプの同調
- 情報的影響(じょうほうてきえいきょう)
- 自分の判断に自信がない
- 「みんなのほうが詳しそうだから、正しそう」と感じる
- 「みんなのほうが正解っぽいから合わせる」タイプの同調
ミサキさんがトイレに一緒に行ってしまうのは、
主に ① 規範的影響 に近いケースです。
ここまでで、
- 「あの不思議な感覚には名前がある」
- 「理由もある程度わかる」
という 入口レベル の理解はできました。
3.5.よくある質問Q&A
ここまでで、「同調行動ってこういうことなんだな」という
ざっくりしたイメージはつかめたと思います。
いっぽうで、
「じゃあ、これは同調行動になるの?」
「同調って悪いことなの?」
など、具体的な疑問もいくつか浮かんできたのではないでしょうか。
そこで次に、検索でもよく見かける
「同調行動のよくある質問Q&A」 をまとめました。
気になるところから読んでみてください。
――同調行動について、みんなが気になること
Q1. 同調行動って、結局「悪いこと」なんですか?
A.いいえ、同調行動そのものは“悪”ではありません。
たしかに、
いじめやSNS炎上に加担してしまう
間違った多数派に流される
といった「危ない同調」もありますが、一方で
列に並ぶ、ルールを守る
友だちのペースにあわせて話す
チームで協力して行動する
など、社会生活をスムーズにする「良い同調」もたくさんあります。
大事なのは、
「なぜ今、みんなに合わせているのか?」
「これは自分の将来や大切な人のためになっているか?」
と、ときどき立ち止まって考えることです。
Q2. 同調行動と「協調性(きょうちょうせい)」はどう違うの?
A.ざっくり言うと、
同調行動
→ 自分の本心と少し違っていても「みんなと同じ」を選ぶ動き
協調性
→ 自分の考えを持ちながら、お互いがうまくやれるように合わせる力
です。
「協調性がある人」とは、
なんでもかんでも周りに合わせる人ではなく、
自分の意見も大事にしながら
相手の立場や気持ちも考えられる人
のことだと考えると、イメージしやすいと思います。
Q3. 日本人は「同調行動」が強いって本当ですか?
A.よくそう言われますが、あくまで傾向の話であって、人による差も大きいです。
「空気を読む」
「和を乱さない」
「出る杭は打たれる」
といった価値観が重んじられてきた分、
同調行動が強く働きやすい場面はたしかにあります。
ただし最近は、
多様性(ダイバーシティ)
個性を大事にする教育
も広がっているので、
一概に「日本人=同調的」と決めつけるのは注意が必要です。
この記事では、
「文化」よりもまず
“自分の中の同調行動” に気づくことを大切にしています。
Q4. 同調行動の「よくある具体例」をもう少し知りたいです
A.記事中で紹介したもの以外だと、例えばこんなものがあります。
買い物
レビュー数と★の高さだけで商品を選んでしまう
「今これが流行っているらしい」で、深く考えずに購入する
職場
会議で全員が賛成している空気の中、
「本当は気になる点があるけど…」と言い出せない
飲み会に行きたくないのに、「断りづらいから」と参加する
学校・友だち関係
クラスの中で一人の子がからかわれているとき、
本当はイヤなのに一緒に笑ってしまう
好きなゲームや本があっても、「みんなと違うから」と言いづらい
「本音」と「みんなに合わせたい気持ち」が分かれたとき、
どちらを選ぶことが多いかを振り返ってみると、
自分の同調パターンが見えてきます。
Q5. 「流されやすい自分」を少し変えたいとき、何から始めればいいですか?
A.いきなり「一切同調しない!」と頑張る必要はありません。
おすすめは、次の 3ステップ です。
気づく
1日の終わりに
「今日はどこで“みんなに合わせた”かな?」と振り返る
分けてみる
その同調は
将来の自分の役に立つ?
誰かを傷つけていない?
一人でも同じ選択をしたいと思う?
をチェックしてみる
小さく変えてみる
いきなり大きな場面ではなく、
まずは「ランチメニュー」「服」「娯楽」など
リスクが低い場面から 自分の選択を試してみる
小さな場面で
「自分で選べた」という成功体験を積み重ねると、
自然と「流されすぎない自分」が育っていきます。
Q6. 子どもの同調行動は止めたほうがいい?それとも見守っていい?
A.どちらか一方ではなく、バランスが大事です。
列に並ぶ、ルールを守る、友だちと協力する
→ 社会的に必要な“良い同調”なので、あえて止める必要はありません。
誰かをいじめる/仲間はずれにする/危険な行為に乗ってしまう
→ 「みんながやっているから」ではなく、
「それは本当に良いことかな?」と一緒に考えるきっかけに。
親や大人としてできるのは、
「みんなと同じ」だけが正解じゃないこと
「自分はどう思った?」と聞いてあげること
この2つを、
日常会話の中で少しずつ伝えていくことです。
Q7. 職場の「同調圧力(どうちょうあつりょく)」がつらいときは?
A.まずは、自分を守ることを最優先に考えてください。
一人で抱え込まず、
信頼できる同僚・上司・外部相談窓口に話してみる
「飲み会」「イベント」など、
仕事の成果と直接関係ない同調は“少しずつ断っていく”
ノーと言いづらいときは、
「その日は予定があって…」など
やんわりした断り方のテンプレを用意しておく
職場によって事情や安全度が大きく違うので、
「絶対こうすべき」とは言えませんが、
「みんなに合わせない=悪い社員」
という思い込みに、自分で自分を縛りすぎないこと
は、とても大切です。
Q8. 同調行動と「ハーディング現象」の違いを一言でいうと?
A.とてもざっくりまとめると、
同調行動
→ 心理学で使われる、
「周りと同じ行動・考えをとってしまう個人の動き」
ハーディング現象
→ 行動経済学・投資分野で使われる、
「多くの人が同じ方向に動く“群れ”としてのふるまい」
というイメージです。
この記事では、
「個人の心の動き」としての同調行動 をベースにしつつ、
必要に応じて
「群れとしての動き」としてのハーディング現象 にも触れています。

ここから先は、より本格的に
- 学術的な定義と歴史
- 有名な実験(アッシュ、シェリフなど)
- 行動経済学でのハーディング現象
- 脳や神経レベルでは何が起こっているのか
を、順番に見ていきます。
「みんなと同じでいたい」という、
とても人間らしいこの力を、
どう味方につけて、どう距離をとるか?という視点で、次の章へ一緒に進んでいきましょう。
4. 『同調行動』とは?
心理学での正式な定義
日本語の心理学辞典や解説サイトでは、
『同調行動』 はおおむね次のように説明されています。
- 集団の規範(当たり前とされるルール)や
他者の反応に合わせて行動すること - 人間の「社会への適応」の一形態
別の研究では、
「自分とは異なる意見・態度・行動を周囲から求められたとき、
迷いながらも周りに合わせてしまうメカニズム」
という表現も使われています。
ポイントをまとめると、
- 集団の “ふつう” に自分を合わせる行動
- 多数派に引っ張られる動き
- 社会にうまく溶け込むための基本的なしくみ
という3つの側面を持った現象だと考えられます。

「同調」を研究した代表的な実験
🧪 シェリフの自動運動(オートキネティック)実験
1930年代、社会心理学者 ムザフェル・シェリフ は、
暗い部屋で「止まっている光」があたかも動いて見える
自動運動効果(オートキネティック効果) を利用して、
人がどのように “集団の基準” に同調するかを調べました。
- 1人ずつで見せると、
「3cm動いた」「10cm動いた」など、バラバラの答えになる - しかし、3人組で話しながら答えると、
少しずつ答えが近づき、同じくらいの数字に収束する
その後、一人に戻しても、
多くの人は グループで決めた値に近い答えを言い続けた ことから、
集団の判断が “自分の感覚そのもの” になってしまう ことが示されました。
🧪 アッシュの線分同調実験
その後、心理学者 ソロモン・アッシュ は、
「正解がはっきりある課題」でも人は同調してしまうのかを調べました。
- 本物の参加者1人+サクラ数人でグループを作る
- 明らかに長さの違う線を見せ、
「どれが同じ長さか?」という簡単な問題を出す - サクラたちは、わざと 明らかに間違った答え を言う
結果として、
- 約3分の1(32%) の回答が、
サクラたちに合わせた “わざと間違い” になった - 約75% の人が、一度は多数派に同調して間違えた
ちなみに
- 25%の被験者は、一度も周囲の意見に同調せず、自分の判断を貫ぬきました
- 単独で同じ課題を行った場合は、94%が全問正解をしました
ということが報告されています。
「どう見ても正解が分かる場面でも、
周りが全員同じ(しかも間違った)答えを言うと、
多くの人がつられて同じ間違いをしてしまう」
ことが、実験で確かめられたわけです。
行動経済学での「ハーディング現象」
行動経済学や投資の世界では、
同じような現象を ハーディング現象(herding:群れ行動) と呼びます。
- herd(ハード) = 群れ
- 「群れの大多数と同じ方向に動くことで、
心理的な安心感を得ようとする」傾向 - 株式市場や不動産市場のバブルなど、
「みんなが買う→さらに買いが集まる」という形で現れる
ビジネスやマーケティングの解説では、
- バンドワゴン効果(売れているものほど売れる)
- 「100万人が選びました」などのキャッチコピー
と結びつけて説明されることも多いです。
✅ まとめると
心理学では「同調行動」、
行動経済学ではその “群れとしての動き” を
「ハーディング現象」と呼ぶことが多い
—— という関係になっています。
次の章では、
この同調行動が「なぜ大事なのか」「なぜ問題にもなるのか」を、
社会と脳の両面から見ていきます。
5. なぜ注目されるのか?
背景・重要性
同調行動は「悪」ではなく、生きるための仕組み
「同調」と聞くと、
- 自分を持っていない
- 流されやすい
といったマイナスのイメージを持ちがちです。
しかし、心理学の解説では、
- 同調行動は 人間が社会に適応し、秩序を保つための基本的な仕組み
- 社会が安定しているほど、同調行動は一般的になる
とも指摘されています。
たとえば、
- 列にきちんと並ぶ
- 学校や職場のルールを守る
- 相手の気持ちを考えて、テンポや話題を合わせる
これらも広い意味では 『同調行動』 です。
これがまったくなければ、
社会生活はかなりギスギスしてしまうでしょう。
日本社会と同調行動
日本ではよく、
- 「空気を読む」
- 「和を乱さない」
- 「出る杭は打たれる」
といった言葉が語られます。
実際、ビジネス向けの解説や教育系の記事でも、
日本人は 集団との調和を重んじやすく、同調行動が強く出やすい
という指摘がよく見られます。
その一方で、
- いじめへの加担
- SNSの炎上に乗っかる行動
- 職場でのハラスメントに「見て見ぬふり」をすること
など、同調行動が 悪い方向に働くケース も問題になっています。

脳の中では何が起きているのか?(脳科学の視点)
近年の脳画像研究(fMRI など)では、
同調行動に関わる脳のネットワーク も
少しずつ明らかになってきています。
研究をざっくりまとめると:
- 前帯状皮質(ぜんたいじょうひしつ:dACC)
- 自分の意見とグループの意見がズレているとき、
「エラー」や「不快感」を検知しやすい領域
- 自分の意見とグループの意見がズレているとき、
- 前頭葉の一部(内側前頭前野:mPFC/vmPFC)
- 「みんなと同じ」になったときの
価値(安心感・ごほうび感)を計算する役割
- 「みんなと同じ」になったときの
- 線条体(せんじょうたい:報酬系)
- 集団に合わせたとき、「ほっ」とする感覚や
つながりの感覚に関わると考えられている
- 集団に合わせたとき、「ほっ」とする感覚や
- 島皮質(とうひしつ:insula)
- 「浮いてしまうかもしれない」という不安や
社会的な痛みを感じるときに働きやすい
- 「浮いてしまうかもしれない」という不安や
メタ分析(複数のfMRI研究をまとめた統合研究)では、
自分と他人の意見のズレ が大きいときに
前帯状皮質や島皮質が強く反応し、
「みんなと同じになったとき」に線条体や前頭前野が関わる
という傾向が報告されています。
噛み砕いて言うと、
みんなと違う行動をしているとき、
脳の一部が「このままで大丈夫?」と不安信号を出し、
みんなと同じになると「よし、安心した」と
ごほうびのような反応を返してくれる
という “脳レベルのしくみ” が
同調行動を後押ししている可能性がある、ということです。
もちろん、まだ研究途上で、
「同調行動=この脳のここだけ」というほど単純ではありません。
ですが、「みんなと同じでいたい」という感覚は、
単なる性格ではなく、脳のしくみにも支えられている
ということが、少しずつ分かってきています。
ここまでで、
- 同調行動は本来、生きるために必要な仕組み
- ただし現代社会では、SNSや職場などで
悪い方向にも働きやすい - 脳レベルでも、「ズレの不快」と「同じの安心」が
同調を促している
という全体像が見えてきました。
次の章では、
これを 日常生活でどう活かすか・どう気をつけるか を
具体的な場面に落として見ていきます。
6. 実生活への応用例
「良い同調」と「気をつけたい同調」
学校・職場での「良い同調」
例①:前向きな流され方
- 友だちがテスト勉強をしているので、
自分も何となく勉強モードになる - 職場でみんなが時間を守るので、
自然と遅刻が減る
これは 前向きな同調 で、
自分の将来にもプラスになりやすいパターンです。
活かし方のコツ
- 「頑張っている人」が多い環境に身を置く
- やりたいことに取り組んでいる友人と
意識的に一緒に過ごす時間をつくる
人間関係をラクにする同調
例②:ペースや話し方を少し合わせる
- ゆっくり話す人には、こちらも少しゆっくり話す
- 大人数が苦手そうな相手には、少人数で話すようにする
これは 相手への思いやりからくる同調 で、
コミュニケーションをスムーズにしてくれます。
大事なのは、
「相手に100%合わせる」のではなく、
「相手を尊重しつつ、自分の気持ちも大事にする」
という バランス です。
気をつけたい同調:いじめ・危険行動・お金
例③:いじめやSNS炎上への加担
- 教室で一人の子がからかわれているとき、
本当は「やりすぎだ」と思いながら、一緒に笑ってしまう - SNSで誰かが叩かれているとき、
内容をよく読まずに「いいね」や冷やかしコメントを押してしまう
研究では、
こうした 炎上や誹謗中傷への参加 にも
同調行動が関わっていることが示されています。
例④:投資・買い物での「みんな買っているから」
- 「みんなが買っているから」と高額商品を勢いで購入
- 「SNSでバズっている銘柄だから」と、
仕組みを理解しないまま投資してしまう
行動経済学では、
こうした現象を ハーディング現象 の一例として説明します。
同調行動を上手に使うためのチェックリスト
同調行動を “味方” にするために、
シンプルな3つの質問を用意してみました。
- その行動は、自分の将来の役に立ちそうか?
- その行動は、誰かを傷つけていないか?
- 自分一人でも、同じ選択をするか?
この3つのうち 2つ以上が「はい」 なら、
その同調はかなり健全である可能性が高いと考えられます。
逆に、
「本当はやりたくないし、
誰かが傷ついている気もするけど、
みんなやっているから…」
というときは、
一度立ち止まって考えるサイン だと思ってください。

ここまでで、
同調行動を「良い方向」に使うヒントと、
「危ない同調」に気づくポイントを見てきました。
次の章では、
この現象にまつわる よくある誤解 と、
「同調」とよく混同される「協調」との違いを整理します。
7. 注意点や誤解されがちな点
『同調』と『協調』はちがう
よく混ざりやすいのが、
同調(conformity/コンフォーミティ) と 協調(cooperation /コオペレーション/協調性) です。
- 同調
- 多数派や周囲の意見に合わせる
- 本心とは違っていても起こりうる
- 協調
- 考えの違いを認め合いながら、
お互いの目的を達成しようとする - 自分の意見も持ったうえで、相手を尊重する動き
- 考えの違いを認め合いながら、
噛み砕くと、
同調:自分を消して「みんなと同じ」になろうとする
協調:自分の意見を持ちながら「お互いうまくやる」
というイメージです。
「協調性がある人」とは、
なんでも「はいはい」と周りに合わせる人ではありません。
自分の軸を持ちながら、相手の立場も考えられる人 のことです。

よくある誤解
- 誤解①:みんなと同じ=いつも正しい
- アッシュの実験が示すように、
多数派がはっきり間違えることもあります。
- アッシュの実験が示すように、
- 誤解②:同調しない人=協調性がない
- 理由を持って「違う」と言える人は、
むしろ集団のブレーキ役になることもあります。
- 理由を持って「違う」と言える人は、
- 誤解③:同調は全部悪いもの
- 秩序や安全、安心感を生むという
ポジティブな面も大きいです。
- 秩序や安全、安心感を生むという
誤解しないための小さな対策
- 「みんながやっているから」を
行動の理由にしない練習 をする - 迷ったときは
「もし自分が一人だったら、同じ行動をとるか?」と自問する - 信頼できる大人・友人に
「これってどう思う?」と相談して、
視点を一つ増やしてみる
こうした小さな習慣が、
危ない同調から自分を守る力 になります。
次の章では、
同調行動と強く結びついて語られる
「ハーディング現象」や「社会的証明」 を、
おまけコラムとして少し深掘りしてみます。
8. おまけコラム
ハーディング現象と社会的証明
行動経済学やマーケティングの世界では、
- ハーディング現象(herding)
- 社会的証明(social proof:ソーシャル・プルーフ)
という言葉がよく使われます。
ハーディング現象
多くの人と同じ行動をとることで、
心理的な安心感を得ようとする現象
- 人気のレストランに行列ができるほど、
さらに人が並ぶ - 特定の株や仮想通貨に、
「みんなが買っているから」と投資が殺到する
などが典型例です。
社会的証明(social proof/ソーシャル・プルーフ)
心理学者チャルディーニが
『影響力の武器』で紹介した概念で、
「たくさんの人が支持しているものを、
私たちは無意識に“正しい・安全だ”と感じてしまう心理」
を指します。
- レビューが多く★4.5の商品を選びやすい
- 「累計◯◯万人が受講」と書かれている講座に安心感を覚える
といった行動の背景にある心理です。

子ども向けの例で言うと…
- 誰も読んでいない本は手に取りづらい
- クラスの多くが読んでいる本は、
なんとなく「きっと面白いんだろう」と感じて読みたくなる
この感覚が、
社会的証明+同調行動 の分かりやすいイメージです。
ここまでで、同調行動を取り巻く
さまざまな関連概念を見てきました。
次の章では、
これらをまとめつつ、
「この力とどう付き合っていくか」 を改めて考えていきます。
9. まとめ・考察
『同調行動』と、どう付き合っていく?
ここまでの内容を、いったん整理します。
✅ 同調行動とは?
- 自分の本心とは少し違っていても、
周りに合わせて行動や考え方を変えてしまうこと - 集団の規範や他者の反応に合わせる
適応行動の一つ として研究されてきた
✅ なぜ起こる?
- 嫌われたくない・仲間はずれがこわい(規範的影響)
- 自分の判断に自信がない・みんなのほうが正しそう(情報的影響)
✅ 良い面
- 社会のルールやマナーを守りやすくなる
- 協力して物事を進めやすくなる
- 不安なとき、みんなと一緒にいることで安心できる
✅ 悪い面
- 多数派が間違っているとき、一緒に間違ってしまう
- いじめ・炎上・バブルなどに加担してしまうリスク
- 「自分は本当はどう思っていたのか」を見失い、
あとで後悔することもある
考察
同調行動は「消す」のではなく「使い分ける」
ここまで見てきて、
同調行動は「なくすべきクセ」ではなく、
「上手に使い分ければ心強いツール」
だと感じています。
- 前向きなことには、あえて流される
- 勉強する友だちに合わせて図書室へ行く
- 健康的な習慣を持つ人のライフスタイルを少しマネする
- 誰かを傷つけることには、静かに距離をとる
- いじめや誹謗中傷には、参加しない・止める
- 大事な場面では、「自分はどう思う?」を一度考える
- お金・仕事・人生の選択など

あなたへの問いかけ
あなたなら、この同調行動を
どんな場面で活かして、
どんな場面で距離を置きたい と思いましたか?
- 「ここは、いい意味で流されてもいいな」
- 「ここだけは、自分の頭で考えたいな」
という 自分なりのライン を、
少しだけイメージしてみてください。
その線引きが、
これから同調行動と付き合っていくための
あなた自身のコンパス になります。
――ここから先は、
「もう少し深く知りたい」「日常でこの現象を自分の言葉で説明できるようになりたい」
という方に向けた “応用編” です。
同調行動(どうちょうこうどう)やハーディング現象を、
単なる“知識”で終わらせず、
- 日常の会話で使えることばにする
- 自分や身近な人の行動を、少し距離をおいて見つめ直す
そんな “一段深い理解” に進んでいきましょう。
それではさっそく、
10.応用編:今回の現象を「自分の言葉」で語れるようになる パートへ進みます。
10.応用編
日常で使える「同調行動のことば」と、自分を振り返るミニレッスン
ここからは、
- 同調行動まわりの 語彙(ごい)を増やす
- 「あ、これ、同調してるな」と 自分で気づける
ことをゴールにしていきます。
むずかしい専門書を読まなくても、
ことばを少し知っているだけで、日常の見え方がかなり変わります。
同調行動のまわりでよく出てくるキーワード集
まずは、今回の現象を説明するときに役立つ
“基本ボキャブラリー” を整理しておきます。
◆同調行動(どうちょうこうどう)
意味:
自分の本心や判断とは少し違っていても、
周りの人の意見や行動に合わせて、自分の行動や考え方を変えてしまうこと。
社会心理学の辞典でも、
「集団規範や他者の反応に一致するよう、自分の行動や意見を変えること」
といった説明がされています。
◆同調圧力(どうちょうあつりょく)
意味:
「みんなと同じでいないといけない」という、
目に見えない “空気のプレッシャー” のこと。
投資やビジネスの解説でも、
「周囲と同じ行動をとらないと不安になり、
つい多数派に合わせてしまう心理」として説明されています。
◆集団圧力(しゅうだんあつりょく)・社会的圧力(しゃかいてきあつりょく)
意味:
「その場の集団」や「社会全体」の暗黙のルール・期待が、
個人の行動にかけてくる圧力のこと。
教科書レベルの社会心理学でも、
「個人は集団の規範(ふつうこうするよね、という期待)から圧力を受ける」
という形で説明されています。
◆群集心理(ぐんしゅうしんり)
意味:
大勢の人が集まったときに、
興奮したり、判断が甘くなったりして、
普段ならしない行動をしてしまいやすくなる心理状態。
辞書でも、
「群集状況で個人の自制心が弱まり、周囲に付和雷同(ふわらいどう)しやすくなる心理」
と説明されています。
◆ハーディング現象
意味:
行動経済学で使われる用語で、
多くの人々と同じ行動をとることで安心感を得ようとし、
その結果として周囲に同調・追随してしまう傾向
を指します。
証券会社の用語集では、
- 「人は合理的な判断よりも、多くの人と同じ行動に安心感を持つ」
- 「そのために、集団として間違った方向にいってしまうことがある」
と説明されています。
◆社会的証明(ソーシャル・プルーフ)
意味:
「たくさんの人が支持しているものを、正しい・安全だと感じてしまう心理」。
チャルディーニの名著『影響力の武器』では、
- 「人は何が正しいかを判断できないとき、
多くの人が選んでいる行動を『正しさのサイン』として使ってしまう」
現象として紹介されています。
こうした単語を知っておくと、
「今の自分は“同調圧力”を感じているな」
「これは“ハーディング現象”っぽいぞ」
と、ちょっと冷静に自分を見つめ直しやすくなります。
この「言葉でラベルを貼る力」が、
次の “自分の言葉で語る力” につながっていきます。

日常で使える「同調行動」を言いあらわすフレーズ集
ここからは、
実際に使える “日本語フレーズ” に落とし込んでみます。
そのまま日記に書いたり、友だちとの会話で使ったりできる言い回しです。
● 自分の状態に気づくためのひと言
- 「いまの私は、みんなと同じでいたい気持ちが強くなっているな。」
- 「これは前向きな同調だから、あえて乗ってみるのもアリだな。」
- 「今やろうとしているのは、本当に自分の望み?
それとも、同調圧力に押されてるだけかな?」
● 人にやさしく伝えるためのひと言
- 「みんなと同じも安心だけど、
違う意見があることも大事だと思うんだ。」 - 「私はこう思うけど、
みんなと同じじゃなくてもいい?」 - 「それ、ちょっと**“ノリ”で行きすぎてないかな**って心配になった。」
こうした言葉を持っていると、
- 自分の気持ち
- 周りからの影響
を切り分けながら話しやすくなります。
1日を振り返る「同調行動セルフチェック」
最後に、
自分の行動を客観的に見るミニワーク を用意しました。
ノートやスマホのメモに、
その日にあった出来事をひとつだけ書き出してみてください。
- 今日、「みんなに合わせたな」と感じた場面は?
- そのとき、本当はどうしたかった?
- その同調は、
- ①自分の将来の役に立つ?
- ②誰かを傷つけていない?
- ③自分一人でも、その行動を選ぶ?
この 3つの質問のうち 2つ以上が「はい」なら、かなり健全な同調 と言えます。
逆に、どれも「うーん…」となるときは、
一度立ち止まって考え直すサインです。
こうして、
- ことば(語彙)
- フレーズ(言い回し)
- セルフチェック(振り返り)
をセットで持っておくと、
同調行動は「なんとなく気持ち悪い謎の力」から、
うまく付き合えば味方になる
「自分の行動を選び直すきっかけ」
に変わっていきます。
この先は、
「もっと体系的に学んでみたい」「本や実際の体験で深めたい」という方のために、
本当に存在する書籍や“体験できる場所” をご紹介していきますね。
11.更に学びたい人へ
――「同調行動」を、自分の言葉で語れるようになるために
「もっとちゃんと勉強してみたい」
そう感じた方に向けて、
レベル別におすすめの本と、“体験できる場所”をご紹介します。
書籍紹介
初学者・小学生にもおすすめ
『まんがでわかる社会心理学』
北村英哉・監修/小日向淳・シナリオ・文/松岡リキ 作画
どんな本?
- 「社会心理学(しゃかいしんりがく)」の基本を、
まんが+わかりやすい解説で楽しく学べる入門書です。 - クラスの雰囲気に流される気持ちや、
「みんなと同じだと安心する」感覚など、
日常の“あるある”から心理学のキーワードに入っていけます。
ここがポイント(特徴):
- 難しい数式や専門用語はほとんど出てこず、
「登場人物のストーリー」を追いながら理解できる構成です。 - 207ページ前後で、厚すぎず “最初の1冊” にちょうど良い分量です。
「同調する私たち」をもっと深く知りたい中級者向け
『私たちは同調する 「自分らしさ」と集団は、いかに影響し合うのか』
ジェイ・ヴァン・バヴェル/ドミニク・J・パッカー・著/渡邊真里 訳
どんな本?
- 「私は私。でも、集団の一員でもある。」
そんな アイデンティティ と 集団 の関係を、
最新の社会心理学の研究をもとに解き明かした本です。 - 目次を見ると
「私たちの力」「現実の共有」「エコーチェンバーからの脱却」など、
現代社会で起きている “分断” や “同調” をテーマにした章が並んでいます。
特徴:
- アメリカの政治や企業文化、ファンコミュニティなど
具体的な事例を通して、
「なぜ人はカルトや極端な集団に惹かれるのか」
「どうすれば健全な“私たち”をつくれるのか」
といった問いを扱っています。 - チャルディーニ(『影響力の武器』著者)やダックワース(『GRIT』著者)など、
行動科学の第一線の研究者も推薦コメントを寄せています。
『子どもたちの行動を決める学級の「空気」――同調圧力のメカニズムと心理的安全性を高める指導』
河村茂雄 著
どんな本?
- タイトル通り、「学級の空気」が
子どもたちの行動や不登校、過剰な“いい子”行動に、
どう影響しているのかを分析した本です。 - 同調圧力が働く学級の状態や、
心理的安全性(こころの安全ゾーン)を高める指導方法が、
教師向けに整理されています。
特徴:
- 学級の「空気」がなぜ生まれ、
どう変えていけるのかを
・不登校
・学級集団のタイプ
・教師の指導行動
などの切り口から、章立てて丁寧に解説しています。
すべての人におすすめの“王道”
『影響力の武器[第三版] なぜ、人は動かされるのか』
ロバート・B・チャルディーニ 著/社会行動研究会 訳
どんな本?
- 「なぜ、欲しくもないものを買わされてしまうのか?」
- 「なぜ、みんなが選んでいるものを正しいと思ってしまうのか?」
といった、
“人が動かされるメカニズム” を、
実験と事例で徹底的に解説した世界的ベストセラーです。
特徴:
- 返報性(へんぽうせい:お返ししたくなる心理)
- コミットメントと一貫性
- 社会的証明(多くの人が支持しているものを正しいと感じる心理)
- 好意、権威、希少性 など
行動が“自動的に”動かされる代表的な原理が、
1章ずつ整理されています。

からだで感じるなら:日本科学未来館の展示
日本科学未来館(東京・お台場)
常設展示「ぼくとみんなとそしてきみ ― 未来をつくりだすちから」
どんな場所?
- 東京・お台場にある科学館「日本科学未来館」の常設展示のひとつです。
- 「生き物としての人間」「脳のはたらき」「人と人との関係」を、
絵本の世界に入り込むような体験型の展示で学べるコーナーです。
特徴:
- 大きな“しかけ絵本”のページをめくりながら、
「人間の脳のしくみ」や「他者とのつながり方」を体感できる構成になっています。 - 脳科学・心理学の研究者が監修した展示で、
子どもから大人まで楽しめるように工夫されています。
おすすめ理由:
- 今日学んだ「同調行動」や「みんなと一緒にいたい気持ち」を、
“本で読む”から“一緒に体験する” へと広げてくれる場所です。 - 家族や友だちと一緒に行き、
展示を見ながら「みんなだったらどうする?」と話してみると、
さらに理解が深まります。
📝 記事で扱った 「同調行動」=“みんなと同じでいたい気持ち” を、
さまざまな角度から確かめていけるラインナップになっています。
ここで終わってもOKですし、
「もっと学びたい」と感じたタイミングで、
気になった1冊・1スポットから、
あなたなりの「次の一歩」を選んでみてください。
12. 疑問が解決した物語
――「みんなと一緒」の中で、自分の気持ちを見つけた日
あの日から少しあと、
ミサキさんは図書室で「心理学」の本をめくっていて、
「自分の本心とは違っていても、周りに合わせてしまう行動を
『同調行動(どうちょうこうどう)』と呼ぶ」という一文を見つけました。
その瞬間、
休み時間に「トイレ行こ〜」と言われて、
行きたくないのに一緒に立ち上がった自分の姿がよみがえります。
「あ、これ…わたしのことだ。」
本には、
「みんなと同じでいたい気持ちは自然なことだけど、
ときどき『自分はどうしたい?』と立ち止まることも大事」
と書かれていました。
次の休み時間。
また友だちが言います。
「トイレ行こ〜」
2人が立ち上がる中、
ミサキさんは一度、自分に問いかけました。
「今、本当にトイレに行きたい?」
「それとも、一人で残るのがこわいだけ?」
少し考えてから、
勇気を出してこう言います。
「私はさっき行ったから、ここで待ってるね。」
一瞬、空気が止まったように感じましたが、
友だちの一人が笑って「そっか、じゃあ終わったらまた話そう」と返してくれました。
そのときミサキさんは、
「みんなと違っても、意外と大丈夫なんだ」
と、小さな安心を胸にしまいます。
家に帰ると、日記にこう書きました。
「同調行動ってことばを知ってから、
ただ流されるんじゃなくて、
一度『本当の気持ち』を聞いてから選べた。
みんなと同じを選ぶのも、自分で選べたら、ちょっとラク。」

それからミサキさんは、
- 前向きなことには、あえてみんなと一緒に乗ってみる
- 「これは違うかも」と思うときは、自分の気持ちも大事にする
そんなふうに、少しずつ 同調行動と上手に付き合う練習 をはじめました。
では、今この記事を読んでいるあなたはどうでしょうか。
・今日一日を振り返ったとき、
「あ、ここでみんなに合わせてたな」と思う場面はありますか?
・そのとき、本当はどんな気持ちを持っていたでしょうか?
次に同じような場面がきたとき、
「みんなと同じ」も「自分の気持ち」も、
どちらも自分で選べるようになっていたらいいな──
そんなことを、少しだけ考えてみてください。
それが、あなた自身の「疑問が解決した物語」の第一歩になるかもしれません。
13.文章の締めとして
ここまで読み進めてくださったあなたは、
きっと一度は「みんなと同じでいなきゃ」と感じて、
それでもどこかで「これでいいのかな」と
自分に問いかけたことがある方だと思います。
同調行動という言葉を知る前、
私たちはただ「なんとなく」「そういう空気だから」としか
説明できなかったモヤモヤを抱えがちです。
でも、名前を知り、しくみを知り、
良さと危うさの両方を理解した今のあなたは、
もう “ただ流されるだけの自分” ではありません。
これからは、
みんなと同じ行動を選ぶときも、
あえて違う行動を選ぶときも、
「これは、私が“わかっていて選んだ” 同調なんだろうか」
と、そっと自分に問いかけることができます。
その一瞬の問いかけが、
心のどこかで、あなた自身を守ってくれるはずです。
同調行動は、敵ではありません。
ただ、向き合い方を知らなかっただけの、
とても人間らしい “こころのクセ” です。
今日の記事が、
あなたと同調行動との距離を、
ほんの少しでも「ちょうどいい場所」に
動かすきっかけになっていたら、とてもうれしく思います。
補足注意
この記事の内容は、個人で調べられる範囲で、
心理学・行動経済学の辞典や信用できるWeb、解説
など、信頼性の高い情報源をもとに、
筆者なりに噛み砕いて整理したもの です。
ただし、
ここで紹介した説明や例が
「唯一絶対の正解」というわけではありません
同調行動・ハーディング現象・脳科学の理解は、
今も研究が進んでいる途中です
新しい研究や、別の専門家の視点によって、
今後説明がアップデートされる可能性も十分にあります。
🧭 本記事のスタンス
このブログ記事は、
「これが唯一の正解です」と言い切るためのものではなく、
「読者の方が自分なりに興味を持ち、
さらに調べていくための“入り口”」
として書かれています。
このブログで「同調行動」に心がふれたなら、そこで同調して終わらず、その興味に行動を同調させて、文献や資料の深みへと、あなた自身の一歩で踏みこんでみてください。

最後まで読んでいただき、
本当にありがとうございました。
どうかこれからは、「自分で選びとる同調行動」を、あなたらしい一歩として育てていってください。

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