夢をあきらめるか悩むあなたへ──成功者の影にいる“見えない人たち”から学ぶ『生存者バイアス』
「あの人みたいに歌手になれるはず」と思い込みやすい理由『生存者バイアス』を分かりやすく解説

代表例
あなたのクラスに、プロサッカー選手を目指している友だちがいるとします。
その友だちは、こう言います。
「だって、プロになった選手たちもみんな最初は普通の子どもだったんでしょ。
なら、オレにもチャンスはあるはずだよ!」
テレビをつければスター選手が試合で活躍し、
ニュースでは「無名だった選手が一気にブレイク!」と紹介されます。
それを見ていると、
「本気で頑張れば、自分だって…!」
と感じるのは、とても自然なことですよね。
でも、その一方で、大人たちはこう言います。
「プロになれるのは、ほんの一握りだよ。」
「ケガをしたらどうするの?」
この“温度差”の裏側にあるのが、
今回のキーワード『生存者バイアス』です。
3秒で分かる結論
生存者バイアスとは?
→ 成功して“生き残った人”だけを見て、
その何倍もいる「見えない失敗」を忘れてしまう思い込みのことです。
小学生にもスッキリわかるミニ解説
もう少しだけ、やさしく言いかえると…。
「うまくいった人の話だけを聞いて、
そのかげにいる、たくさんの“うまくいかなかった人”を
いないもののように思ってしまう」
という“心のクセ”です。
たとえば、
- 「有名歌手になった人は、みんな努力している」
→ だから「自分も同じように努力すれば、きっと有名になれるはず」と思い込む - でも実際には、努力しても売れなかった人が山ほどいる
- その人たちはテレビにもネットにも出てこないから、
「存在しないかのように」感じてしまう
これが、生存者バイアスの基本イメージです。
キャッチフレーズ風「よくある疑問」
ここからは、今回の法則=生存者バイアスに対して
多くの人が感じがちな疑問を、キャッチコピー風に並べてみます。
- 「成功した人だけ見てしまうのはなぜ? 生存者バイアスとは?」
- 「『あの人と同じことをすれば成功できる』は、どうして危険なの?」
- 「『夢を叶えた人の話』って、どうしてこんなに説得力があるの?」
- 「失敗した人たちの声が聞こえてこないのは、なぜなんだろう?」
1. 今回の現象とは?
「そんなうまくいくわけないよ」と言われるあの瞬間
このようなことはありませんか?
あるある① 歌手・YouTuber編
- 好きな歌を毎日投稿している
- 再生回数やフォロワーが少しずつ増えてきた
- 「このまま頑張れば、いつか有名になれる気がする!」
でも、親や家族に夢を話すと…
「そんなの、ほんの一部しか食べていけないよ。」
「趣味ならいいけど、仕事にはしない方がいい。」
あるある② 起業・フリーランス編
- SNSで「脱サラして月〇〇万円!」という投稿をよく見る
- 有名ブロガーやインフルエンサーの成功ストーリーを読みあさる
- 「やっぱり会社員のままはもったいないかも」と感じ始める
でも、上司や親に相談すると…
「独立なんて、失敗したらどうするの?」
「世の中、そんなに甘くない。」
あるある③ 受験・勉強編
- ネットで「この勉強法で一発合格!」という体験記を見つける
- 「じゃあ自分も同じノートの取り方、同じ参考書でいこう」と決める
でも、塾の先生や親は…
「人によって向いている勉強法は違うよ。」
「そのやり方だけを信じすぎるのは危ないかも。」

なにが“ふしぎ”なのか?
どのパターンにも共通しているのは、
- 自分は「成功した人」の姿を強くイメージしている
- 周りの大人は、「失敗したたくさんの人」を心配している
という“視界のズレ”です。
「どうして自分と家族で、こんなに見えている世界が違うんだろう?」
「成功した人が実際にいるのに、どうして“やめとけ”と言われるの?」
この「ナンデ?」という気持ちこそ、
生存者バイアスを理解する入口になります。
この記事を読み進めることで、
- 成功者だけを見てしまう“心のクセ”の正体が分かります
- 夢をあきらめるかどうか、ではなく
**「どうやって賢く挑戦するか」**を考えられるようになります - 歌手・YouTuber・起業・受験・投資など、
**どの分野にも使える“考え方の武器”**が手に入ります
「なんとなく不安」「でも、やってみたい」を
言葉にして整理できるようになるはずです。
次の章では、この“モヤモヤ”が
物語のかたちでどう現れるのか、一緒にのぞいてみましょう。
2. 疑問が浮かんだ物語
高校2年生のミナさんは、歌うことが大好きです。
放課後は軽音部のスタジオで練習し、
家に帰ってからも、スマホで録音しては
「歌ってみた」をSNSにアップしています。
最近は、知らない人からもコメントがつくようになりました。
「声がきれい!」
「この曲、もっと聴きたい!」
画面の向こうの反応に、胸が高鳴ります。
「いつか、ライブハウスで自分のワンマンライブができたら…」
「いや、できれば有名な歌手としてやっていきたい…!」
そう思い始めたミナさんは、ある晩、夕食のあとで
思い切って家族に話を切り出します。
「私、将来は歌手になりたい。
音楽の専門学校とかも、真剣に考えてる。」
部屋の空気が、少しだけ止まったような気がしました。
最初に口を開いたのは、お父さんです。
「歌手って…食べていける人なんて、ほんの一握りだぞ。」
お母さんも続けます。
「テレビに出ている人だって、いつ売れなくなるか分からないんだよ。」
「せめて、普通の大学に行ってから考えたら?」
ミナさんの胸の中で、
小さな声がぽつりとつぶやきます。
「どうして、そんなこと言うんだろう…?」
「だって、実際に歌手になってる人もいるのに。」
「私だって、本気で頑張れば近づけるかもしれないのに。」
ミナさんの頭には、
オーディション番組で一気に有名になった人たちの姿が
いくつも浮かんでいます。
「最初はただの高校生だったんです」
「周りには反対されたけど、夢をあきらめませんでした」
そんなインタビューの言葉が、
何度も何度も思い出されます。

一方で、家族の頭の中には、
「名前も知られていないたくさんの歌い手」や
「途中で音楽をあきらめて別の仕事をしている人たち」の姿が
ぼんやりと浮かんでいるのかもしれません。
ミナさんは、心の中でつぶやきます。
「どうして、こんなに見えている世界が違うんだろう。」
「どうして、私は“いけるかも”って思うのに、
家族は“厳しすぎる”って言うんだろう。」
「この気持ちのズレの“正体”を、ちゃんと言葉にできたらいいのに。」
不思議だな。
なんでだろう。
謎だな…。
この「気持ちの正体」を知りたいという
ミナさんの小さな願いが、
次の章への扉を開いていきます。
次は、このモヤモヤに名前をつける「すぐに分かる結論」へ進みましょう。
3. すぐに分かる結論
お答えします――この現象には名前があります
この現象には、
『生存者バイアス(せいぞんしゃバイアス)
(Survivorship bias/サバイバーシップ・バイアス)』
という名前がついています。
生存者バイアスとは、
“選ばれて生き残った少数の成功例”だけを見て判断してしまい、
途中で脱落した多数の失敗例が見えなくなってしまう心のクセ
のことです。

1・2章の疑問への、カンタンな答え
Q. どうして、成功した人だけを見てしまうの?
→ テレビやSNS、本やニュースに出てくるのは、
ほとんどが「うまくいった人」だからです。
途中でやめた人、失敗した人は表に出にくく、
私たちの目に入りません。
Q. どうして、家族と自分とで見えている世界が違うの?
→ あなたは「成功した歌手」の姿を中心に見ています。
一方で家族は、「生活が苦しくなった人」「夢を途中であきらめた人」など、
“見えていないはずの人”を想像しながら心配しています。
つまり、
- あなたの頭の中: 成功した「生存者」のイメージ
- 家族の頭の中: 見えない「脱落者」も含めた全体のイメージ
この違いが、「どうして分かってくれないの?」というズレを生んでいるのです。
生存者バイアスは、
心理学では※ 認知バイアス(考え方のクセ) の一種、
統計的には ※選択バイアス(サンプルの偏り) の一種として
説明されています。
用語説明ブロック
認知バイアスとは?
私たちの「ものの見方」「考え方」に生じる“クセ”や“ゆがみ”のことです。
本当はもっとたくさん情報があるのに、脳が近道をしようとして一部だけを重く見てしまったり、思い込みで判断してしまう現象をまとめてこう呼びます。
選択バイアスとは?
集めたデータの「選ばれ方」に偏りがあるせいで、結果がゆがんでしまうことです。
たとえば「健康な人だけが参加したアンケート」を「全員のデータ」と思い込むと、実際より“みんな健康そう”に見えてしまうようなケースが典型例です。
…と書くと少し難しそうですが、
イメージとしては、
「見える世界」だけを信じてしまい、
「見えない世界」を想像しそこねるクセ
くらいに覚えておくと、すっと馴染みます。
もっと知りたくなったあなたへ
「なるほど、“生存者バイアス”って、そういうことか。」
「でも、もっとちゃんと知った上で、
自分の進路や夢の決め方に活かしたい。」
そう思った方へ向けて、
この先の章では
- 生存者バイアスの、もう少し本格的な定義
- 戦闘機の例や事故の例など、教科書にも出てくる代表的な事例
- 日常での応用方法や、誤解しやすいポイント
を、ゆっくり・ていねいに深掘りしていきます。
「言葉の意味」だけで終わらせず、
自分の人生に使える知識として、一緒に学んでいきましょう。
このあと
さらに一段深い世界を一緒に見ていきます。
4. 『生存者バイアス』とは?
ていねいな定義
あらためて、生存者バイアスを
「専門的にはどう説明するのか」を見てみましょう。
心理学や統計学では、生存者バイアスはこんなふうに説明されています。
ある選抜のふるいを通って「生き残ったもの」だけを見てしまい、
途中で脱落したものを見落として、まちがった結論を出してしまう論理的なエラー
統計学的には「サンプリングバイアス(標本の偏り)」の一種であり、
心理学的には「認知バイアス(考え方のクセ)」の一つとされています。
ビジネスの世界では、倒産して消えた会社をデータから外してしまい、
「残った会社だけ」を見て「自分も同じようにやればうまくいくはずだ」と
楽観的すぎる判断をしてしまう例がよく紹介されています。
歌手・スポーツ選手・起業家・投資家…
どの世界でも「生き残った人だけが目立つ」ため、
このバイアスはいつも私たちの足元に潜んでいます。

名前の意味を分解してみる
survivorship bias(サバイバーシップ・バイアス) を分解すると、
- survivorship … survival(サバイバル:生き残る)の名詞形、「生存・生き残り」
- bias … バイアス、「かたより」「ゆがみ」「思い込み」
つまり直訳すると、
「生き残ったものだけを見て起こる“かたより”」
というイメージになります。
「生存者バイアス」という日本語は、
この英語をそのまま分かりやすく訳したものです。
歴史と由来
爆撃機と数学者アブラハム・ウォルド
生存者バイアスを語るとき、
ほぼ必ず出てくるのが第二次世界大戦中の爆撃機の話です。
当時、アメリカ軍は
「どの部分に装甲(そうこう)を増やせば、
爆撃機の生存率を上げられるだろう?」
という問題をかかえていました。
最初、軍の担当者たちは
「帰還した爆撃機の弾痕(だんこん=弾のあとの穴)が多い部分ほど、
よく撃たれているのだから、そこを厚く守ろう」と考えます。
ところが、統計学者の**アブラハム・ウォルド(Abraham Wald)**が
まったく逆の結論を出しました。
ウォルドはこう考えたのです。
- 弾痕がたくさんあっても帰ってこられた部分は、
被弾しても「致命傷ではない場所」- ほんとうに危ないのは、弾痕が少ない場所
(そこに当たった爆撃機は、そもそも帰ってこられていない)
だからこそ、
「弾痕が少ない部分にこそ装甲を増やすべきだ」
と提案しました。
この発想は、
「帰ってきた機体(生存者)しか見えていない」という落とし穴に
正面から立ち向かった例として、いまでも教科書に載るほど有名です。
なお、「生存者バイアス」という言葉そのものを
厳密に「だれが最初に使ったか」は、
学術的にハッキリとは分かっていません。
ドイツ語版の百科事典などでは、
第二次世界大戦中の米海軍技術者やウォルドの研究が、
この概念の出発点として紹介されているにとどまります。
一部のブログでは「ウォルドがこの言葉を作った」と書かれていますが、
信頼性の高い学術情報ではそこまで断定されていないため、
ここでは
「生存者バイアス」という考え方を
有名にした代表的な事例が、ウォルドの爆撃機の分析
という形で紹介しておくのが、もっとも正確だと考えられます。
さらに昔のルーツ:沈没した船の話
じつは、生き残った者だけを見る危険性は
古代ギリシャの時代から指摘されていました。
哲学者ディアゴラス(Diagoras)が、
「船の難破から生き延びた人たちの絵」を見せられたとき、
こう答えたという有名なエピソードがあります。
「ここには“助からなかった人たち”の絵はないだろう?」
つまり、
「無事に助かった人だけを見て、
神様の力を信じるのはおかしい」
と皮肉ったわけです。
この話は、
生存者バイアスの古典的な先取りだとも言われています。
現代での使われ方
現代では、生存者バイアスは
- ビジネス(成功した会社だけを見る)
- 投資(生き残ったファンドだけで成績を評価する)
- キャリア(有名起業家・スポーツ選手だけを参考にする)
- 芸術・エンタメ(売れたアーティストだけが可視化される)
など、さまざまな場面で議論されています。
とくにネット時代のいまは、
「成功した少数」の声が圧倒的に大きくなりやすいため、
生存者バイアスの影響もいっそう強くなっています。
では、なぜここまで
生存者バイアスが大事だと言われるのでしょうか?
その背景を、次の章で見ていきます。
5. なぜ注目されるのか?
背景・重要性
成功ストーリーにあふれた時代だから
SNS・YouTube・ネットニュース・自己啓発本…。
今の時代、私たちが毎日目にするのは
「うまくいった人」の話がほとんどです。
たとえば、ある調査では
ソーシャルメディア上のアーティストのうち、
ごく一部(1%前後)だけが「メインストリーム」や「大きな人気」を得ており、
残りの大多数はあまり知られていないままだ
という結果も報告されています。
しかし、
私たちのタイムラインに流れてくるのは
「売れた人」や「バズった人」の情報がほとんどです。
そのため、頭の中のイメージが
「成功するのが普通」
「失敗する人は、よほど努力していないのだろう」
と、こっそり書き換えられてしまうのです。

認知バイアス&選択バイアスとしての位置づけ
生存者バイアスは、
- 認知バイアス
… 考え方のクセ。脳の“近道思考”が原因で起こるゆがみ - 選択バイアス
… 集めたデータの“選び方”が偏っているために起こるズレ
という2つの側面をあわせ持っています。
私たちは、毎回じっくり計算して判断しているわけではありません。
「目に入りやすいもの」
「覚えやすいストーリー」
「感情が動く成功談」
こうしたものに、自然と引き寄せられてしまう仕組みが
脳のなかにもともと備わっているからです。
脳と神経から見た「生存者バイアス」
生存者バイアスだけをピンポイントで扱った脳科学研究は
まだ多くありませんが、
認知バイアス全体の神経メカニズムから、
かなりの部分を推測することができます。
ポイントになる脳の仕組みを、やさしく整理してみます。
① 扁桃体(へんとうたい:amygdala)
扁桃体は、脳の深い部分にある
**「感情のセンサー・警報装置」**のような役割をもつ場所です。
- 強い感情をともなう映像・ストーリー
- 自分にとって重要そうな情報
に対してよく反応します。
最近の研究では、
扁桃体の活動が高まると
「外の世界を少しネガティブ寄り・ポジティブ寄りに評価してしまう」
といった、偏った判断につながることが示されています。
成功ストーリーは、希望・ワクワク・うらやましさなど
強い感情を引き起こしやすいため、
扁桃体が強く反応し、
「その情報ばかりが記憶に残る」きっかけになりえます。
② 前頭前野(ぜんとうぜんや:prefrontal cortex)と
内側前頭前野(ないそくぜんとうぜんや:vmPFC)
おでこの裏側あたりにある脳の領域が
**前頭前野(ぜんとうぜんや)**です。
ここは
- 計画を立てる
- 論理的に考える
- 衝動をおさえる
といった「じっくり考える力」を支えています。
その中でも、内側に位置する
**内側前頭前野(vmPFC)**は、
- 「どの選択肢にどれくらい価値(メリット)があるか」
- 「自分にとってどれが“いい未来”か」
といった価値づけに関わることが分かっています。
楽観的すぎる見通し(オプティミズム・バイアス)とも関連しており、
将来のポジティブな出来事を過大評価するときに
vmPFCや報酬系(ほうしゅうけい)の活動が高まる、
という報告もあります。
「自分もあの成功者みたいになれるはず」
という“明るい見通し”を強く信じるとき、
こうした脳のネットワークが
かなり働いていると考えられます。
③ 線条体(せんじょうたい:striatum)などの報酬系
線条体は、
「うれしい」「得した」「ごほうびだ」
という感覚と深く関わる場所です。
- 成功ストーリーを聞く
- 自分が成功した場面を想像する
といったとき、
報酬系のネットワークが活性化すると、
ポジティブな結果ばかりを追いかけやすくなると考えられています。
④ 「早い思考」と「遅い思考」
さらに、認知バイアス全般を説明する
神経ネットワークのモデルでは、
- 素早く直感的に判断する「タイプ1(早い思考)」
- ゆっくり論理的に考える「タイプ2(遅い思考)」
という二つのモードの切り替えが重視されています。
人間の脳は、省エネのために
ふだんは「早い思考」に頼りがちです。
その結果、
「派手な成功ストーリー」「目立つ生存者」だけを見て
深く考えずに判断してしまうことが、
生存者バイアスを生みやすくしていると考えられます。
生存者バイアス専用の“特別な脳の部位”があるわけではなく、
感情・価値づけ・ごほうび・省エネ思考といった
いくつもの仕組みが重なり合うことで
「成功者だけを見てしまう」心のクセが生まれている――
というイメージで捉えていただくと良いと思います。
次の章では、
こうした「心と脳のクセ」を、
ふだんの生活でどう役立てればいいのかを
具体的に見ていきましょう。
6. 実生活への応用例
生存者バイアスを「武器」として使う
生存者バイアスは、
ただ「危ないから気をつけましょう」というだけの話ではありません。
気づいてうまく扱えば、
自分を守りつつ、夢に近づくための武器にもなります。
ここでは、
- 進路や夢の選び方
- 起業・お金・キャリア
- 健康や安全
という3つの場面に分けて見ていきます。
進路や夢選びに活かす
STEP1:成功ストーリーに「見えない人数」を足してみる
たとえば「歌手になって食べていく」ことを考えるとき、
「有名になった人の数」と
「同じくらい努力したけれど、表には出てこなかった人の数」
の両方をできるだけ冷静にイメージすることが大切です。
完璧な数字を知るのは難しいですが、
- オーディションの合格率
- 音楽事務所が公開している応募人数
- 統計データ(例:音楽業界の就業人口など)
を調べてみると、
**「思っていた以上に狭き門なんだな」**という客観的な感覚を
少しずつ持てるようになります。
STEP2:成功者だけでなく、「途中でやめた人」の話も聞いてみる
もし可能なら、
- 専門学校には行ったけれど、別の仕事をしている先輩
- 音楽活動をしていたが、方向転換した人
の話も、意識的に集めてみてください。
そこには、
- 現実的なお金の話
- 生活リズムや人間関係の話
- 「こうしておけばよかった」という後悔や工夫
など、成功ストーリーには出てこない
生きた情報がたくさん含まれています。
STEP3:それでもやりたい? を自分に問いかける
生存者バイアスを意識して情報を集めたうえで、
「それでも、私はやっぱりやりたいか?」
と、あらためて自分に聞いてみます。
この問いに対して
- 「それでもやりたい」と思えるなら → 覚悟のあるチャレンジ
- 「そこまでではないかも」と思うなら →
「趣味+別の仕事」など、バランスのよい選択肢も見えてきます
こうして、
夢をあきらめるか・あきらめないかではなく、
**「どんな形で夢と付き合うか」**を選べるようになります。
起業・投資・キャリア選びでの応用
起業や投資の世界でも、生存者バイアスはとても強く働きます。
- 売れた会社の事例集だけ読む
- 「脱サラして月◯◯万円!」という広告だけを見る
と、成功者の姿だけが拡大され、
「自分も同じようにやればいけるはず」という錯覚が生まれがちです。
ここでもポイントは、
- 失敗例に意識的に触れる
- 母数(ぼすう:何人中の何人か)を意識する
- 最悪のケースを想像したうえで、リスクの取り方を決める
という3つです。
たとえば投資なら、
- 成功した人だけのブログではなく、
「失敗談」「破産した例」をまとめた本や記事も読む - どのくらいの人が長期的には市場平均を上回れていないか
というデータに目を通す
といった形で、
「生き残った少数」だけを見ないように意識してみてください。
健康・安全・災害リスクへの応用
生存者バイアスは、
健康や安全に関する判断にも影響します。
- 「あの人はヘビースモーカーでも90歳まで生きたから、
タバコはそんなに害じゃないよ」 - 「昔からこの川は氾濫したことがないから、今回も大丈夫だろう」
こうした考え方は、
「たまたま大きな事故が起きなかった例」だけを見ている
可能性があります。
医療・公衆衛生の分野では、
失敗例や悲しい結果も含めてデータを集めることで、
客観的なリスクを見積もる努力が続けられています。
個人レベルでも、
- 「たまたま助かった人」だけでなく
- 統計データや専門家のガイドライン
を見る習慣をつけておくと、
より安全な選択肢を取りやすくなります。

メリットとデメリット
メリット
- 成功率やリスクを、より現実的に見積もれる
- 感情に流されすぎず、「覚悟」を持った挑戦ができる
- 他人の成功談に振り回されにくくなる
デメリット(注意点)
- 失敗例ばかりを見すぎると、
逆に「何もチャレンジできなくなる」危険もある - 正確なデータが手に入りにくい分野では、
どこまで考えれば十分なのか線引きが難しい
この「バランスの取り方」については、
次の章でくわしく見ていきます。
7. 注意点や誤解されがちな点
「夢を見るな」という話ではない
まず一番大事なのは、
生存者バイアスを知ること = 夢をあきらめろ、ではない
という点です。
生存者バイアスは、
- 「現実をちゃんと見たうえで、どう挑戦するか」
を考えるためのレンズ(道具)
であって、
夢を消し去るための消しゴムではありません。
失敗例ばかりを見る「悲観バイアス」に注意
生存者バイアスを意識しすぎると、
今度は逆に
「どうせ自分も失敗するに決まっている」
という悲観的なバイアスに
ハマってしまうこともあります。
人間の脳には、
危険や悪い情報に反応しやすい
ネガティビティ・バイアス(悪い情報に引きずられるクセ)
もあることが分かっています。
- 成功例だけを見る → 過度な楽観
- 失敗例だけを見る → 過度な悲観
どちらも極端です。
大切なのは、
「成功した人も、失敗した人も、
どちらも同じ“人間のデータ”として並べてみる」
という姿勢です。
「全部生存者バイアスだ」と切り捨てない
もうひとつの誤解は、
「成功談なんて、生存者バイアスだから全部あてにならない」
と考えてしまうことです。
成功例には成功例なりの価値があります。
- 「何がうまく機能したのか」
- 「どんな共通点があったのか」
をていねいに観察すれば、
自分の行動を工夫するヒントがたくさん見つかります。
そのうえで、
「同じ条件で失敗した人は、
どんなところでつまずいたのだろう?」
と両側から見ることが、
いちばんバランスの良い向き合い方です。

ここまでで、生存者バイアスの
「使い方」と「注意点」が見えてきました。次は、もう少し肩の力を抜いて楽しめる
おまけコラムとして、
ちょっと変わった例や関連する考え方を見てみましょう。
8. おまけコラム
「見えていない人たち」を想像する小さな練習
古代ギリシャの「沈没した船」の話
先ほど少し触れたディアゴラスのエピソードは、
生存者バイアスをイメージするときの
とても良い「心のワーク」になります。
- 助かった人たちの絵 → 「見えるデータ」
- 沈没してしまった人たち → 「見えないデータ」
この2つをいつもセットで想像する習慣は、
どんなジャンルにも応用できます。
「サイレント・エビデンス」という考え方
統計家であり作家でもあるナシーム・ニコラス・タレブは、
『ブラック・スワン』という本の中で
生存者バイアスからこぼれ落ちる情報を
**「サイレント・エビデンス(声なき証拠)」**と呼びました。
- 破産して二度と表に出てこない会社
- 出版されなかった原稿
- 記録にも残らず静かに終わっていった挑戦
こうした「沈黙している証拠」まで想像に入れることで、
私たちの判断はようやく現実に近づいていきます。
高いビルから落ちた猫の研究?
少し変わった例として
「高いビルから落ちた猫」の研究が
生存者バイアスの例として紹介されることがあります。
ある獣医の報告では、
- それほど高くない階から落ちた猫のほうが
けがが重いように見える
という不思議な結果が出ていました。
しかし別の見方をすると、
- 本当に致命的な高さから落ちた猫は
病院まで運ばれて来ない(データに入ってこない)
という生存者バイアスの可能性があります。

真相はさておき、
「データに出てこない存在」を想像するきっかけとしては
とても面白いエピソードです。
では最後に、
今回の内容をまとめていきましょう。
そのうえで、興味が続いた方のために
応用編 → さらに学びたい人へと
進める道もご用意します。
9. まとめ・考察
この記事のまとめ
ここまでのポイントを、あらためて整理します。
- 生存者バイアスとは
「生き残った少数の成功例だけを見て判断してしまう心のクセ」 - 成功者の裏には、
「見えていないたくさんの失敗例」が必ず存在する - このバイアスを意識すると、
夢をあきらめるかではなく
**「どうやって賢く挑戦するか」**を考えられる - 脳は、感情やごほうび、近道思考のしくみによって
派手な成功ストーリーに引き寄せられやすい - 失敗例ばかりを見る悲観バイアスにも注意が必要で、
成功と失敗の両方を「データ」として見る視点が大切

あなたなら、この効果をどう活かしますか?
「あなたなら、この“生存者バイアス”を
自分のどんな場面に当てはめて考えてみますか?」
- これからの進路や転職
- 副業や起業
- 恋愛・結婚・子育て
- 投資やお金の勉強
どんな場面でもかまいません。
「成功者だけを見ていないか?」
「見えていない失敗の声はないか?」
と一度立ち止まることができたら、
それだけで、あなたの判断は
かなり「現実寄り」にアップデートされているはずです。
9.5.Q&A

『生存者バイアス』についてよくある質問
Q1. 生存者バイアスを一言でいうと、どんな意味ですか?
A.
生存者バイアスとは、
「うまくいった一部だけを見て、全体を分かった気になってしまう心のクセ」です。
成功者のストーリーばかりを見て、
同じくらい努力しても表に出てこなかった人たちを、
ほとんど想像しなくなってしまうときに起こります。
Q2. 生存者バイアスの具体例を、もう少し知りたいです。
A.
よくある例としては、次のようなものがあります。
「有名歌手になった人はみんな努力している → 自分も努力すれば必ずなれるはず」
「脱サラして成功した起業家の記事だけ読んで、自分も会社を辞めればうまくいくと思う」
「この勉強法で合格しました!」という人の体験談だけを信じて、他の失敗データを無視する
どの場合も、「成功した人の裏にいるたくさんの人」が見えなくなっているのがポイントです。
Q3. 生存者バイアスと、選択バイアスってどう違うのですか?
A.
両方とも「かたより」ですが、視点が少し違います。
選択バイアス(せんたくバイアス)は、
「集めたデータの選び方がそもそも偏っている」こと。
生存者バイアスは、
「その中でも“生き残ったものだけ”を見て判断してしまうクセ」です。
生存者バイアスは、選択バイアスの一種だと説明されることも多いです。
Q4. 生存者バイアスは、脳の中でどんなしくみで起こるのですか?
A.
生存者バイアスだけに特化した“専用の脳の場所”があるわけではありません。
研究から分かっているのは、
感情を強くゆさぶる情報に反応する 扁桃体(へんとうたい)
「どの選択肢に価値があるか」を評価する 前頭前野・内側前頭前野(vmPFC)
ごほうびに関係する 線条体(せんじょうたい)などの報酬系
といったネットワークが一緒に働くことで、
「派手な成功例」にばかり注意が向きやすくなると考えられています。
Q5. 生存者バイアスを知ると、逆に夢を追うのが怖くなりませんか?
A.
たしかに「失敗した人もたくさんいる」と知ると、
少し怖く感じるかもしれません。
でも、生存者バイアスは
「夢をあきらめろ」ではなく「現実を知ったうえでどう挑戦するか考えよう」
というための考え方です。
成功例だけでなく、失敗例や現場の声も聞く
それでもやりたいか、自分に問い直す
どんな形でチャレンジするか(本業か、副業か、趣味か)を自分で選ぶ
こうしたステップを踏むことで、
むしろ「後悔しにくい挑戦」がしやすくなります。
Q6. 生存者バイアスに気づくためのチェックポイントはありますか?
A.
おすすめのセルフチェックは、次の3つです。
「この話は、成功した人だけのストーリーになっていないか?」
「同じように頑張って失敗した人の情報は、まったく見ていないのでは?」
「“何人中の何人”の話なのか(母数)は意識できているか?」
どれか一つでも「たしかに…」と思ったら、
生存者バイアスがかかっているサインかもしれません。
Q7. 投資やビジネスでも、生存者バイアスは関係ありますか?
A.
はい、むしろ投資・起業の世界では
生存者バイアスはとても強く働きます。
成功した投資家の本だけ読む
「脱サラして月◯◯万円!」という広告だけを見る
と、「自分も同じようにすれば大丈夫」と思い込みやすくなります。
実際には、途中で撤退・倒産した会社や、
損失を出した投資家もたくさんいます。
成功例と同じくらい、失敗例のデータや統計にも目を通すことが大切です。
Q8. 子どもに生存者バイアスを説明するとき、どう言えば伝わりますか?
A.
小学生くらいの子には、こんな例え方がおすすめです。
「ゲームで、たまたまクリアできた友だちの話だけ聞いて
『このゲーム、かんたんだよ』って思いこんじゃうことがあるよね。
でも、本当はその裏で何回も負けてる子もいるし、
クリアできてない子もたくさんいる。
それを忘れちゃうクセのことを、生存者バイアスって言うんだよ。」
自分の身近なゲームやスポーツ、テストの例と結びつけると、
ぐっと理解しやすくなります。
ここまで読んでくださった方には、
すでに生存者バイアスの“基本のキ”は
しっかり身についていると思います。この先は、興味の深さに合わせて
10. 応用編 → 11. さらに学びたい人へ
と進めるようになっています。「自分の言葉で語れるくらい身につけたい」と思った方は、
ぜひ次の応用編ものぞいてみてください。
10. 応用編
日常の会話で「生存者バイアス」を使いこなす
ここからは、
生存者バイアスという言葉を
「読んで分かる」から「話して使える」レベルへ
引き上げるためのコーナーです。
言いかえフレーズをストックする
生存者バイアスというカタカナ語を
そのまま使わなくても、
- 「成功者だけを見て判断してしまうクセ」
- 「生き残った少数だけを見て、全体を見たつもりになる錯覚」
- 「見えない失敗のほうを、なかったことにしてしまう考え方」
といった“説明フレーズ”を
自分なりにいくつか持っておくと便利です。
たとえば会話の中で、
「この本、成功した人の話だけだから、
ちょっと生存者バイアス強めかもね。」
「SNSって、売れた人の投稿しか目に入らないから、
生存者バイアスがかかりやすいメディアだよね。」
と、一言そえるだけでも、
会話の質がぐっと変わります。
「今日のニュース」から探してみる
おすすめの練習として、
「今日見たニュースの中から、生存者バイアスっぽいものを探す」
という遊びがあります。
- 「この起業成功ストーリー、失敗した会社の話は出てこないな」
- 「この健康法の記事、たまたまうまくいった人だけ紹介してない?」
といった視点で眺めるだけで、
「あ、この情報は“生存者だけ”の話かもしれない」
と気づけるようになります。
気づいたらメモアプリなどに
一行だけ残しておくと、
後から見返したときに
自分の成長が分かって楽しいですよ。
自分の過去にも当てはめてみる
さらに一歩進んで、
自分の過去の選択を
生存者バイアスの視点で振り返ってみましょう。
- 「あのとき選んだ塾・教材・勉強法」
- 「挑戦しなかったこと」
- 「どうしてもあこがれていた職業」
などについて、
「あのときの自分は、何を見て、何を見えていなかったんだろう?」
と問いかけてみると、
**「今後、同じワナにハマらないためのヒント」**が見えてきます。

ここまでくれば、
生存者バイアスはもう
“テストに出る用語”ではなく、
あなたの思考を守るための道具になっています。「もっと体系的に学んでみたい」
「本や実際の場所でも触れてみたい」
という方は、次の
11. さらに学びたい人へへどうぞ。
11. さらに学びたい人へ
書籍のご紹介
初学者・小学生にもおすすめ
こどもバイアス事典 「思い込み」「決めつけ」「先入観」に気づける本
- 監修:犬飼佳吾 ほか
- 特徴:
- カラー図版・ふりがな付きで、とても読みやすい
- 認知バイアスを「思い込み」「決めつけ」として、身近な例で解説
- 生存者バイアスそのものも含め、いろいろな“心のクセ”に気づける構成
出版社の案内でも、
「バイアス=思い込み・決めつけ・先入観」に気づく本として紹介されており、
はじめて認知バイアスにふれる人にぴったりの一冊です。
中級者向け:データや仕事に活かしたい人へ
データ分析に必須の知識・考え方 認知バイアス入門 分析の全工程に発生するバイアス その背景・対処法まで完全網羅
- 著者:山田典一
- 特徴:
- データ分析の全工程に潜む認知バイアスを網羅的に解説
- 選択バイアス・生存者バイアスといった統計上の偏りも扱う
- それぞれのバイアスへの具体的な対処法までカバー
データ分析やマーケティング、ビジネスにかかわる方には、
生存者バイアスを**「現場レベルでどう防ぐか」**を考えるのに
とても役立つ内容になっています。
大人全般におすすめ:人生の悩みと認知心理学
人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学 (日経プレミアシリーズ)
- 著者:今井むつみ
- 特徴:
- 「悩み」「迷い」と認知心理学を結びつけて解説
- 難しい式よりも、読み物としてのストーリーが中心
- バイアスが、私たちの日常判断にどう影響しているかが分かる
生存者バイアスだけでなく、
「人間はなぜ、しばしば非合理な選択をしてしまうのか」という
もっと大きな問いに触れたい方へ
おすすめの一冊です。

“縁の地”・体験スポット
航空自衛隊 浜松広報館(エアーパーク)
- 場所:静岡県浜松市
- 特徴:
- 航空自衛隊の航空機を展示する広報館
- 零式艦上戦闘機(ゼロ戦)を含む機体の展示やシアターがある
- 入館無料(※最新情報は公式サイトでご確認ください)
第二次世界大戦の航空機の歴史や、
「どのようにして生存率を高めるか」という発想を
実際の機体を見ながら感じられる場所です。
靖国神社 遊就館(ゆうしゅうかん)
- 場所:東京都千代田区
- 特徴:
- 戦争に関する資料や遺品を展示する博物館
- 玄関ホールには、零式艦上戦闘機五二型の実物展示がある
爆撃機・戦闘機の歴史を通して、
「生存者だけを見て歴史を語ること」の危うさについても
考えさせられる場所です。
※歴史認識にはさまざまな立場があります。
訪れる際は、展示を一つの資料として冷静に受け止める姿勢が大切だと思います。
ここまで読んでいただければ、
生存者バイアスについて
「入門 → 応用 → 深く学ぶための入り口」
という三段階は、すべてそろいました。
12. 疑問が解決した物語
――「見えていなかった人たち」に気づいた日
あの日から数日たった夜。
ミナさんは、自分のスマホで
「歌手 厳しい現実」「歌手 なれる人の割合」
と検索していました。
そこで目に入ったのが、
まさに今あなたが読んでいるような
「生存者バイアス」の解説記事でした。
読み進めるうちに、ミナさんの中で
少しずつピースがはまっていきます。
「私、テレビやSNSに出てくる
成功した人ばかり見てたんだ…。
その裏で、同じくらい頑張って
うまくいかなかった人のこと、
ほとんど想像してなかった。」
「生存者バイアスって、
まさに今の私のことかもしれない。」
そう気づいたとき、
「どうして分かってくれないの?」という
家族への怒りが、少しやわらいでいきました。
翌週末。
ミナさんは、ノートに簡単なメモを書き、
もう一度家族に話してみることにしました。
「この前は、急に“歌手になりたい”って言って
びっくりさせてごめんね。
あれから、生存者バイアスっていう考え方を知ったの。」
ノートには、こう書いてあります。
- 成功した人だけを見てしまう心のクセ
- 失敗した人の声は、そもそも表に出てこない
- だからこそ、意識して“見えない人”を想像する必要がある
「私は、テレビに出ている歌手や
オーディションで有名になった人だけを見て、
“私もきっとなれるはず”って
思い込みすぎてたんだと思う。」
少し間をおいて、ミナさんは続けます。
「でも、だからといって
歌手になりたい気持ちが消えたわけじゃないの。
現実もちゃんと知ったうえで、
どうチャレンジするか決めたいって思うようになった。」
ノートの次のページには、
ミナさんが考えた「これからの行動」が
短くまとめられています。
- 音楽の道に進んだ人・やめた人の両方に話を聞く
- ライブハウスで、実際に活動している人に相談してみる
- 高3になる前に、家族ともう一度「進路会議」をする
お父さんは、ゆっくりうなずいて言いました。
「勢いだけじゃなくて、
ちゃんと調べようとしてるのは分かった。
一緒に情報を集めて、考えてみようか。」
お母さんも、やわらかく微笑みます。
「そうね。
“見えていないほう”も考えたうえでの夢なら、
私たちも真剣に向き合いたいな。」
その夜ベッドの中で、
ミナさんは静かに考えました。

「夢を見ることと、現実を見ることって、
どちらかを捨てる話じゃないんだ。
生存者バイアスに気づけたから、
夢と現実の両方を持ったまま
進み方を選べるんだ。」
この物語からの教訓
- 成功した人だけを見ると、
「自分もきっとこうなれる」と
楽観しすぎてしまう - 失敗した人・途中で方向転換した人の姿も
想像に入れることで、
より現実的な覚悟とプランが持てる - 生存者バイアスを知ることは、
夢をあきらめるためではなく、
夢との付き合い方を賢く選ぶための一歩になる
読者への問いかけ
ここまで読んだあなたには、
もう「生存者バイアス」という
モヤモヤの名前が分かっています。
あなたの夢や目標は、何でしょうか?
そのイメージは、
「成功した人だけ」を材料にしていないでしょうか。
その影にいる、見えない人たちを少しだけ想像してみたうえで、
それでも、あなたはどうしたいですか?
もし何か心に引っかかるものがあれば、
ミナさんのようにノートを開いて、
「見えている人」「見えていない人」を
自分なりに書き出してみてください。
きっとそこから、
あなたなりの一歩目が、
少しはっきり見えてくるはずです。
13. 締めとしての文章
ここまで読み進めてくださったあなたは、
きっとどこかでミナさんの姿と、自分の姿を
少し重ねながら読んでくださったのではないでしょうか。
「夢を追いかけたい自分」と、
「現実もちゃんと見ておきたい自分」。
どちらか一方を選ぶのではなく、
そのあいだで揺れながら、
それでも前に進もうとする気持ちが、
画面の向こうに確かに伝わってきます。
生存者バイアスを知ることは、
世界の見え方を“冷たく”するためではありません。
見えていなかった人たちの存在に
そっと思いを向けられるようになることで、
自分の選択にも、他人の選択にも、
少しやさしくなれる視点を持つことだと、私は思います。
誰かの成功を「運がよかっただけ」と片づけるのでもなく、
誰かの失敗を「努力が足りなかった」と決めつけるのでもなく、
「見えていない条件はなかったかな」
「自分はどんな前提で、この人を見ているんだろう」
と、一歩引いて考えられること。
それは、これからの長い人生の中で、
あなたの心を守ってくれる大事な習慣になるはずです。
そして何より、
あなた自身の物語の“続き”は、
まだ白紙のページがたくさん残っています。
そのページに、
誰かの成功パターンをコピーするだけではなく、
あなたなりの試行錯誤や、悩んだ時間や、
小さな「それでもやってみたい」を
ていねいに書き込んでいってください。
今日この記事で学んだ「生存者バイアス」は、
そんなあなただけの物語を
少しだけ冷静に、少しだけやさしく
支えてくれる“メガネ”のような存在になればうれしいです。
補足注意
今回の記事では、著者が個人で調べられる範囲で、
信頼できる百科事典・専門サイト・学術論文・出版社情報などをもとに、
生存者バイアスの定義・歴史・代表例・神経科学的な背景・実生活への応用
をできるかぎり正確にまとめました。
ただし、
認知バイアスや脳科学の研究は、いまも進行中であること
生存者バイアスに関する「提唱者」や起源についても、
さまざまな解釈や説明が存在すること
ここでご紹介した本や場所も、あくまで一部にすぎないこと
を、ぜひ覚えておいてください。
🧭 本記事のスタンス
これは「唯一の正解」を示す記事ではありません。
「生存者バイアスって何だろう?」と思った人が、
自分で調べていくための入り口として書かれています。
別の専門家・別の本・別の立場からの説明にも、
それぞれ大切な視点があります。
このブログで「生存者バイアス」に興味が芽生えたなら、
ここで“生き残った要約”だけで満足せず、
原著や論文・専門書という〈まだ姿を見せていないデータ〉にもそっと潜って、
自分だけの理解を生き残らせてあげてください。

最後まで読んでいただき、
本当にありがとうございました。
どうか今日知った「生存者バイアス」に気づきながらも、
あなたの人生だけは自分の意志で選び取り、
その選択をそっと“生き残らせて”あげてください。

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